十五.影のしっぽ
事態が動いたのは、七日後。柚月が登城した時のことだ。
柚月は雪原の元に向かう途中、廊下の先から役人が二人、歩いてくるのと会った。
何を話しているのか、時々笑いあっている。
すれ違うほど近くになって、その声が柚月にも聞こえた。
「また盗賊だそうだ」
二人は、世間話のような調子で話している。
「また? これで何度目だ。狙われたのはまた商人か?」
「ああ。しかも、今回はそこそこの豪商の一団だったらしい」
そうまで言うと、役人たちは互いに顔を近づけた。
声を潜める。
「蘆の資金集めかの」
微かに聞こえたその言葉に、柚月は一瞬で背中が凍った。
「どういうことですか⁉」
役人たちは振り向くなり、悲鳴のような声を上げた。
柚月がすごい形相で立っている。
形相もそうだが、何より、柚月は宰相の小姓だ。
不味いことを聞かれた、と焦りが湧いた。
だが、柚月は役人たちの様子など気に留めていない。
「今の話。蘆で何か?」
さらに詰め寄る。冷静さを装おうとしているが、目が厳しい。
役人たちは、狼狽する顔を互いに見合わせた。
「え、ええ。都との関所の近くで、行商の者が盗賊に襲われるという事件が、ここ最近、何件か。なあ?」
「あ、ああ。関所近くといっても蘆側のことなので、詳細は分からないのですが。なあ?」
役人たちは、責任を擦り付け合うかのように互いに確認する。
「では、ただの噂、ということですか?」
二人を見つめる柚月の目が、さらに厳しくなった。
その目に、役人たちはさらに慌てる。
「いえいえ! 被害にあった商人たちが、都で奉行所に訴えているのです。なあ?」
「ああ、ああ。そこの役人から聞いた話ですから、確かです。なあ?」
「被害者たちが?」
そうつぶやきながら、柚月の顔が怪訝そうに曇る。
「被害者は、生きていたのですか?」
「え? ええ。皆、荷物や金銭は取られたそうですが」
役人が戸惑いながらそう答えると、柚月は急に考え込んでしまった。
いったいどうされたというのか。
役人たちは不安そうに顔を見合わせる。
「…柚月様…?」
役人たちが柚月の顔を覗き込むと、柚月はぱっと顔を上げた。
「ありがとうございます」
柚月はそう言うなり、急いできた道を引き返し始めた。
残された役人たちは、何が起こったのか分からない。また顔を見合わせた。
柚月の後ろ姿は、みるみる小さくなっていく。
向かう先は、遊郭末原。
白玉屋だ。




