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第六十五話 崩界

 クレール王国西部。アヴァリティアス騎士団本隊から派遣された三人の『六天』 アルス・エルバート、シエル・リュミエール、レレア・クラインがクレール王国西部に出現した超巨大魔獣、『星導獣 ヴ・ドゥジュ』の討伐へ向け、ポテンティアから来た騎士と合流していた。ポテンティア騎士団から星導獣の討伐に来たのはブレン・リュトモスとロゼ・リュトモスの二人のみ。


 ブレン曰く、


「他の奴らじゃ話にならないから退かせた。撤退中で魔獣と戦闘する人員も必要だからな」


 それを聞いたアルスが


「まあ仕方ないだろう。遠距離かつ相当な威力が必要だ。ほぼ全戦力を連れて来ない限り、なかなか合う人物などいまい。それで、新しい情報はあるか?」


 と聞くと、ロゼが答えた。


「はい。事前に伝えた通り、あの魔獣は生物に魔獣の性質を付与する煙を放出しながらアヴァリティアス王国に向かっています。

 そして、あの魔獣の戦闘性能について分かりました。体表は相当な硬さの鱗と波導に覆われ、あの光る翼は超高密度の波導で形成されています。また、口からも波導を放出することが確認できました。魔獣の動きそのものはゆっくりですが、放出された波導は一秒足らずで四、五キロほど進み、五十キロ先で霧散しているかと」


「速ーっ!? ちなみに、ヤツの探知範囲はわかったー?」


「約二十キロ。ここから少し魔獣に近づけば探知されるくらいだ」


「あの魔獣自体が相当な大きさですからね、範囲も相当でしょう」


 星導獣 ヴ・ドゥジュの全長は尾を含めて約四十キロメートル、高さは二十五キロメートルほど。視覚や聴覚があまり発達していないため、探知範囲は体の大きさの割に狭い。



 情報を整理しながらアルスが言う。


「となると、オレたちの攻撃の射程からして向こうが先手を打ってくるな。波導放出を掻い潜ってある程度近づくほかないか」


「そうなります。わたしや兄さんの攻撃なら届かなくはないのですが、あまりダメージは期待できません」


「先に確認しておいたんだが、あの魔獣の攻撃は受け止められる。防御に関しては心配いらない。問題はこちらの攻撃だ。黒い霧の外、五キロほど離れたところが接近できる限界だ。そこから攻撃するとなるとどうしても距離減衰が効いてくる。とはいえ大技を放つタメを作ろうとすれば波導放出の餌食だ。だが、複数人での戦闘ならマシになる」


「では、火力が高いアルスやブレンさんが攻撃の準備をしながら、私、レレア、ロゼさんで防御する。これでいいでしょうか?」


 シエルの提案に全員が頷き、


「よし、行動開始だ!」





 地上をアヴァリティアスの三人が駆け抜ける。上空では全身を竜化したブレンとロゼが羽ばたいている。

 星導獣が彼らに気付いた。ゆっくりと五人の方に長い首の先にある頭を向け、波導を口に収束させる。そして、


「ギギギ……、ゴア゛ア゛ア゛!!!」


 何かが軋むような音を立てて咆哮する。大きく開いた口から放たれた波導が一直線に五人へ向かう。


「ここはわたしが!」


 ロゼが叫び、波導術を発動する。


 ロゼ・リュトモスの波導術は『静動双水(フローチェンジ)』。


 波導により水を生成、もしくはまとからある水に自身の波導を混ぜることで水を自在に操るというもの。波導で水を強化・変質させることである程度物理法則を無視した動きさえ可能である。


「"沿岸水流(カーブフロー)"!」


 波導を帯びた大量の水が空中で流れを作る。魔獣の波導放出が水と衝突すると、水の流れに沿って向きが変化し、先ほどまで一直線に向かっていた波導は明後日の方向へと飛んでいった。


 すかさず星導獣は二発目を放とうとする。それに気づいたシエルとレレアが前に出た直後、


「んなっ!?」


 星導獣の口から放たれた波導が何本にも割れていく。うねりながら細く伸びる波導のビームが五人に襲い掛かる。先に情報を集めていたブレンとロゼも見たことがない攻撃だが、


「"空華・連光(うろばな・れんこう)"」


 シエルが両手を合わせると同時、五人の前に眩い光が生じる。空間を走り、大気を爆発させる強烈な電流が星導獣の波導を相殺していく。ぶつかり合う波導により爆発と衝撃が広がる。



 煙が晴れた五人の目に映る、星導獣の追撃。一直線に迫る波導。

 前に出ていたレレアが波導術を発動する。


「だよねー、アタシだってそうする。初見の技に注目させて、相手が対応してできた隙を得意技で狩る。予想済みだよー」


 レレアが人差し指を伸ばし、一点に波導を集める。そして、


「バン!」


 放たれたエネルギーが星導獣の波導放出と衝突、激しい爆発とともに両者が消滅する。衝撃波と爆風が戦場を荒らしていく。


 木々が倒れ、地面が削れ、動物が逃げ惑う。



 地獄のような様相の中を疾走する黒い影、空中を飛んで行く緑の翼。



「七キロくらいか。ここからなら精度も十分だろう。


 "終末因・落星(テロス・アスティル)"」



「後押しするぜ、アルス・エルバート!


 "翠風(すいふう)・螺旋垂流(らせんすいりゅう)"」



 突然上空に出現した、星導獣を潰し得る巨大な隕石。落下する隕石の上部を青緑色の風が吹き荒れ、隕石を加速させていく。


 気づいた星導獣が顔を上に向けて波導を放出するが、落ちる星は止まることも、砕けることもない。


 空を縦に裂き、黒い霧を破り、隕石が星導獣の背に直撃する。


「キアアアアア!! ギャギャッ!!」



 衝突の音と魔獣の叫びが轟く。星導獣も自身の肉体と波導で隕石を受け止め、潰れないように堪えている。そこへ、



「受け取れ」



 アルスの言葉とともに出現する二つ目の隕石。星導獣の背中の上にある一つ目に直撃し、さらなる衝撃と重量が星導獣を襲う。


「ギァッ! ア、ガガッ……」


 唸りと叫びが混ざったような声を上げた後、四本の脚の関節が折れて巨大な肉体が潰れる。

 隕石が地面に衝撃し、土煙が上がる。

 星導獣の側にいた魔獣と生物の融合体も巻き込まれて潰れていた。


「終わったか。後は霧の処理に気を付けないといけな――」


「下がれ、アルス!! ロゼ、お前たちもだ!!」


 上空を飛んでいるブレンが叫ぶ。


 その直後、



「ジジジ、ギギッ。キィッー……



 ゴオ゛オ゛オ゛オ゛ッ!! ガア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」




 隕石が砕け散る。大地に亀裂が入り、土と植物が沈んでいく。

 吹き飛ぶ黒い霧。

 噴き出す白い煙。



 最後にアルスたちが捉えたのは赤、青、紫色の光。魔獣の肉体と翼は真っ黒に染まり、背の上には白と黄金の光の輪が浮かんでいた。


 復活した星導獣がこれまでの比ではない波導を全身から放つ。

 暴力的な光と圧倒的な破壊力が解放され、万物が崩れ去る。

 歪む空間。

 禍々しい光。


 全てを吹き飛ばし、魔獣が咆哮する。



「シューッ、ヴァアアア゛ア゛ア゛!!!」



 その声は、遠く離れた場所にいるアヴァリティアス騎士団の本隊にさえ届いていた。

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