黄昏姫の最後の魔法(2)
◆ ◆ ◆
その瞬間を、どう言葉で表していいか、ゼグにはわからなかった。
目映いばかりの光がシュエの体から溢れ、周囲を金色に染める。
温かく清浄なそれは瞬く間に焼け爛れていたゼグの皮膚を癒やし、左目の視力を取り戻させていた。
「なん、だ……これは」
驚愕したのもつかの間で、己の腕から急速に質量が失われていくことに気がつき、戦慄する。
慌てて視線を戻すと、半透明になったシュエルバ姫の体に、びっしりと魔導式が浮き上がっていた。
それは青白く発光しながら、シュエルバ姫の体を見る間に光の粒子に変えていく。
「嘘だろっ」
慌てて抱え上げようとした華奢な体は、無情にも柔らかなレースのように、ゼグの腕を揺れ逃れて溶けた。
「……嘘だろ」
呆然と、そう呟く以外に何ができるというのか。
強大な魔獣を倒した場所とは思えぬほど清らかになった場所で、ゼグは地べたに座り込んだまま、
いつまでも動くことができなかった。
どれくらいの時間が過ぎたのか、東の空が明るくなり、青と紫が白む世界が、山の中腹にも手を伸ばしてくる。
その光がゼグにも優しく届くと、空になった両手が現実味を帯びて、両目から涙が溢れた。
涙だけでは感情が抑えきれず、嗚咽が漏れる。
「うっ……うぅ、ぐっ」
嗚咽は呻きに変わり、それでも胸の内で暴れる怒りと哀しみに絶えられず、ゼグは両手で頭を掻き毟った。
言葉にならない感情が殺意になって、自分の首に伸びる。頸動脈に爪を喰い込ませようとした瞬間、首と両腕の間に、ぐいっと何かが挟まった。
驚く間に、それに押されて腕が首から離れたが、思わず腕に力を入れて抵抗してしまったことで、ゼグは前のめりになった。
「お、わ──っ!」
両腕ごとゼグを前倒しにした物体にのし掛かる形で、顔が埋まる。
甘い匂いのする、柔らかく温かなそれが何なのかすぐにはわからず、ゼグはもがくように首を振った。
横向けた視線の先に若い女の顔があり、ゼグの口から「え?」と声が零れる。
そこでようやく、自分が何に顔を突っ込んでいるのかに気がついて、ゼグは慌てて腕を女の体の下から引き抜いて、上体を起こした。
涙で霞んでいた視界を瞬きで払い、改めて朝日に照らされたそれを見る。
紅い髪の美しい女が、ゼグの目の前に横たわっていた。
先ほどまでの慟哭が引っ込むほど予想外の事態に混乱したが、拭いきれない微かな予感に突き動かされ、女の肩を揺らす。
「おい、おい」
「んっ──」
長い睫毛を震わせて、女はうっすらと目を開けた。
美しい若葉色の瞳が、ゼグを映す。
女は何度か目を瞬かせたあと、ゼグと視線を合わせ、惚けたように赤い唇から声を発した。
「ゼグ……? あれ、私。なんで」
その言葉が、ゼグの予感を確信に変える。
「シュエ!」
彼女の困惑を無視して、ゼグは力一杯シュエを抱きしめていた。
ここまでお付き合いくださりありがとうございます。
この作品はBLにするかNLにするか悩んだ末にNLになったものでした。(お姫様の肉体に男の魂が入る状態での物語をBLと言うには苦しいと判断しました・笑)
楽しんで頂けたならば幸いです。
他作品も横目で見て頂けると嬉しいです。そして気が向きましたらpixivにも足を運んでみてくださいね。




