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転生しても『次も、お前だ』なんて言わないで  作者: タツナミソウ


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1/8

1・そして、侵食されていく

POV:ノア

 

 エリシオン王国――


 どこかでは“楽園”と呼ばれるその地で。



 精霊の住処であるはずのイリーニ大森林に、突如瘴気が発生し、魔物が大量に出現した。

 そしてそれらは、イリーニ大森林から王都方面へと流れ出した。

 大規模なスタンピードだ。


 国王は、早急に騎士団と魔術師団を派遣。

 いち早い魔物の殲滅と、原因の究明を命じた。



 立ち昇る黒煙。

 漂う異臭。

 血に濡れた鎧。

 初めて見る変異体の魔物。


 そして、そこに精霊はいない。


 ――何もかも、おかしかった。


 発生源を突き止め浄化しない限り、瘴気は消えない。

 しかし丸一日、時間だけが過ぎていく。

 終わりのない戦いに、皆限界だった。


 夕暮れ時。


 魔物が一時なりを潜めたため天幕内で、騎士団員と魔術師団員の意見交換が行われていた。


「ノア筆頭でも、発生源は解らずか⋯⋯」

「ええ⋯⋯。アレス騎士団長、聖女様はやはりまだ来られないのですか?彼女の浄化魔法は必須です」


 いくつかの苦悶の声と、溜息が混じり合う。


「戦況報告と共に、幾度も話をしているみたいだが⋯⋯発生源が分かり次第向かう、の一点張りだそうだ」

「相変わらずですね。⋯⋯最終手段しかないのでしょうか」


 天幕の片隅に積まれた木箱を見やる。


「魔道具を使った結界か」

「ええ、イリーニ大森林と王国側を区切るように結界を張ります。魔物は結界に近寄れませんので、イリーニ大森林に留まり、こちら側へ来る事はありません」


 ――だが、それをしてしまえば。


「精霊を見捨てる事になるでしょう。神に石を投げる行為だ」

「⋯⋯神に背いて国を守るなんて滑稽だな」


 アレスは額に青筋を浮かべ、固く拳を握っている。

 誰もが下を向いた。


 外の風の音だけが、ごうごうと響いている。

 ごくり、と喉を鳴らす音がした後。


「⋯⋯精霊様は本当に居らっしゃるのでしょうか?」


 一人の騎士団員が、静寂を破った。


「本当に精霊が居るなら、その場所は聖域化し、瘴気が発生するなど無いはずですよね!?⋯⋯私は結界を張るべきかと」

「⋯⋯確かに、見た物はいないが⋯⋯」

「いるだろう。俺の祖母が見たと言っていた」

「いや、それ何年前の話だよ!!」


 口々に論争が始まり、一気に騒々しくなる。


「――お前ら少し黙れ!!」


 アレスが怒鳴り机を叩くと、皆水を打ったように静まり返る。

 ノアが静かに言う。


「⋯⋯少し、休憩しましょう。その後に最終決定をします。アレス騎士団長、私は外の様子を見てきます」

「ああ、わかった」


 天幕の外に出ると、春の草花の香りに混ざり、何とも嫌な臭いがした。


 所々に張られた天幕。

 両団員達が束の間の休息をとっている。

 皆、口を開かない。


 自然と視線が落ちる。

 割れた地面。焼け焦げた跡。


(⋯⋯ここで、終わるのか?)


 重く、深く、息を吐いた。



 ――ノア・アルデバランの人生は、まさに魔法一色だった。

 公爵家の次男として、膨大な魔力量で産まれてきた。

 幼い頃から魔力暴走が起きないように、魔力操作を叩き込まれたらしい、が。

 その記憶は、不思議なほど抜け落ちている。


 だが、一つだけ確かなことがある。

 ずっと誰よりも強くなろうとしてきた。


 弱冠二十歳で王宮筆頭魔術師になり、幾度も最前線で魔物を屠ってきた。それなのに――


「結局最後は、聖女に頼らないとどうにもできないとはな」


 眉根を寄せ、独り言ちる。


 (精霊や妖精を見れなかった事は、残念だったな⋯⋯)


 建国当時、沢山いたと伝えられている精霊や妖精達。

 現在は、その存在は幻だ。


『住める環境ではなくなった』

『人間が精霊の想いを無下にしたから』

 ――囁かれる原因はどれも眉唾物だ。


 ぐっと拳に力をこめ、唇を噛んだ。


(あの騎士団員の言う通りだ。⋯⋯それはわかっている)


 瘴気など湧かないはずだ。

 “精霊がこの場所にいるならば”。


 ――精霊はこの国を見捨てたのか?


