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『従姉妹と姉と妹に囲まれて、俺の平穏は今日もない!』  作者: 優貴(Yukky)


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第8話 「姉の涙と、閉まらない距離」

夕方の部屋。

窓から差し込む夕日が、高瀬 美月の横顔を赤く染めていた。

涙を見たのは、たぶん久しぶりだった。

小さい頃に一度。転んで膝を擦りむいた時。

それ以来、俺――高瀬 湊の前で、美月が泣いたことなんてなかった。

なのに今。

目元を隠すみたいに俯いて、声を震わせている。

「……だから、ずっと隣にいたかったの」

その一言が、頭から離れない。

俺はしばらく黙ったまま、美月を見ていた。

どう返せばいいのか分からなかった。

でも。

黙ったままなのも違う気がした。

「美月」

名前を呼ぶ。

すると、少しだけ肩が揺れた。

「……なに」

「ありがとう」

それしか出てこなかった。

美月は目を見開いて、それからすぐに目を逸らす。

「なんでお礼なのよ」

「だって」

喉が詰まる。

でも言葉は、思ったより素直に出た。

「ずっと俺のこと考えてたんだろ」

その瞬間。

美月の耳まで赤くなる。

「……別に」

「嘘」

「うるさい」

いつもの口調なのに、声が弱い。

それが余計に、胸に残る。

そのとき。

ガチャ。

ドアが開いた。

最悪のタイミングで。

「お兄ちゃん、アイス――」

高瀬 陽菜が固まる。

部屋の中。

ベッドの端に座る美月。

その隣に立つ俺。

距離、近い。

沈黙。

陽菜の顔がゆっくり変わる。

「……なにしてるの?」

「違う」

反射で答える。

「何も言ってないけど!?」

「違う!」

美月が咳払いして立ち上がる。

「話してただけ」

陽菜がじとっと見る。

「近い」

「たまたま」

「赤い」

「夕日」

「泣いてた?」

一瞬、空気が止まる。

美月の視線が逸れる。

陽菜が俺を見る。

その目が真剣になる。

「……お兄ちゃん」

「ん?」

「お姉ちゃん泣かせた?」

「違うって!」

その夜。

風呂上がり。

ようやく一人になれると思ったのに。

部屋のベッドに、先客がいた。

篠宮 雪乃だ。

静かに座って、本を読んでいる。

「なんでいるの?」

「待ってた」

「怖い言い方やめろ」

雪乃は本を閉じる。

その目が、まっすぐ俺を見る。

「美月さん、泣いてた」

「……見てたのか」

「少し」

少しで分かる位置にいたのが怖い。

雪乃は少し間を置いて言う。

「私も怖かった」

「何が」

雪乃は窓を見る。

風がカーテンを揺らす。

月明かりが頬に落ちる。

「また、いなくなるの」

その声は小さい。

でも、はっきり届いた。

「……俺、そんなに」

言いかけて止まる。

そんなに、失ったら嫌なのか。

聞くのが怖かった。

雪乃は少しだけ笑う。

珍しく、本当に少しだけ。

「うん」

それだけだった。

でも、その一言が重い。

さらにその数分後。

ノックなしでドアが開く。

「お兄ちゃんー!」

陽菜。

そしてその後ろから。

「やっぱりここにいた」

春乃。

篠宮 春乃が笑っている。

そして全員止まる。

部屋の中。

雪乃がベッド。

俺その前。

陽菜入口。

春乃後ろ。

数秒の沈黙。

春乃がにやっと笑う。

「ふーん」

嫌な笑い方だ。

陽菜が俺の腕を掴む。

「お兄ちゃん、今日は私とゲーム!」

雪乃が即答。

「先に話してる」

春乃がベッドに座る。

「じゃあ私も混ざる」

「狭い!」

その瞬間。

廊下から声。

「湊」

まただ。

美月だ。

扉を開けて、固まる。

全員集合。

俺の部屋。

完全に終わってる。

美月が無表情で言った。

「……会議?」

春乃が笑う。

「取り合い」

「違う!」

俺の叫びは、当然のように無視された。

その夜。

結局全員居座った。

勉強をするはずが雑談になり、雑談が口喧嘩になり、口喧嘩が席争いになる。

誰が俺の隣に座るかでじゃんけん。

誰が先に話すかで押し合い。

意味が分からない。

でも。

騒がしいのに、どこか安心してしまう自分がいた。

ベッドに倒れたあと。

天井を見ながら思う。

記憶が戻るのは怖い。

でも――

こんな風に、誰かが本気で心配してくれていたことを知るのは。

少しだけ、嬉しかった。

その時。

スマホが震える。

メッセージ。

送り主:美月。

『今日はありがとう』

直後。

もう一件。

送り主:雪乃。

『消えないで』

さらに。

送り主:陽菜。

『明日も一緒に寝たい!』

最後。

送り主:春乃。

『次は二人で話そっか』

……眠れるわけがなかった。

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