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『従姉妹と姉と妹に囲まれて、俺の平穏は今日もない!』  作者: 優貴(Yukky)


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第4話 「昔の記憶が、少しだけ顔を出す」

放課後の校舎は、妙に静かだった。

窓から差し込む夕日が長く伸びて、廊下の影を濃くしている。

その中を、俺――高瀬 湊は、春乃に手を引かれながら歩いていた。

篠宮 春乃は、いつも通り明るい。

でも今日は、その明るさの奥に少しだけ違う温度が混ざっている気がした。

「どこ行くんだよ」

「いい場所」

「それ答えになってない」

後ろから足音。

振り返らなくても分かる。

姉の高瀬 美月だ。

「春乃、離しなさい」

低い声。

さらに、少し遅れて。

「……湊」

篠宮 雪乃の声は静かだった。

その後ろから、勢いよく。

「待ってよー!」

妹の高瀬 陽菜。

気づけば、また“全員集合”している。

屋上前の廊下。

春乃が足を止めた。

「ここ」

「ここって……立ち入り禁止じゃ」

「バレなきゃいい」

「よくない」

春乃はくすっと笑って、ドアを押す。

ギィ、と重い音。

鍵は、なぜか開いていた。

「おかしいだろ」

「昔も開いてたよ」

その言葉に、少しだけ違和感が走る。

「昔?」

春乃は答えず、先に階段を上がる。

他の三人も黙ってついてくる。

美月は警戒した目。

雪乃は無表情。

陽菜は少しだけ不安そう。

そして俺は、ただ置いていかれないように歩く。

屋上。

風が強い。

夕焼けが街全体を染めていた。

春乃は柵の近くに立つ。

「ここ、覚えてる?」

「いや全然」

即答。

春乃は少しだけ笑う。

「そっか」

その横で、雪乃が静かに言う。

「湊は覚えてない」

「何を?」

その瞬間。

空気が一瞬止まる。

美月が視線を細める。

「……春乃」

「なに?」

「何の話?」

春乃は柵にもたれながら、軽く言う。

「昔の話だよ」

「だから何の」

陽菜が不安そうに俺の服を掴む。

「お兄ちゃん……?」

そのときだった。

春乃が俺を見た。

真っ直ぐに。

「湊くんさ」

「なに」

「昔ここで、約束したよね」

――頭の奥が、少しだけ揺れる。

何かが引っかかる。

でも思い出せない。

雪乃が小さく息を吐く。

「やっぱり忘れてる」

美月が一歩前に出る。

「……その約束、内容は?」

春乃はすぐには答えない。

ただ、風の音だけが響く。

そして――

「“また会おうね”」

その一言。

それだけなのに、妙に重い。

一瞬、誰も動かなかった。

陽菜が小さく言う。

「それだけ?」

春乃は振り返る。

「それだけ、だと思う?」

雪乃の目がわずかに細くなる。

「……春乃、それ以上は」

「だってさ」

春乃は笑う。

でも、その笑顔は少しだけ寂しい。

「湊くん、本当に覚えてないんだもん」

俺は言葉を失う。

覚えていない。

その事実だけが、妙に引っかかる。

美月が静かに言う。

「湊、帰るわよ」

陽菜も頷く。

「うん……帰ろ」

雪乃も背を向ける。

「ここ、長くいる場所じゃない」

春乃だけが残る。

風の中に立ったまま。

帰り道。

誰もあまり喋らなかった。

ただ、隣にいる。

それだけは変わらない。

陽菜は少しだけ俺の袖を握ったまま歩く。

美月は前を見ている。

雪乃は一歩後ろ。

そして春乃は、何も言わない。

だが、確かに“何か”が動き始めていた。

家に着く前、春乃がぽつりと呟く。

「ねえ湊くん」

「なに」

「思い出すの、時間かかりそう?」

俺は答えられない。

春乃はそれを見て、少しだけ笑った。

「まあいいや」

その笑顔の奥に、確かな意志があった。

そして俺はまだ知らない。

この“昔の約束”が――

ただの思い出じゃ済まないことを。

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