10 君と生きる覚悟
「お昼ご飯できたからテーブルの上片付けてもらっていーい?」
「りょーかい」
台所の方から声を張り上げて、盆で食器を運ぶ。
古臭くて無駄に重厚な座卓の横で、キリヤ君が座布団に座って待っている。
「今日はちょっと暑くなってきたし、食材ないしで、そうめんね」
「そうめ──」
水と氷にそうめんを入れたガラスの器をどんと置くと、キリヤ君が固まってる。
あれ。お上品に小巻で並べる文化だったのかな。あれ憧れて母さんに言ったら怒られたんだよね。よく考えるまでもなく、むちゃくちゃめんどくさいよね。怒ることはなかったと思うんだけど。
「……何でウインナー?」
「え、そうめん味気ないから必需品じゃない?」
カルチャーショックが強いみたいだ。並べていくと、何だか変な顔しだした。まぁ完全に内輪食だから、よその家の文化とのすり合わせとかないよね。
角を挟んで座り、手を合わせて食べ始める。
「……甘いもんと塩辛いもんを交互に食べる的な?」
あっさりとこってりって例えたいのか?
「シンプルにウインナーをおかずにご飯食べるノリだね。そんなひねらなくていいから。サラダも食べなね」
なんだかんだ言いながら、ウインナーとそうめんを交互に食べ続けてる。気に入ったようで何より。
「手、もう大丈夫か?」
水の中を泳ぐそうめんをすくい上げてると、キリヤ君の視線がそこに向いた。
「大丈夫。跡はちょっと残っちゃったけど、病院の方でもお墨付きもらったし。──だから介護ももう充分」
介護生活はなんだかんだ、こうやってちょっと暑くなるまで続いた。ちょこちょこ自宅に帰ってはいたが、いくらなんでもそろそろだろう。
包丁も箸も、もう問題なく右手で使える。
年上の恋人としては、若い時間をあまり拘束するのは本意ではない。キリヤ君は行動派だからなおのことだ。俺を気遣い過ぎなこと多いし。
「寝袋狭ぇんだよな」
「お世話になりました。自宅のベッドがきっと天国だよ」
ズルズルとそうめんを啜る。
「キリヤ君のそうめん経験はどんな感じ?」
「ん? シズエさんはそうめん嫌いだからなかったが、んー……まぁ、トマトスープっぽいのとか、豆乳のとか、麻婆風とか」
オシャレそうめんだった! そりゃこんな夏休みの田舎みたいなそうめん、びっくりするか!
しかしシズエさんとは?
「シズエさんは元カノさん?」
少し年上さんかな。
「うんにゃ、戸籍上の母」
「お母さんを名前で呼ぶ文化……これが令和」
「いや、シズエさんはオヤジの二人目の妻だから」
「……それは聞いてもいい話?」
「オレがガキの頃、産みの母がいなくなって、十歳の時にシズエさんがオヤジと結婚しただけの話。シズエさんが『私は君の母にはなれない』つーから、昔っから名前呼び。あ、普通に仲はいいから」
……家族っていうのは、ホントに色んな形があると、この歳になっても未だに無知さを思い知らされる。
「なんだか格好良さそうな方」
「デニムは似合う」
「もしかして、僕と歳近い?」
「ちょい上」
「……僕、君の親世代だったかぁ」
分かってはいたが、事実を認識するとやるせない。つゆの入った小鉢に目を落としていたら、耳がくすぐったくなる。
キリヤ君が左手を上げて、耳を撫でている。丸まってる縁をなぞって、イヤーカフに触れる。
「──何か、問題あるか?」
「ありませぇん」
うぅッ、ゾワゾワするぅ。
箸でウインナー持ったままなのに、顔面だけ空気切り替えられるのすごいな。さすが副業モデル。
で、そうなると数々のオシャレそうめんは元カノだなぁ。俺もレシピサイトとか料理動画チェックした方がいいのかなぁ。
洗い物を二人で終えて、居間に戻る。
「午後も勉強の続き?」
先に戻っていたキリヤ君が、テーブルの上に眼鏡作製技能検定二級の参考書を広げている。
ちょっと覗いてみたら、『プルキンエ・サンソン像』って何だ。めちゃくちゃ難しそうだな。
「キリいいとこまで」
頑張り屋さんだなぁ。
「そういえば、何でキリヤ君は眼鏡屋なの?」
「眼鏡いらねぇのに、ってか」
そこはちゃんと飲み込んだぞ、俺。
キリヤ君が視線を右上の虚空に向けながら口を開く。
「きっかけは人についてって、あそこ──金堂眼鏡店に入って、あんま興味ねぇなって感じで」
その人は元カノさんですか?って聞くのはやぼだよなぁ。全部が元カノに思えるの、俺が悪いのか、キリヤ君が悪いのか。
「でも店長普通にカッコいいだろ?」
深くうなずく。グレイヘア、ダンディ髭ナイスミドル。どうして俺にはあの貫禄が出せないのか。
「そんで、接客も上手くて、オレがいる間にも何人か客来たんだが」
クルリと無意識にか持っているペンを回している。ペン回しは世代共通か。
「あの店入る奴らは、当たり前に良い物買いに来てんだよ。真剣で、そういう全部に応えられてる店長かっけぇなと思って」
あの店の高級な入りにくさを超える人は、そりゃ覚悟を持って入っていることだろう。
あれ、デジャヴ?
