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転生しても『次も、お前だ』なんて言わないで  作者: タツナミ ソウ


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1/3

1・そして、侵食されていく

 

 エリシオン王国――


 どこかでは“楽園”と呼ばれるその地で。



 精霊の住処であるはずのイリーニ大森林に、突如瘴気が発生し、魔物が大量に出現した。

 そしてそれらは、イリーニ大森林から王都方面へと流れ出した。

 大規模なスタンピードだ。


 国王は、早急に騎士団と魔術師団を派遣。

 精霊達のため、選りすぐりの精鋭達を送り出した。

 そして、いち早い魔物の殲滅と、原因の究明をするよう命じた。



 立ち昇る黒煙。

 漂う異臭。

 血に濡れた鎧。

 初めて見る変異体の魔物。


 そして、そこに精霊はいない。



 ――何もかも、おかしかった。



 発生源を突き止め浄化しない限り、瘴気は消えない。

 しかし、丸一日、時間だけが過ぎていく。

 終わりのない戦いに、皆限界だった。


 夕暮れ時。


 魔物が一時なりを潜めたため、イリーニ大森林入口より少し離れた平原の天幕内で、騎士団員と魔術師団員の意見交換が行われていた。


「未だ発生源は解らずか⋯」

「⋯ええ。探索魔法でも、原因と思える物はまだ引っ掛かりませんね⋯」

「ノア筆頭の魔法でも無理か⋯」

「アレス騎士団長、聖女様はやはりまだ来られないのですか?⋯彼女の浄化魔法は必須です!」


 無意識に言葉が強くなる。

 いくつかの苦悶の声と、溜息が混じり合う。


「それがな⋯戦況報告と共に、幾度も話をしているみたいだが⋯発生源が分かり次第向かう、の一点張りだそうだ」

「相変わらずですね⋯最終手段を取るしかないのでしょうか」

「魔道具を使った結界か」

「⋯⋯ええ、イリーニ大森林と平原側を区切るように結界を張ります。魔物は結界に近寄れませんので、平原側には来られず、イリーニ大森林に留まります」


 ――だが、それをしてしまえば。


「⋯⋯見捨てる事になるでしょう。神に石を投げる行為だ」

「⋯⋯神に背いて国を守るなんて滑稽だな」


 アレスは額に青筋を浮かべ、固く拳を握っている。

 誰もが下を向いた。


 外の風の音だけが、ごうごうと響いている。


 ごくり、と喉を鳴らす音がした後。


「⋯精霊様は本当に居らっしゃるのでしょうか⋯」


 一人の騎士団員が、静寂を破った。


「⋯本当に精霊が居るなら、その場所は聖域化し、瘴気が発生するなど有り得ないはずですよね!?⋯私は、結界を張って良いと思います」

「⋯確かに、見た物はいない⋯が⋯」

「いるだろう。俺の祖母が見たと言っていた」

「それ何年前の話だよ!」


 口々に論争が始まり、一気に騒々しくなる。


「お前ら少し黙れ!」


 アレスが、ドン!!と机を叩くと、水を打ったように静まり返る。

 ノアが、静かに言う。


「⋯⋯少し、休憩しましょう。その後に最終決定をします。アレス騎士団長、私は外の様子を見てきます」

「ああ、わかった」


 天幕の外に出ると、春の草花の香りに混ざり、何とも嫌な臭いがした。


 所々に張られた天幕。

 両団員達が束の間の休息をとっている。

 皆、口を開かない。


 荒れ果てた大地を見渡す。


 自然と視線が落ちる。

 割れた地面。焼けた後。


(⋯⋯ここで、終わるのか?)


 重く、深く、息を吐いた。




 ――ノア・アルデバランの人生は、まさに魔法一色だった。

 アルデバラン公爵家の次男として、膨大な魔力量で産まれた。

 魔力暴走が起きないように、物心がつく前から感情の抑制と、魔力操作を教え込まれたらしい。が⋯⋯

 幼少の記憶は、不思議なほど抜け落ちている。


 やがて、王立学園に通い、王宮魔術師団に出仕。

 弱冠二十歳で王宮筆頭魔術師になった。


 幾度も最前線で魔物を屠った。

 誰よりも強くあろうとした。



 だが――



「結局最後は、聖女に頼らないとどうにもできないとはな⋯」


 眉根を寄せ、独り言ちる。


 (心残りがあるとするならば、やはり、精霊や妖精をこの目で見れなかった事だったが⋯)


 建国の当時、沢山いたと言う精霊や妖精達。

 現在は、滅多に会えるものではなくなっていたのだ。


 いくつもの論文や伝承、物語を見ると、

『住める環境ではなくなった』

『人間が精霊の想いを無下にしたのだ』

 など、様々な原因が上げられているが⋯どれも眉唾物だ。


 ぐっ、と拳に力をこめ、唇を噛んだ。


(⋯あの騎士団員の言う通りなのはわかっている)


 瘴気など湧かないはずだ。

 “精霊がこの場所にいるならば”。

 本当に、もう居ないと言うのか?


