↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺だけ「10年後の値段」が見える。~未来価格で億万長者になるはずが、娘の絵に3億円の値札がついていた~』  作者: かばっち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/67

第67話 違う警告


 月曜日の朝。


「パパ、みて」


「見てるよ」


「みてない!」


「見てます」


「ここ!」


 結衣がテーブルの端から、黄色い何かを覗かせた。


 土曜日のフリーマーケットで買った、犬なのか何なのか微妙に分からないマスコット。


 結衣命名、きいろちゃん。


「きいろちゃん、あさごはん!」


「それ食べるん?」


「たべないよ?」


「じゃあ何で朝ごはんなん」


「いっしょ!」


「ああ、一緒に食べるのね」


「そう!」


 四歳児の説明は、だいたい一単語足りない。


 きいろちゃんの横にはゼロ。その隣にはモモ。


 三体並んでいる。


 いつの間にか増えたな、うちの食卓。


「慎吾、こぼすよ」


「え?」


「味噌汁」


「おっと」


 美咲に言われて、慌ててお椀を戻した。


「朝から何ぼーっとしよるん」


「ちょっと考え事」


「高城さんの?」


「うん」


 土曜日の夜、高城さんから送られてきた三つの文章。


『同一事象で複数の対象を扱う』


『対象ごとに異なる情報を出す』


『同じ時刻に処理する』


 昨日は何も見なかった。


 高城さんには、月曜日に詳しく聞くと返した。


 だったら、聞く前から勝手に意味を決める必要はない。


 ただ――。


【重大事故発生要因:複数対象――】


 あの表示が頭に残っているのも事実だった。


 似ている。


 だからこそ、先に話を聞く。


「今日、高城さん?」


「うん。仕事終わってから会ってくる」


「遅くなる?」


「そんなにはならんと思う」


「なら、ご飯いるね」


「お願いします」


「パパ!」


「はい」


「きいろちゃんも!」


「ご飯いるの?」


「いる!」


「食べんのに?」


「いるの!」


「難しいなあ」


 俺が首を傾げると、美咲が笑った。


「慎吾より難しくないよ」


「俺、そんな難しい?」


「たまに」


「たまにか」


「結構」


「増えたやん」


 時計を見る。


 そろそろ出ないとまずい。


 椅子から立ち上がって鞄を取ると、美咲が俺を見た。


「慎吾」


「ん?」


「今日は聞くだけ?」


「うん。そのつもり」


「なら、よし」


「何、その確認」


「確認は大事なんやろ?」


「……おっしゃる通りです」


 最近、俺より使い方がうまい気がする。


「いってらっしゃーい!」


「行ってきます」


 結衣に手を振って、家を出た。


 ◇


 昼休み。


 俺はスマホのメモを開いた。


『同一事象で複数の対象を扱う』


『対象ごとに異なる情報を出す』


『同じ時刻に処理する』


 まったく初めての話じゃない。


 一つの出来事に複数の対象が関わったらどうなるのか。


 それぞれに同じ情報を出せばいいのか。


 そこまでは、高城さんとすでに話している。


 美咲にも話した。


 そして、一度確認した。


 あのとき、未来の数字は変わらなかった。


 今回、違うのはそこじゃない。


 俺はメモに二行追加した。


『前回:検討段階 → 変化なし』


『今回:実証条件へ追加』


 研究側で考えていただけだったものが、実際に試すための条件へ入った。


 現実側が一歩進んだ。


 だからといって、未来まで動いたとは限らない。


 でも、もう一度確認する理由にはなる。


 その下に書く。


『研究側の「複数対象」=能力側の「複数対象」?』


 少し考えてから、その後ろへ付け足した。


『未確定』


 これでいい。


 答えを作るのは、まだ早い。


 俺はスマホを閉じた。


 ◇


 仕事を終え、高城さんと会った。


 席に着くと、高城さんがすぐに資料をこちらへ向けてくる。


 そこには、土曜日に送られてきたものと同じ三項目が並んでいた。


『同一事象で複数の対象を扱う』


『対象ごとに異なる情報を出す』


『同じ時刻に処理する』


「これが、実証を想定した条件の整理に加わった項目です」


「前に話してた段階より進んだ?」


「はい。ただ、実証そのものが決まったわけではありません」


「そこはまだなんですね」


「まだです」


 高城さんが一番上の項目を指した。


「これまでは、複数の対象が存在する場合にどう扱うべきか、考え方を整理している段階でした」


「それが今回は?」


「実際に試すなら、複数の対象をどう扱うのか確認する必要がある。そのための条件として整理されました」


「なるほど」