「その場で別に求人とかなかったがバイト希望出してねじ込んだ」
エピソードが強者過ぎる。
「それで今は正社員か」
「今はもうちょい、ちゃんと助けになりたく思ってるからな」
視線が戻って、言い訳みたいに続けてくる。
「僕に眼鏡を選んでくれた君は、もう充分格好良かったよ」
「……まだまだ見た目に重点置きすぎで、知識も浅いから学ばねぇと」
かわいいなぁ。
「うん。勉強頑張って」
「買い物行くんだろ? ちょっと待っててくれ」
「いや、一人でも……」
「待ってろ」
「はい」
圧が強い。
「……じゃあ、ちょっと昼寝しちゃおっかなぁ」
急にできた時間に、ちらりと縁側の方に目を向ける。そこにはなんと自立型のハンモックがある。介護生活二週目ぐらいにキリヤ君が通販した。天才の発想。素晴らしい。最高。
「すっかりお気に入りだな」
「あれ、こう……包まれて気持ち良いんだよぉ。おじさんを駄目にするハンモック」
「主語デケぇ。眼鏡外して使えよ」
元カノさんの慰謝料で復活した眼鏡を、ハンモックの紐に引っ掛けてさっそく壊しかけたのは俺。
「はぁーい」
『おひさまってなんでこんなにきもちいいの』って、子供心に聞いた記憶がある。その時この家は祖父たちの家で、遊びに行くたび、父親と一緒になって縁側で昼寝をしていた。父親の答えは何だったかと思いながら、まどろむ。
『お前の方を向いてるからだ』
あぁ、確かそんな感じ。寡黙で説明の足りない、昭和らしい人だった。イジメのことも、同性愛のことも触れないくせに、逃げるのか?とただ一言聞いてくる人だった。
今思うと、哲学過ぎる答えだ。
向き合う太陽は四十になった俺には眩し過ぎるけど、──やっぱり気持ち良くて、大好きだ。
……いつの間にか寝てたなぁ……。
「──護琅さん……」
うぉっ。寝起きにこの囁きはヘビーだぁ。
勉強キリついたのか。今目を開けますから少々お待ちをー。
ノロノロと目蓋を押し上げると、眼鏡なしだと言うのに充分表情が分かる距離にキリヤ君の顔がある。ハンモックの支柱に手をついて、俺の上に身を乗り出して来ている。視界いっぱいの顔に息が止まる。
左手で、キリヤ君が耳に触れてくる。イヤーカフを中心に、何度も指が滑って。
大丈夫。俺もいい歳したおじさんだからね。分かってますよぉ。コレはそういう雰囲気ですよねぇ。分かってる分かってる。なんならキリヤ君が転がり込んで来た時からずっと、来る?来るのか!?と身構えてて、むしろ何もなくて拍子抜けしてたくらいだからね。予習と覚悟はばっちりよぉ。とりあえず鼻呼吸。
ほらほら、キリヤ君の顔が、鼻をかすめさせながら近づいて。
唇に、柔らかい感触がした。
──あっ、目ぇ閉じ忘れた!
