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6話 中章1

翌日。

俺は異能者の出現情報もないため、仕方なく登校するしかなかった。俺にとって2日連続の登校というのは槍の雨が降ってくるレベルであるため、そのせいということにしておくが、学校では天変地異レベルの衝撃の出来事が起きている。

「お前ら、転校生だぞーー」

担任である白水(しらうず)先生の声と共に、制服を包んだ歌が姿を現す。

「「「「「「ディーバッ!!!!!」」」」」」

歌の姿を捉えた瞬間、教室中の男女が騒ぎ立てる。感激のあまり泣き出す女生徒、目をハート型にするような男子生徒。怪訝な顔でこちらを見てくる修多羅砕破(すたらさいは)と、有名人の登場に目を輝かせる闇無走(くらなしそう)

まさしくカオスとも言える状況だが、歌はそれらを見渡し、人差し指を立てて唇に押し当てる。

「しぃーーーッ」

その動作一つで騒ぎを収めた。

「はい、皆さんが静かになるのを俺何もできなかったが、歌さんに自己紹介をしてもらうぞー」

白水は生徒達を叱りつけるためのテンプレをわずかに外しながら、歌の名前を黒板に書き連ねる。

神代歌(こうじろ うた)です。みんな、よろしくね」

そう言って、彼女は俺に向かってウインクしてきた。そして、そのせいで教室中がほぼ敵に回った。

「お、修多羅の前が空いているな」

「先生、そこは今日休みの人ですよ」

「あぁ、そっか」

修多羅が注意をすると、白水は数秒考えてから、再びその席へを指差す。

「机は増やしゃいいし、そこに座れ」

「あ、はい」

促されるまま歌はそこへと歩き、席へと座る。

横には闇無走、後ろには修多羅砕破、斜め後ろは俺。これで、知り合いばかりの包囲網が完成しちまったよ。

「言ちゃん!歌だよ!」

先ほどまで目を輝かせていた走だったが、横に来た事実を受け入れることができず、先ほどから俺に向かって話しかけ続けている。

「そうだな」

「そうだなって!世界的歌姫なんだよ」

「歌姫は世界中にいっぱいいるぞ」

「そうかもだけど!歌さんは別格なの!」

「そうか」

「そうかって!すごいことなんだよ!人生の運とかを使い切るレベルなんだよ!」

ていうことは、昨日今日で二回分の人生の運が死んだことになるな。たかだか、歌が上手いだけの人間のためだけに。

「ねぇ、あなたの名前はなんていうの?」

俺の方を見ていた走の手を取って、歌は話しかける。

「わ、私の名前は、走って言います」

「走ちゃん!素敵な名前ね」

走は顔の原型を崩しながらも、なんとか会話をしている。まぁいずれ慣れるだろう。

「ちょっと、言葉」

「んだよ、修多羅」

「あんた、またあれでしょ」

「あれとは」

「惚けないでよ。どうせ厄介事でしょうが」

「まぁな」

昨日、戦闘を終えた後、殲滅会に行って聞かされたことはこうである。

「ディーバの護衛をしながら、学校生活を送らせてほしい」と。

前者に関しては世界的に有名ということと、歌声の影響力の大きさから、国へ連れ帰ろうとする他国のエージェントから、心を奪われたストーカーまで、誘拐しようとする輩が後を立たないらしい。また、場合によっては殺されるような目にもあったらしく、彼女のマネージャーが全方位に助けを求めた結果、不知火さんの耳に入ったようで、そこから千里さん、そして俺みたいな感じでとんとん拍子に話が進んだ。

そして、後者に関しては歌活動ばかりでまともな青春を送ってないから。という彼女の個人的な願いだ。

「はぁー、できることとやれることは限られると思うんだがな」

俺は大前提として殺し屋だ。

死ぬか生きるかという極限の選択肢の中でしか迫られたことがないために、相手を殺さないように無力化するという器用な真似ができると思えない。

「向いてないよな」

まぁ、一般人相手であれば異能を使いはしないが。

「じゃホームルームは終わりだ。じゃ、授業のための準備を始めろよーー」

白水が教室を去ると、クラスメイトは歌を一斉に囲む。そこで始まる質問攻め。

教室の外には他クラスの生徒が歌を一眼でも見ようと押し寄せる。

「はぁー、うるせぇな」

人口密度も高い上に、すこぶるうるさい。

こういう時は毎度屋上に向かっていたのだが、行き道を塞がれている上に、今は護衛の真っ最中だ。彼女から半径10メートルの中には必ずいろとの依頼のため、離れることも叶わない。