 ――精霊は人間を見捨てた⋯?


 息が苦しくなる。

 耳鳴りだけが五月蝿い。まるで警報だ。

 それを払拭するように、(かぶり)を振る。


 その時、ふと魔力の揺れを感じ、顔を上げた。


「⋯⋯⋯?」


 目を凝らすと、平原の先、イリーニ大森林入口の更に奥で何かが蠢いていた。

 その影は徐々に大きくなり、バキバキと木の割れる音が響く。


「なんだ!何事だ!」

「あれは⋯大型の魔物だ!!」


 音より遅れて、地面から振動が伝わる。


 悲鳴と喧騒が上がる中、踵を返す。天幕へ戻り、団員達にいくつか指示を飛ばし、対象へと急ぎ向かう。

 ノアは全力で走った。


 対象に近づくにつれ、重苦しい魔力を感じる。

 耳を(つんざ)く咆哮。無意識に怯む身体。


 ――そこには、建物五階分はあるだろう超大型のオーク五体が、禍々しい目でこちらを見下ろしていた。


「私が拘束魔法で縛る!限界まで維持する!攻撃を頼む!」


 ノアが仲間の先頭に出る。


「そんな、魔力枯渇で死にますよ!!」

「簡単には死なない、頼むぞ!!」


 皆を安心させる為、笑顔で伝えた。


 対象付近で止まり、集中する。

 対象五体を捕捉。足元に魔術陣が発現する。


「《拘束》」


 魔術陣からジャラジャラと鎖が飛び出し、五体の体に巻き付き縛り上げる。

 それを合図に、魔術師団員が同時に攻撃魔法を放つ。続けて、騎士団員はオークの脚を切り落とす。

 一体、二体と倒れていき、残り三体になった時、ノアは鎖を伝うように攻撃魔法を放った。


 オークは悲鳴を上げ、鎖を解こうと身を捩る。

 引き摺られる。足が地面に線を刻む。


「もう少しだ⋯!踏ん張れ!!!」

「おおおお!!!」


 (あと少し、もう少しだ)


 霞みはじめる視界。

 心音があがり、汗が滲む。


 ――その時、上空で影が動いた。


 羽音が聞こえ見上げると、そこには飛行型の魔物がいた。


「魔鳥だ!!!避けろ!!!」


 鋭い爪と(くちばし)を持った魔鳥は、標的を定め、目にも止まらぬ速さで地上に降って来る。

 その先は、一人の魔術師団員。

 迫り来る魔鳥に攻撃を放とうとするが、魔法の展開が間に合わない。

 魔鳥の突きをまともに喰らえば、確実に死ぬ。


(クソ⋯!!間に合え⋯!)


 ノアは拘束魔法を保ちつつ、防御魔法を放つ。

 氷の壁が、団員を覆う。

 間に合った、そう安堵したのは一瞬。


 魔鳥が空中で止まった。

 有り得ない軌道で、こちらへ来る。



 ――ああ、死ぬ。



 思うと同時に、ドン、と重い振動と音が体に響いた。


「筆頭!!」

「ノア様!!いやあああ!!!」



 揺れる視界。右肩から腹部へ走る激痛。

 視線の端で自身の右腕が宙を舞った。

 口からは大量の血が漏れ、意識が遠のいて行く。


(⋯⋯こんな所で死ぬものか⋯!)


 そう思った瞬間、眩い光が視界を埋めた。

 そこにいたものは皆、眩しさに目を開けていられない。


「な、なんだ!!」

「筆頭はどこだ!!」


 周辺にいたであろう両団員達が口々に声を上げ、次に魔物の断末魔が重なり聞こえた。


 ノアは、ふいに誰かの手に体を支えられた。

 薄く目を開け、その相手を見る。



 ――音が消え、息が止まった。



 真珠のような髪が、光を弾く。

 ⋯⋯その奥で、黄金が光った。


「⋯⋯っ!」

「味方です。大丈夫」


 彼女は、ノアの右肩へ手を翳し、何かを呟く。

 体内に暖かい魔力が流れてくる。その心地良さに、思わず目を瞑りそうになった。

 キラキラと光の粒が舞い、痛みが消えていく。


 はっ、と見ると体中の傷が塞がり、失ったはずの右腕が戻っていた。思わず手を動かしたが、問題なく力も入る。


「治りました。安心してください」


 彼女はそう言い、にこりと微笑むと、立ち上がり光の中へと消えていった。


 ノアはそれを、ただ呆然と見送った。



 ――人、ではない。


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