いや、ま、キリヤ君も閉じてないっぽいし、成功だろう! 証拠に、ふにふに少し触れて、顔もすんなり離れていく。開始から終了までワンセット、問題なし! 取り乱さなくてえらい、俺! 実はファーストキスで今すぐ転がって身悶えたいが、おじさんのそんなん知っても嬉しくないだろうしね! ミッションコンプリート!
じゃあ、そろそろ起きるか。買い物行かないと。
キリヤ君、ちょっと邪魔だよぉ。
「護琅さん」
どいて欲しいという意図を持って肩に置いた右手がとられる。甲から握られて、その口元へと運ばれる。さっきは唇で受けた感触が、今度は右手のひら、再生したての柔い傷跡の上に落とされる。
瞳が、視線が、焼き尽くすような強さで俺を見ている。
「治ったなら、──いいよな?」
言葉だけで、肌が粟立つ。背筋に、悪寒にも似たようなものが走る。
一度で終わったキスが、今度は当たり前のように軽い扱いで顔に落とされる。眼鏡がないので当然ガードもない。何度か触れて、その自然な流れで顔が横にそれて。
「へぁ……っ」
耳朶を口に含まれ、止まっていた呼吸を変な声と共に吐き出す。
加えて何でか、へそ辺りに直の温かさがあって。視線を下げれば、はだけたシャツの間に左手が入れられている。
いつの間にボタン全部外されたぁ!?
「キ……キリヤ君」
待って待って待って!
今はお昼でここは縁側で椿の生垣は案外隙間があってつまりほとんど屋外で──いいよなってドコまで!?
う、動けないっ。ハンモックの囲いが硬い! 変に動くと落ちそうっ。何だこの罠にかかったイノシシのような──罠にかかったような!?
俺もしかして誘導されてた!?
いつから──もしかしてハンモック導入から!?
嘘だろ!?
あ、マズい。キリヤ君の手が腹から下に滑っていく。そっちは本格的にマズい……っ。
「ゴロさん?」
たす、たすけ──
「おいゴロウ!! カサギのばあさんに聞いたぞ! おめぇなんか大怪我したんだって!?」
響き渡る大音声に、時が止まる。ぎこちなく顔を横に向けると、ボヤケた視界でも分かる一八〇センチ百キロ、御年六十歳になっても衰え知らずの巨漢。
玄関に回らず直接庭に踏み込んできた叔父がそこに立っている。
視線が交差して。
庭の巨漢が、一番最初に動きを再開した。ドンと重々しい音を立てて、庭から土足で縁側に降り立つ。そのまままだ思考が追いついてないキリヤ君の襟を後ろから掴み。
「おりゃぁああ!!!」
豪快に縁側の板間に転がした。
「誰だッ…──いやっ痛ぇ!」
受け身が成立する前の追い討ちで後ろ手に拘束し、その巨漢の重さで抵抗を制した。流れるような捕縛術。リアルで初めて見たぁ、すげぇ、かっこいいー。
「強盗か!? 追い剥ぎか!? ゴロウ、おめぇ弱いんだからこういう時は恥捨てて叫べっつったろが!」
「叔父さん……ホントに刑事だったんだぁ」
「ぁあんッ? 何だと思ってたんだ!」
「怖い叔父さん。ところで実はその子、客人なんで解放してもらえますか?」
「はぁあっ!?」
抗ってるみたいだけど、キリヤ君がびっくりするぐらい抑え込まれてる。
やっぱりウエイトって武器なんだなぁ。
……さて、一旦落ち着こうか。
「キリヤ君、こちら僕の母の弟、志琅さんです。定年間近の刑事で柔道黒帯。それで叔父さん、こちら矢崎桐哉君。えー……俺の性的指向的なパートナーです」
「性的ってあれか、衆道か。止めとけ、病気になるんだろ」
めちゃくちゃ言いにくいとこ必死に言ったのに、この叔父はいつでも自分の考えで突っ走っていく。キリヤ君が固まってるじゃないか。ここまでのド偏見向けられることは少ないだろうし、何よりキリヤ君普通にヘテロだったぽいから余計にだろうな。