 息が苦しくなる。

 耳鳴りだけが五月蝿い。まるで警報だ。

 それを払拭するように、(かぶり)を振る。


 その時、ふと魔力の揺れを感じ、顔を上げた。


「⋯⋯⋯?」


 目を凝らすと、イリーニ大森林の奥で何かが蠢いていた。

 その影は徐々に大きくなり、バキバキと木の割れる音が響く。


「なんだ!何事だ!」

「お、大型の魔物だ!!」


 音より遅れて、地面から振動が伝わる。


 悲鳴と喧騒が上がる中、踵を返す。

 団員達にいくつか指示を飛ばし、対象へと急ぐ。


 近づくにつれ、重苦しい魔力を感じる。

 耳を(つんざ)く咆哮。無意識に怯む身体。


 そこには大型のオーク五体が、禍々しい目でこちらを見下ろしていた。


「私が拘束魔法で縛る!攻撃を頼む!」


 そう叫び、仲間の先頭に出る。


「魔力枯渇で死にますよ!!」

「簡単には死なない、頼むぞ!!」


 皆を安心させる為、笑顔で伝えた。


 対象付近で止まり、集中する。

 五体を同時に捕捉。足元に魔術陣が発現する。


「《拘束》」


 魔術陣からジャラジャラと鎖が飛び出し、五体の体に巻き付き縛り上げる。

 それを合図に、魔術師団員が同時に攻撃魔法を放つ。

 続けて、騎士団員はオークの脚を切り落とす。

 オークは悲鳴を上げ、鎖を解こうと身を捩る。

 引き摺られ、足が地面に線を刻む。


「もう少しだ⋯!踏ん張れ!!!」

「おおおお!!!」


 霞みはじめる視界。

 心音があがり、汗が滲む。


 ――ふと、上空で影が動いた。

 見上げると、そこには飛行型の魔物がいた。


「魔鳥だ!!避けろ!!」


 鋭い爪と(くちばし)を持った魔鳥は、目にも止まらぬ速さで地上に降って来る。

 その先には、一人の魔術師団員。

 魔鳥の突きをまともに喰らえば、確実に死ぬ。


(くそ⋯⋯!!)


 ノアは拘束魔法を保ちつつ、防御魔法を放つ。

 氷の壁が団員を覆う。

 間に合った。そう安堵したのは一瞬。


 魔鳥が空中でピタリと止まった。

 そして、有り得ない軌道でこちらへ来る。



 ――ああ、死ぬ。



 ドン、と重い振動と音が体に響いた。



「筆頭!!」

「ノア様!!いぁああ!!!」

「か、回復を⋯⋯!!」


 右肩から腹部へ走る激痛。

 視線の端で自身の右腕が宙を舞った。

 大量の血が漏れ、意識が遠のいて行く。



 その瞬間――眩い光が視界を埋めた。


「眩しっ⋯⋯」

「なんだ!!」

「筆頭は!?」


 団員達が口々に声を上げ、次に魔物の断末魔が重なり聞こえた。


 ふいに誰かの手に体を支えられ、薄く目を開ける。


 ――音が消え、息が止まった。


 真珠のような髪が、光を弾く。

 その奥で、黄金が煌めいた。


「⋯⋯っ!?」

「味方です。大丈夫」


 彼女は、ノアの右肩へ手を翳す。

 すると、体内に暖かい魔力が流れてくる。

 キラキラと光の粒が舞い、痛みが消えていく。


 はっと見ると体中の傷が塞がり、失ったはずの右腕が戻っていた。


「治りました。安心してください」


 彼女はにこりと微笑むと、立ち上がり光の中へと消えていった。


 ノアはそれをただ呆然と見送った。


 ――人、ではない。


 光に包まれたその存在は、あまりにも静かで、あまりにも美しかった。


 血の匂いも、魔物の咆哮も、何もかもが遠のいて――ただ一つ、黄金の瞳だけが、焼き付いて離れない。


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