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守れずにごめんなさい



 馬車が森道に入ったところで目の前に座るアンジェリーナ様に話し掛ける。


 「アンジェリーナ様、上手く終わりましたね」

 「ええ、これでレイド侯爵は私たち貴族派の仲間になったわ」


 アンジェリーナ様が安心したように微笑んだ。その笑顔を見て私も嬉しくなる。


 「クレア、こっちに座りなさい」

 「どうしてですか?」

 「髪の毛が変よ。またうねってるわ」

 「え! ちゃんと朝直したのに」


 私の髪の毛は良くうねる。毎朝直すけど、夕方頃になるとうなりが戻ってしまう。

 アンジェリーナ様はいつもサラサラで綺麗なのに。


 「髪を()かすから、私の横に座りなさい」

 「え、でも」

 「命令よ」


 アンジェリーナ様に髪を梳かしてもらうなんて恐れ多い。でも、早く座れと言うように、アンジェリーナ様がずっと横の席を叩いている。


 「失礼します」


 恐縮しながら私はアンジェリーナ様の横に座った。


 「髪を梳かすわ。じっとしてなさい」

 「はい」


 アンジェリーナ様が私のうねった髪を櫛で丁寧に梳かしてくれる。

 本当は私が自分でしなくちゃいけない。いつも断るけど、問答無用だ。


 「クレア、最近綺麗になってきたわね」

 「そんなことないです。私なんか地味顔です」

 「知らないの? 地味顔が一番綺麗になれるのよ。今度、一緒にお化粧しましょう」

 「う、嬉しいです。楽しみにしてます」


 アンジェリーナ様が私の髪を梳かし終わった。お礼を言って、元の席に戻る。


 「そう言えば、クレア、あなたは十四歳になったのよね」

 「はい」

 「ごめんなさいね。ちょっと忙しくてあなたの誕生日プレゼントを用意するのが遅れたわ。屋敷に戻ったら渡すわね。実はちゃんと用意してあったのよ」

 「私に!? アンジェリーナ様、いつもありがとうございます。アンジェリーナ様も、明日が二十歳の誕生日です。お祝いをしましょう」

 「私は大人よ?」

 「大人でもお祝いしましょう! 屋敷の皆さんもきっとノリノリでアンジェリーナ様をお祝いします!」

 「…… そうね。クレアがそこまで言うのなら、一緒にお祝いをしましょうか。盛大にしましょう、明日が楽しみね」

 「はい!」


 私は満面の笑みで答えた。


 アンジェリーナ様はとてもお優しい。

 貧民街の浮浪児だった私を拾って、エイルハイド公爵家で世話をしてくれた。

 しかも、私が騎士になりたいと言ったら、エイルハイド公爵家の騎士になることも許可してくれた。

 今はまだ見習い騎士だけど、恩を返せるように命を懸けてアンジェリーナ様を守るつもりだ。


 その時、馬が(いなな)いて馬車が急に停まった。 私は転けそうになったアンジェリーナ様を直ぐに支える。


 「大丈夫ですか?」

 「ええ、ありがとう」

 「どうしたんでしょう?」


 御者をしている護衛の先輩騎士二人のどちらかが報告に来るはずなのにしばらくしても来ない。

 嫌な予感がする。

 その直後、キンキン! と金属のぶつかる音が聞こえた。


 先輩たちが誰かと戦っている? 早く逃げないと!


 「アンジェリーナ様、逃げます」


 私はアンジェリーナ様と一緒に馬車から出た。


 「そんな…… 先輩たち」


 護衛役の先輩二人が血だらけで倒れていた。その近くには顔を隠した手負いの剣士三人が立っている。

 こいつらはアンジェリーナ様のお命を狙う皇帝派の帝国騎士だ、間違いない。


 「アンジェリーナ様、森の中へ逃げてください。私が食い止めます」


 アンジェリーナ様が戸惑って動かないので、私は大きな声を上げる。


 「早く!!」


 アンジェリーナ様が森の方へ駆け出した。同時に、私も鞘から剣を抜く。

 私だって一生懸命稽古をしてきた。先輩との手合わせで勝ったこともある。

 帝国騎士が三人でも、手負いなら時間稼ぎはできるはずだ。


 三人の帝国騎士が正面、右、左と分かれて迫ってきた。


 「来い!!」


 自分を鼓舞して覚悟を決めた。


 先に剣を振ろうとした時、銀色の煌めきが右から迫るのが見える。


 ブシュッ!! ザシュッ! ボォシュ!!


 あれ? なぜか上を見上げていて背に地面がある。

 胸とお腹が焼けるように熱い。それに、左腕の感覚がない。

 だって、こんなのおかしい。私は時間稼ぎをしなきゃいけないのに。どうして寝ているの?


 帝国騎士たちの足音がどんどん森の方へ遠ざかって行く。


 「グファッ」


 体を起こそうと動くと、大量の血を吐いてしまった。

 今は私の体なんてどうでもいい。アンジェリーナ様を逃がすんだ!


 「早く、アンジェリーナ様の所に」


 右腕を動かして地に這いずりながら進んでいると、三人の帝国騎士たちが戻って来た。

 先頭の赤髪の騎士だけが片手に何かを持っている。あれは()()()()()()()()()


 「アンジェリーナ様?」


 一人目、二人目が無言で過ぎ去ると、三人目の帝国騎士が私の背中に剣を突き刺した。

 グシャっと嫌な音が聞こえ、全身から最後の力が抜けていく。


 どうしてこんなことに? 時間稼ぎは?

 何もできなかった。手負いの帝国騎士三人を全く足止めができないなんて。私は弱過ぎる。

 私には騎士になるだけの才能なんてなかった。アンジェリーナ様が許可してくれたから騎士になれただけだ。

 結局、アンジェリーナ様からいただいた恩を私は返せなかった。

 私がもっと強ければ良かった。誰にも負けないくらい強かったら、アンジェリーナ様を守れたのに。

 悔しい、悔しい、悔しい。

 私は役に立てませんでした。

 アンジェリーナ様、ごめんなさい。



 ◇◇◇



 「うわっ!」


 直ぐに背中を触って血が出ていないか確認する。いつもそうだけど、当然血なんて出ていない。

 またあの嫌な夢を見てしまった。少し前から何回も見てしまう。

 夢なのに凄く現実感があって、まるで昔に体験したことがあるみたい。そんなことあり得ないのに。


 「()()()()、どうしたの?」

 「お母様、大きな声を出してごめんなさい。嫌な夢を見てしまって」

 「それは辛いわね。今日も寒いから、体が震えて嫌な夢を見てしまったかもしれないわ」


 お母様から膝掛けを渡されて、自分の着ているドレスの上に掛ける。


 馬車の窓から外を見ると、昨日の夜に降った雪が地面にまだ残っていた。

 夜会の会場は温かいかな? どんな場所だろう? 一杯人が来るって教えてもらったけど、どのくらいかな?


 ワクワクして色んなことを考えていると、馬車が目的地に着いた。


 



























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