 前に話した内容の答えが出たわけじゃない。


 研究側で、一段先へ進んだ。


 そういうことか。


「二つ目は?」


 俺は次の項目を指した。


『対象ごとに異なる情報を出す』


「これも同じです」


「同じ事象に複数の対象が関わっても、全部に同じ情報を出せばいいとは限らない?」


「はい。これまでも話していた部分ですが、今回は、そこを実際に分けて確認することまで条件に入りました」


「つまり、同じ警告だけじゃ駄目かもしれない」


「そうです」


「対象によって、必要な警告が違うかもしれない」


「はい」


 俺は資料を見る。


 違う警告。


 一つの出来事に対して、一つの答えを出せばいいわけじゃない。


 実証するなら、対象ごとに何を知らせるのか。


 そこまで分けて考えなければならない。


「ただし」


 高城さんが言った。


「これは研究側の話です」


「分かってます」


「慎吾さんが見た未来の事故について説明しているわけではありません」


「はい」


 俺は一度頷いてから、一番上の項目へ目を戻した。


『同一事象で複数の対象を扱う』


 頭に浮かぶ。


【重大事故発生要因:複数対象――】


「高城さん」


「はい」


「やっぱり、似てますよね」


 高城さんは少し黙った。


「……似ています」


「ですよね」


「はい」


「でも、同じだとは言えない」


 高城さんが俺を見る。


 それから、少しだけ笑った。


「先に言われましたね」


「何がです?」


「今から私が言おうとしたことです」


「成長したんですよ」


「そこは認めます」


「そこは?」


「全部認めると調子に乗りそうなので」


「ひどくない?」


「慎吾さんですから」


「理由になってないでしょ」


 少し笑ってから、俺はもう一度資料へ目を落とした。


 ここは間違えちゃいけない。


「研究側の『複数対象』は、研究側で決めた言葉」


「そうです」


「俺が見た『複数対象』が何を指してるのかは分からない」


「はい」


「人なのかも分からない」


「分かりません」


「人数の話かどうかも」


「それも分かりません」


「ですよね」


 似ている。


 でも、まだそれだけだ。


 同じ言葉だから同じ意味だと決めてしまえば、話は簡単になる。


 けれど、それは分からないところを俺たちの都合で埋めるだけだ。


 俺は三つ目へ指を動かした。


『同じ時刻に処理する』


「これが一番気になってます」


「そうでしょうね」


「どういう意味です?」


「複数の対象を扱うなら、一つずつ順番に処理できればいいとは限りません」


「だから、同じ時刻」


「はい。同じ時刻に複数の対象を扱えるか。それも実証するなら確認が必要だということです」


「同時に処理できるかを見る」


「研究側では、そういう想定です」


「……なるほど」


 順番に処理する。


 同じ時刻に処理する。


 その違いが、妙に引っかかった。


 もう少し考えれば、何かにつながりそうな気もする。


 でも、それ以上は追わない。


「何か引っかかりました?」


「ちょっとだけ」


「聞いても?」


「やめときます」


「なぜです?」


「今言ったら、たぶん話をつなげすぎるから」


 高城さんが黙る。


 俺は『同じ時刻に処理する』をもう一度見た。


「気になった。それだけにしときます」


「……そうですね」


 高城さんも頷いた。


「この三つが整理されたのは?」


「金曜日です。こちらに資料が来たのが土曜日。それで慎吾さんに連絡しました」


「前に未来を確認したときは、まだなかった」


「項目としてはありませんでした」


「考え方はあったけど」


「はい」


「それが、今回は実際に確認する条件になった」


「そうです」


 昼休みに書いた二行を思い出す。


『前回:検討段階 → 変化なし』


『今回:実証条件へ追加』


「現実側が、一個進んだんですね」


「少なくとも、前回とは条件が違います」


 それなら、見る理由はある。


 未来が変わったと決める理由じゃない。


 変わったかどうかを確かめる理由だ。


「明日、確認しませんか」


 俺が言うと、高城さんが頷いた。


「私も、その方がいいと思います」


「今日は見ません」


「はい」


「今日は話を聞くって決めてきたんで。それに、見るなら先に範囲を決めたいです」


「どこまでにします?」


「HOSHIMIの基本の数字だけ」


 俺はスマホを取り出し、前回の記録を開いた。


【HOSHIMI安全性:69.1%】


【重大事故発生率:10.1%】


【分岐候補数:1,171】


【生存結果を含む分岐:31】


 見るのは、この四つ。


「目的は、現実側が進んだことで数字や表示に変化があったか。それだけです」


「『複数対象』の続きは?」