「あ、あはは…、歌さんと話しちゃった……」

走は目の前で抜け殻になっており、修多羅は人の濁流が迫る前に、どこかに行ってしまった。

「はぁー、早く時間が経たねぇかなぁ」

時刻は9時。外は太陽が登ったばかり。

護衛依頼が10日間だが、こんな日常ばかりが続くと思うと、辟易するばかりだ。

「先輩、頑張ってますね」

「なんでいるんだよ、お前」

いつ侵入したのか、そしていつ入手したのか。制服に身を包んだ銀鏡が、人混みに紛れて姿を現した。

「どうですか?まだまだいけるでしょ」

着ている制服をアピールする銀鏡。

それを着ているのが20歳の大学生であり、生意気な後輩であることを含めると。

「キッツ」

「え?先輩なんて言いました?」

思わず口から漏れてしまった言葉は銀鏡の逆鱗に触れたらしく、胸倉を掴まれた。

「ねぇねぇねぇ、先輩。なんて言いましたって」

騒ぐクラスメイト、迫ってくる後輩。

端的に言うと、全員うるさい。

キーンコーンカーンコーン。

そのカオスを切り裂くように、学校のチャイムがなって、それに気づいた生徒はどんどん散っていく。

「先輩、後で怒りますからね。覚悟しといてくださいよ」

殺気を孕んだ冷徹な視線を俺に浴びせながら、銀鏡は教室を出て、反対に修多羅が教室へと入る。

「え、今制服を着ていた銀鏡さんがいなかった?」

「いたよ」

「大学生…よね?」

「………まぁな」

それ以上俺と修多羅は会話をすることをやめた。

その後は授業が始まり、午前の終わりである4限目まで何事も起きることはなく終わった。

「歌さん!一緒にご飯食べない?」

走は4限目のチャイムが終わるとともに、開口一番で教室中に聞こえる声で言った。

周囲の牽制をすると共に、標的を誘う。

走、お前が凄腕の誘拐犯だよ。

「うん!いいよ!」

それに対して、歌は笑顔で応える。

そのため、周囲は歯噛みをすることしかできなかった。

「言ちゃんと砕ちゃんも来るよね?」

「ええ。でも、言葉はくるの?」

「あぁ、いくよ」

仕事だからな。

その枕詞をいわず、俺は大人しく食堂へと着いいく。俺らの教室は2階にあって、食堂は4階にある。つまり、いくためには2階分の階段を登ることを要求されるため、歌を目撃されて突撃されるのも面倒になる。

だが、ここで銀鏡の出番である。

ポケットの中にあるインカムの電源を入れて、こめかみを掻く動作で誤魔化しながら、耳元へと装着する。

「銀鏡、頼んだ」

『了解です』

その合図で銀鏡は《誘導》を発動させる。

4人で廊下を歩く頃には歌など目に入ってないように、生徒達は互いの話に夢中になっている。

「間に合ったか」

そうして安全策を張った上で食堂へと行き、3人が盛り上がりながら食券を買っているのを横目に見ながら、購買でサンドイッチと牛乳を買って、端っこのテーブル席を確保する。

「はぁー、疲れる」

「先輩なんもやってないじゃないですか」

「やってるだろ?護衛とか護衛とか護衛とか」

「私、異能を使ってるんですよ?」

「強くなったんだろ?これぐらいこなせるようになれよ」

「先輩は私を褒めてくれませんよね」

「そうか?」

「そうですよ」

背中を預けられるぐらいには信頼している。

俺としては最上級の褒め方だと思っているが、こんなことは舌が引きちぎれても言わない。

「よくやってるよくやってる」

「もう!テキトーッ!」

さて、今のところ問題ない。

銀鏡に異能を発動してもらっているため、食堂で問題が起きることはそうそう無いとは思うが、イレギュラーなんぞいくらでも起きるからな。

「何怖い顔をしてるのよ」

悩んでいると、一足早く修多羅がカツ丼をお盆に乗せてやってきた。

「いや、ちょっとな」

「どうせ、仕事のことでしょ?異能殲滅会とやらの」

「…………まぁ」

修多羅は異能者であるため、一度俺の世界へと踏み込んだことがある。そのせいで、俺が殲滅会にいることも知られてしまっている。

「ここで騒がれないのも、銀鏡さんの異能のせいでしょ?」

「ご明察だよ。ったく、気を使ってんだから、わざわざ指摘しなくてもいいだろう」

「眉間に皺を寄せてたら、指摘もしたくなるわよ」

修多羅の観察眼の鋭さにお手上げしていると、テーブルに二つのお盆が並んで置かれる。

「言ちゃん、場所取りありがとう」

「あぁ」

走と歌はそれぞれうどんにしたようだ。

仲がよろしいようで。

「うどんもいいと思ったけど、言葉のサンドイッチも美味しそうね」

「食べるか?俺は別に食べなくてもいいから」

「いいの?じゃあ、一口もらう!」

包んでいるラップを外して、歌はサンドイッチを口いっぱいにほうばる。

「美味しい!美味しいわね!」

彼女は初めて食べたかのように、とても感動して見せる。

「は、美味そうに食べるな」

「だって、美味しいんだもん」

「うどんも美味しいよ」

「うん!うどんも食べる」

歌からサンドイッチを返され、俺もそれに対して口をつける。同じ場所から食べるのは憚られたため、反対側から食べ進める。

「美味しいね」

うどんを啜りながら笑顔を浮かべる歌を見ながら、4人でその食事を楽しんだ。

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