居間に戻って座卓の三面で、三者面談みたいな絵面になってる。長辺で叔父とキリヤ君が向き合い、俺がそれを左右に短辺。うーん、眼鏡をかけて高精細になると、物理的に居間が狭いな。上背二人とも同じくらいか? 立ってたらキリヤ君の方が高かったけど、座ったら叔父さんの方がデカいな。……足の長さか。
どう収拾をつけたものか、悩んでたらおもむろにキリヤ君が立ち上がる。
怒った? 怒って帰っちゃうのは寂しいけどまだマシで、喧嘩になるのはホントに勘弁してほしい。俺では仲裁しようがない。
「ゴロさん、オレ病院行ってくる」
「え、さっきのでどっか痛めた?」
「いや、準備はしてたが覚悟が足りてなかった」
見上げるキリヤ君の顔は真剣だ。
「オレはどうでもいいが、ゴロさん側からしたらそういう不安あるの分かってなかったわ」
あっと思って、何だか胸がいっぱいになる。今の叔父の言葉を、そういう風に俺のことに結びつけてくれるのか。そんな不安を抱いたことはなかったけれど、素直に俺を思って行動しようとしてくれることが嬉しい。
「タク行きつけの病院あるから検査してくるわ」
「すごい語弊が生じてる気がするけど、それはタク君が身ぎれいにしてるって話だよね」
お触り自由表明の子たちのためにこまめに検査してるんであって、性病治療で常連なんじゃないよね?
立ったままキリヤ君がスマホを弄りだす。
「あとこの地区って、パートナー制度あったか? なけりゃ養子制度について調べとかねぇと」
覚悟の決まり方がエグい!
「ぬ。藤田家が続くのか?」
「……ゴロさんが欲しいなら、そっちの養子についても調べねぇとか」
二人の公的続柄の話から、子供の話まで今飛んだなっ? どこまで行くのさ、覚悟!?
「ちょ、ちょっと一旦落ち着こう。座ろう。お茶入れてくるから」
何より俺が落ち着きたい。
まったり介助期間なんだったのかという怒涛の勢いで将来が模索されていく。待って待って、四十のおじさんの瞬発力、そんなないから。
──いやこれ六十の叔父さんの前で言えないな!
歳を言い訳にできない状況キッツいな!
素直に俺が惰弱かぁ……。
それでお茶入れて戻ったら、居間で二人が意気投合してた。
「おう、チャラチャラした見た目の割におめぇ、なかなか分かってんな」
「いや、全然踏ん張りきかなかったし。シロさんこそ何で鍛えたんだ?」
「道場で投げられまくってりゃこうなった」
「打たれて伸びたとか、マジで昭和。二十歳くらい実は更に上でしょ」
「男でマジとか、おめぇは令和か」
「オレは平成。令和だとガキになるだろ」
「む、今令和何年だ」
「ボケヤバいな」
マジで何なの?
「粗茶でございますぅ」
「お、ゴロウ、聞いたぞ。おめぇ、何か嬢ちゃん助けて名誉の負傷なんだろ? やっぱおめぇにも藤田の血が流れてんだなぁ。ねぇちゃん離婚させてまで藤田に戻ってもらって良かった」
何をどう言ったんだ、キリヤ君。
っていうか、ホントにこの叔父さんは思ってること全部言うなぁ。個人情報ダダ漏れ過ぎ。
「キリヤ君、うちの事情も聞けば『だけの話』で終わるので、ちょっとだけ聴いてくれます?」
変な流れになるより、こういうのはぶっちゃけた方が早い。
簡単な話。
俺の母と父が結婚して父の姓になり、離婚して俺は母と藤田になり、そして母と父が再婚してみんな藤田になったのだ。
何でそんな面倒な元鞘って?
藤田家の長男であった志琅さんに子供が望めなくなったからだ。
何でって?