「出そうとしません。事故原因も探さない。対象が何なのかも見ない」


 高城さんが頷く。


「新しい表示が出た場合は?」


「記録だけ。その場で意味は決めません」


「分かりました」


「頭痛とか、何かおかしかったらそこで終わり。一回見て変わってなくても、それで終わりです」


「それなら問題ないと思います」


「何か面接されてる気分なんですけど」


「確認です」


「確認は大事ですもんね」


「慎吾さんが言うようになりましたね」


「今日それ、二回目なんですよ」


「誰に言われたんです?」


「美咲」


「なるほど」


「何、その納得」


「いえ」


「絶対何か思ったでしょ」


「何も」


「その顔で?」


 高城さんが笑った。


 俺も笑いながら、スマホに明日の予定を残す。


『観測対象:HOSHIMI』


『目的:基本数値・既存表示の変化確認』


『深追いしない』


 これくらいでいい。


 やることは決まっている。


 明日。


 高城さんと一緒に。


 一回だけ確認する。


「時間は仕事のあとでいいですか?」


「大丈夫です」


「じゃあ、それで」


 俺はスマホを閉じた。


 今日は見ない。


 明日見る。


 それも、決めたところまでだ。


 ◇


 家に帰ると、結衣がリビングから走ってきた。


「パパー!」


「ただいま」


「て!」


「手?」


「てあらう!」


「あ、はい」


 靴を脱いだばかりなのに、もう監督が来た。


「分かってますよ」


「ばいきん!」


「はいはい」


「はいはいいわない!」


「厳しいな」


 結衣に見張られながら手を洗う。


 リビングへ戻ると、ゼロは床にいて、結衣はその横に座り込んだ。


 いつもの夕方だ。


「どうやった?」


 夕飯の支度をしていた美咲が聞いた。


「話、進んでた」


「研究の?」


「うん。前に話してたことが、実際に試すときの条件として整理されたみたい」


「ふうん」


「それで、明日もう一回確認することにした」


 美咲が俺を見る。


「未来?」


「HOSHIMIの数字だけ」


「高城さん一緒?」


「一緒」


「一人で見らんよね?」


「見ないよ」


「頭痛したらやめるんやろ?」


「もちろん」


 美咲は少しだけ考えてから、もう一つ聞いた。


「結衣は?」


「関係させない。ゼロも持っていかない」


「ならいい」


 美咲はそれ以上聞かなかった。


 研究の言葉が何を意味するのか。


 能力とどうつながるのか。


 そこまで分析しようとはしない。


 誰と見るのか。


 無理をしないのか。


 結衣を巻き込まないのか。


 美咲が気にするのは、そこだ。


「慎吾」


「ん?」


「今日はもう見らんでよ」


「見ません」


「ほんとに?」


「ほんとに」


「パパ!」


 今度は結衣が呼んだ。


「はい」


「こっち!」


「どこ?」


「ここ!」


 床を指差している。


「座れってこと?」


「うん!」


「ご飯前やけど」


「ちょっと!」


「ちょっとね」


 座ると、結衣がゼロを俺の前へ置いた。


 それからモモを隣へ。


 最後にきいろちゃんも並べる。


「いっぱい!」


「増えたねえ」


「パパも!」


「俺も並ぶの?」


「ここ!」


「はいはい」


「はいはいいわない!」


「さっきも言われたな、それ」


 美咲がキッチンで笑っている。


 俺も笑った。


 明日は未来を見る。


 でも、今はまだ月曜日の夜だ。


 結衣と遊んで、飯を食って、風呂に入って、寝る。


 それでいい。


 ◇


 結衣が寝たあと。


 スマホが震えた。


 高城さんからの着信だった。


「もしもし」


『慎吾さん、少しだけいいですか?』


「大丈夫ですよ」


『明日の確認です』


「はい」


 俺はソファに座り直した。


 美咲は隣でテレビを見ている。


『場所と時間は、先ほど決めた通りで』


「分かりました」


『それと、もう一つ』


「はい」


 少し間があった。


『明日はどこまで見ますか?』


 俺は少しだけ間を置いた。


 複数の対象。


 違う警告。


 同じ時刻。


 気になることはいくらでもある。


【重大事故発生要因:複数対象――】


 あの続きだって知りたい。


 でも、明日の目的はそこじゃない。


「数値が変わったかだけです。続きを出そうとはしません」


『分かりました』


「一回確認して、終わりにします」


『はい。私も記録します』


「お願いします」


 通話を切る。


 複数の対象。


 違う警告。


 同じ時刻。


 気になることは増えた。


 でも、明日見るのは一つだけだ。


 未来が、動いたかどうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。