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剣聖の秘められた力


 「ランドヴェーッティル(妖精たちよ)イェッグ(私を)ベリア(守れ)


 木の蔓が魔獣を絡めとり動きを封じるが、直ぐに魔獣の大きな手が蔓を払う。

 ロゼがその場に座って魔法を発動していた。脚が震えていてもう立てないようだ。それに、魔法がもう直ぐ使えなくなる。体内の魔力量が少なくなっていた。


 私は茂みで様子を見ていた。魔獣を狙うタイミングを見計らっている。

 今行っても役立たずだ。もちろんロゼが危なくなったら、そんなの関係なしで行く。

 あの時拾ったカルディオ様の短剣を構えていつでも飛び出せるようにする。


 今から魔獣の注意をロゼから引き離す。この短剣を魔獣に刺したら、魔獣は怒って私を追い掛けてくるだろう。

 問題は私の攻撃が効くかだけど…… ()()()()


 もう一度ロゼの魔法が発動して魔獣は蔓に全身を絡め取られる。

 私は茂みから走り出して魔獣の背後へ一気に向かう。

 茂みからただ見ていたわけじゃない。カルディオ様が魔獣につけた傷を探していた。

 一番傷が多かったのは左脚。脚の裏にも傷がある。


 魔獣は私に気がついていない、いける!

 魔獣は手の蔓を払うと、鈍い音を立て不気味な骨の動きを見せて腕の向きを作り替える。更にゴキバキっと音を立て、魔獣は首を後ろに回転させて私の方を向いた。


 こんなことできるの!?

 私は予想外の動きに驚いたけど、チャンスなのは変わらない。胴体から下はロゼの魔法で拘束されている。

 攻撃する部位も変更はしない。脚に傷が多いのはカルディオ様が魔獣の動きを封じようとしたからだと思う。

 私が狙いやすいのは魔獣の左脛辺り。当然私の邪魔をするために魔獣は右手で払おうと動く。


 今の私なら数発ぐらいなら躱せるはずだ。

 私にはケイト先生と同じ魔力感知の力がある。魔力を色で判別して細かな動きを感じ取り、相手の動きも先読みすることもできる。魔獣は特に魔力量が多いから分かりやすい。


 魔獣の魔力の色は黒、右腕に集中している。

 右腕の魔力の流れを目で予測し、攻撃が当たる前に後ろへ下がった。

 空を切った攻撃は風圧が凄い。小さな体の私は吹き飛ばされそうになる。

 脚を踏ん張って我慢し、飛び出した。


 私の狙いは一度刺して逃げるだけ。

 カルディオ様の短剣を左脛の内側に全力で刺した。

 直ぐに魔獣の左脚に魔力の動きを感知する。

 蹴られる!

 短剣を魔獣の左脛に残したまま私は直ぐに後ろへ下がった。

 蹴り自体は躱せたけど、蹴りの風圧で私は吹き飛んでしまう。ごろごろと地面を転がって木に当たった。


 「イッツゥ…… でも、作戦は成功よ」


 起き上がると、魔獣が私を見て狙いを定めていた。後は逃げるのみ。

 逃げ出す前にロゼと目が合う。どうして、と口が動いてる気がした。だから、私はニッと笑って手を振る。


 魔獣は怒るように声を上げた。


 「キィーキィー、ギィーギィィーー!!」


 ここから離れるために私は走り出した。



 ◇◇◇



 木の間を急いで擦り抜ける。ドスドスと音を立てて魔獣は私を追い掛けて来た。

 完全に怒っているようで、走りながら木々を薙ぎ倒している。

 今は掴まってないけど、時間の問題だ。

 どこかで魔獣と対峙しなきゃいけない。


 地面に落ちている長剣が見えた。あれはカルディオ様の剣だ。

 私はその長剣を手に取る。大人用の剣なのでかなり重たいけど、今は使うしかない。

 剣を構えて魔獣と対峙する。

 魔獣が再び笑ったように見えた。追い詰めたと思っているに違いない。

 魔獣はじりじりと近づき、私との間合いを詰める。


 私の作戦は同じ。一撃離脱戦法だ。

 体力には自信があるし、まだ何度か魔獣の攻撃を躱すことができる。

 魔獣の右腕の魔力が動き、私との間合いを一気に詰めた。

 右手を振り上げて、私を叩き潰そうとする。

 右へと跳んで、魔獣の攻撃を躱した。

 今度は魔獣の左手が私を襲う。後ろへ下がって回避し、左手の風圧を受ける。


 攻撃をする余裕はなかった。躱すのが精一杯。どうしたら良いの?

 違う、弱気になるな!

 オスカー先生が言ってた。どんな強者だって、必ず隙はある、今は我慢だ。


 攻撃をギリギリのところで躱しているので、魔獣がイライラし始めた。

 魔獣が両手を大きく上げて一気に振る。私は後方に下がって魔獣の攻撃を躱す。

 大きな衝撃で地面が割れて周りの木々も倒れた。地面の塊や石が色々と跳び散って、大きな石が私の額に当たる。

 ドロッとした血が額から大きく流れた。

 大振りをした魔獣はバランスを崩して隙ができる。

 今だ、行け!