志琅さんがゾッコンの奥さんを、子供がいないうちに亡くして、その人以外を愛さないと誓ったからだ。
だから、旧時代的な考えで藤田家を継ぐため、母は離婚して藤田姓に戻り、俺と父を戸籍に入れた。今はどうだか知らないが、当時姓を変えることはそう簡単ではなくて、この手段のせいで俺は微妙に父の実子ではない扱いになっている。
「というだけの話」
「シロさん、漢じゃん」
「よせや。土台初めっから俺みたいな刑事の女房、幸せになれるもんじゃねぇんだ。それでも俺がミチコを欲しがって、あいつもそれでいいっつって……その次なんかあるわけねぇだろ」
言って豪快に茶を啜る叔父は猫舌だ。多分音はしてるけど、大して飲んでない。
「俺のことよりおめぇらだ! 俺ぁてめぇの不肖のツケをゴロウに押し付けた。そいつは申し訳ねぇとは思うが、おめぇはおめぇで楽しく人生やって欲しいのもウソじゃねぇ。──おいっ若造!」
一段階声量が上がって、キリヤ君ともども背筋が伸びる。
「いい歳したおっさんで気持ち悪くねぇのか?」
「まったく」
聞けなかったとこストレートに聞くじゃん……。
「おめぇより早く死ぬぞ」
「二人で毎年人間ドック行こうぜ。判定悪い方が罰ゲームな」
キリヤ君がこっちを見て言う。
それ出来レースとか八百長って言うよね。
「全部放り出して引きこもってたの、もう一回やるかもしんねぇぞ」
叔父さんっソレはまだ言ってないんだよ!
「──俺が引きずり出す」
慌てて叔父を見た視線を、声に引き寄せられる。振り返った先で笑うキリヤ君の顔が、それができないなんて考えもしない自信家のもので、俺は胸が苦しくなる。
「よしっ。次はゴロウ!」
「ぅあぁっ、はい!」
「こんな若い奴引っ掛けてどうすんだ。こいつの先は、世の中の普通よりしんどくなんぞ」
そんな、そんなことを急に問われたって、俺の頭は四十歳の鈍さで、身体は貧弱で、精神は今だって震えるぐらい未熟で。答えなんてすぐ出ない。
でも、でも何も、衝動がないわけではない。
何があったってやりたいことはある。
「──守るよ、俺の名前にかけて」
誇ればいいと、君も言ってくれた護琅の名にかけて。俺には、自分を守るより君の方が大切だから。
怖くて、今すぐに君の顔を見れないくらい臆病でも、それは嘘じゃないんだ。
「いよぉしっ、ゴロウもしっかり藤田の男になったじゃねぇか! これなら後は若ぇ二人で話しゃどうにかなんだろ。俺は書類関係はさっぱりだからな」
「叔父さん、刑事としてそれどうかと──痛い痛いっ」
背中をバシバシ叩かれて。
そうして叔父はまた庭から嵐のように帰って行ってしまった。本当に嵐だよ、土足で縁側につけた足跡もそのままだしさぁ。
ただ、あの瞬間の登場はホントに助かった。何とか流れでどうにかできないかというのが、ちょっと楽観的過ぎたと気付いた時だったから。
静かになって、振り返る。
キリヤ君が何かに耐えるみたいに片手で口を覆っている。眉間にシワが寄っているが、どっちかって言うと眉が下がって困ってるみたいな。
そして頑なにこっちを見ない。
凝視してしばらくしたら、ちらりとこちらを伺う視線が来て目を合わす。
その目がぎゅっと閉じた。
「……たまに大人見せんのずりぃ」
くぐもった小さな声。
え、何だ、このカワイイ子。
色々頭がパンク仕掛けるが、叔父が好き勝手ばらまいていった爆弾は処理しなきゃいけない。
「あのね。俺の情けない話、聞いてくれる?」
一つ一つ、あの高二の夏のことから、全部話そう。
全部話して、全部晒して、それでも君が俺を好きでいてくれるなら、俺は言った通り、俺が持つ全部で君を守る。
人は生きてる限り変われる。
世界も変わっていく。
それは良い方向にだけじゃないけれど、良い方向になるよう働きかけることはできる。
その道を、君と歩きたい──
結
完結です。
たくさんある物語の中から見つけて、最後まで読んでくださって、
ありがとうございました!
本作はネトコン14感想企画応募のため、18↑キリヤside番外編なしで投稿しました。
抽選外れたら肩を落としてこっそりムーライトノベルに移動させるかもです。




