ようやく訪れた日の出
あれから何度も攻撃を仕掛けたが、刃は通さず、魔法も効かない怪物を相手に、二人は徐々に消耗し始めていた。
早く決着をつけなければ。そう思ったリーコンは例の爆弾を取り出す。奴にこれが効くかはわからないが、やらなければこっちがやられる。
その動きを察したピュアは、魔法で鎖を作り出し、投げ縄のように投げて怪物を縛り付ける。どうにかして逃れようと身を振り乱す怪物の前で、リーコンの投げた閃光爆弾が爆発する。
「やった!」
効き目はあった。ピュアは自身の扱える全ての武器を召喚し、怪物の無数にある顔目掛けて突撃させる。耳を塞ぎたくなるぐらいに不気味で大きな悲鳴が辺りに響き渡る。しかしそれは、ピュアの攻撃によるものではなかった。
「何あれ……」
「竜か? いやしかし――」
二人の目の前に現れたのは、見たこともない姿をした竜だった。厳密には二人共、龍の姿は伝承で語られる程度でしか知らないが、それでも目の前の巨体は異常だった。
その身に纏っているのは鉄の鎧だろうか。しかし青い光を放つ鎧など見たことも聞いたこともない。はっきり言ってその姿はとてもこの世のものとは思えなかった。
リーコンもピュアも、次はこいつが相手かと思っていたが、どういうわけか竜は二人を無視して遥か彼方の空へと飛び去ってしまった。その場に取り残された二人は、事の顛末にただただ唖然とするほかなかった。
それから数時間が経った。空が白み始めた頃、先程の戦闘により半壊した教会から、村の人々が出てきた。主が倒されたことで洗脳が解けたのだ。
人々はリーコンとピュアに感謝の言葉を述べ、邪教の影がない元の生活へと戻っていった。
「一件落着ってとこかしら」
朝日を全身で受け止めながら伸びをするピュア。そんな彼女に遅れて、リーコンが姿を現す。
「どうだった?」
「いなかった」
リーコンが探していたのは、教会の地下でこの宗教の実態を教えてくれたあの男だった。しかし奇妙なことに、彼の姿はどこにもなかったのでここに戻ってきたのだ。
「上手く逃げだせたのならいいが……」
「きっと大丈夫よ。とにかく……ようやく先に進めるわね」
まさか村に立ち寄っただけでこんな事態に巻き込まれるとは思ってもいなかったが、ピュアの言うとおり、ようやく先に進める。オオトシに辿り着くにはまだ一週間以上かかるが、もう今回のような目に遭うことはないと思いたい。
身支度を終え、いざ出発――といきたいところだったが、旅路に一人、仲間が加わったことを忘れてはいけない。
ピュアの肩を借りながら、その女は宿から出てきた。
「本当に大丈夫なのか?」
「止めても聞かないわよ。貴方にぞっこんだもの」
女はリーコンの姿を認めると、玩具を与えられた子供のように顔を輝かせる。そしてまだ怪我が完治していないにも関わらず、リーコンの胸に飛び込んだ。
「あぁ……私を受け入れていただいたことに感謝いたします、我が主よ」
彼女はあの教会の修道女だった女だ。名をエスケレナというこの女は、教祖である男を倒した後、倒壊した教会の中で生き埋めになっていたところをリーコンが発見したのだ。その後瀕死の彼女を救出し、一夜をかけて治療したところ、どうにか歩けるほどには回復したというわけだ。ピュアの魔法があればこれも大したことのない傷だったが、彼女自身も洗脳の影響で今まで動けなかったのだ。それでリーコンがつきっきりで看病したところ、どういうわけか懐かれたらしい。
「主なんて呼び方はよしてくれ」
「ならばどう呼べば?」
「リーコンで良い」
「しかしそれでは私と貴方が対等なようではありませんか」
洗脳されていただけで実際は被害者であるエスケレナは、意識を取り戻した直後からこうだった。リーコンを自身が仕えるべき相手と言って聞かず、常にこのような態度で接してくるのだ。
こちらとしては、これから仲間になるのにそんな仰々しい振る舞いはしてほしくなかった。それともう一つ、彼女がかつて主と呼んでいた男の立場に今度は自分が立ったようで居心地が悪いのだ。そのことを何度伝えても、エスケレナはこちらに敬意を払うのを止めない。
「では、“ご主人”はいかがでしょう。決して意味合いが変わるわけではありませんが、“マスター”でもよろしいかと」
「……」
結局、しばらくの押し問答の後、リーコンが折れる事になった。その際にエスケレナは満面の笑みで彼の事を“ご主人”と呼んだ。