 魔獣との間合いを詰め、渾身の力を込めて剣を振った。魔獣の右脚から黒い血が溢れ出す。


 斬っただけなのに、私は少し気が緩んでしまった。

 魔力の動きを感じた時には、目の前に大きな魔獣の右脚が迫っていた。

 死ぬ。

 と思い、剣で脚を受け止めようとする。

 直撃は防いだが、蹴りの勢いは止まらず、私は空高く吹き飛んだ。



 ◇◇◇



 衝撃を柔げるために受け身で地面に落ちたが、残った衝撃で地面から跳ね上がってしまい、大きな木にぶつかってようやく止まった。

 全身の痛みで意識がはっきりとし、傷の具合を確認する。

 右手の感覚はあって、吹き飛ばされても剣を放さなかった。

 左手の指は動かせるけど、腕は動かせない。肘から下は変な方向に曲がってる。右脇腹が痛い。下の肋骨が折れたと思う。両脚はちゃんと動く。もうドレスがびりびりに破れて太股から下が良く見える。

 あーあ、素敵なドレスだったのに。帰ったら、新しいドレスを買ってもらおう…… こんなこと考えれるなんて、私はまだまだ余裕がある。

 自分の考えていることが面白くて、私は小さく笑った。

 前を向くと、魔獣がゆっくりと私の方へ近づいてきた。

 私にトドメを刺す気だ。

 ん? あれは何?

 カルディオ様の遺体の上に大きな白い光が浮いていた。

 周りを良く見ると、白い光が浮いているのはカルディオ様の遺体の上だけじゃない。

 近くの木々や地面にも白い光が浮いていた。右手を伸ばせば、触れる場所にも白い光が浮いていた。魔獣には見えていないようだ。

 私は右手を伸ばして、その白い光に触れてみた。

 ドクン!

 と胸が大きく鼓動し、全身が熱くなり右脇腹の痛みが引いていく。

 痛みが引くとは思わなかった。この白い光を触り続けたら……


 「まだ戦える!」


 両脚を叩いて気合いを入れると、私は近くの白い光に向かって走り出した。

 魔獣が私を追い掛けて来る。

 構うもんか、走れ! 白い光を吸収するんだ。

 走りながら近くの白い光を吸収すると、左腕の傷が癒えた。

 傷が癒えただけではなく、白い光が私の全身を覆っている。ようやく分かった、この感じは魔力だ。

 私の変化を感じ取ったのか、魔獣が襲い掛かろうとする。

 今まで感じたことのない力が漲ってきた。今の私なら魔獣と対等に戦える。


 襲ってきた魔獣の攻撃を躱して私から攻撃を仕掛ける。

 足運びがいつもより速い。

 魔獣との間合いを瞬時に詰め、魔獣の左脚を斬る。更に近くに留まって連続で剣を振るう。

 効いてる!

 すると、魔獣が怯んで大きく後ろへ下がった。追撃しようとした時。


 「ヴガアァァァーー!!」


 魔獣の叫び声が響いた。

 地面が震え、恐怖を感じたように森がざわざわとする。


 そして、魔獣が変化を始めた。

 目が真っ赤になり、ゴキゴキと音を立てて体が変形する。体毛が消滅し、筋肉粒々の紫色の肉体へ変わる。大きな手足の爪は更に鋭くなり、頭部には三本の黒い角が生えた。

 突然の変化に私は驚いた。魔獣が変化するなんて、これまで一度も聞いたことがない。


 変化した魔獣は右腕に魔力をどんどん集め始めた。変化する前とは比べ物にならない魔力量だ。魔力が集まって、私の目には魔獣の右腕が真っ黒に見える。

 思わず後退りをした。

 こんなの勝てるわけ……

 待って。どうして私は最初から弱気になってるの? 今の私は誰? 私は剣聖フレイヤ。

 あんな奴くらい倒せなくて、本当にアンジェ様を救えるの?

 魔力は周りに残ってる。カルディオ様の大きな魔力だって。

 それに、私が負けたらロゼだって無事に済まない。

 ―― こいつは私が倒す!


 不思議なことが起きた。

 まだ吸収していない周りの魔力が私のもとに集まってくる。

 どんどん魔力が私の中に入る。一番大きなカルディオ様の魔力も。

 さっきよりも力が漲る。全身から白い光が激しく溢れ出し、私の中にこの魔力を留めて置くことができない。

 この魔力を放って魔獣を倒す。今の私ならできるはずだ。


 私が剣に全身の魔力を集中させていると、魔獣は攻撃体勢に入った。

 右腕を後ろへ大きく下げ、強烈な勢いで拳を突き出す。

 衝撃波に黒い魔力が混ざって地面を大きく削りながら私の方に向かって来る。

 私は一切怯むことなく、剣に溜めた魔力を一気に解放した。

 白い光の奔流と黒い衝撃波が激突して拮抗する。


 「負けるかーー!!」


 全身の眠っていた魔力を解き放つ。白い光の奔流が増大し、黒い衝撃波を凌駕する。

 白い光の奔流が魔獣を呑み込んで吹き飛ばした。

 一気に全身の力が抜ける。倒れ込みたいが、魔獣を倒したどうか分からない。確認するまでは安心しちゃダメだ。本当に魔獣を倒せたかどうか分からないから。


 「魔獣を確認しなきゃ。あれ? 体が……」


 剣を支えにしながら数歩歩くけど、もう目を開けていられなくて。


 「フレイヤ!!」


 お父様の声が聞こえて倒れた。











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