27 そばにいる資格
疎遠になった原因が自分にあると思って、俺とは付き合う資格がないと美亜は言うが。
それを言うならお互い様だ。
むしろ俺の方がひどいかもしれなかった。
俺は美亜の言葉を聞いて、勝手に失恋したと思い込んで、耐えられなくてその結果、美亜から何も告げずに離れてしまったのだから。
美亜が気にすることではない。
でも気にさせてしまったのは俺だ。
だから、すごく申し訳なくなりながら、でも俺は一緒にいる資格どうこう云々それより、美亜と付き合えない方が辛いと正直に言おうとした。
「美亜、俺は……」
「だから、今から真綾ちゃんに電話します!!」
「……へっ?」
てっきり俺が悲しみに暮れる美亜に付き合おうと説得する流れだと思っていたら、予想外の方面に話は転んでいった。
「真綾ちゃんに電話して、昔のこと謝って、そして伊織くんのことが本当は私も好きだったって言う!真綾ちゃんには現在彼氏がいらっしゃるので、後出しすぎて卑怯だけど……!」
「お、おぉ……?」
泣きそうだった目元をこすって、テッテレー!とスマホを取り出した美亜。
ずび、とちょっと鼻声混じりに俺に続けた。
「昔の私が出来なかったことを今ここで克服することで図々しいかもだけど認めてはもらえませんか…!伊織くんを傷つけてしまった償いにはならないと思うけど、少なくとも今の私の誠意ということでなにとぞ……」
「ちょ、ちょっ美亜!頭っ、頭上げろ」
ベンチから降りて正座したかと思うと、いきなり俺に向かって土下座をし出したので、俺は慌てて美亜を止めに入った。
なかなか頑固なおでこと地面を切り離させて、俺は彼女の額についた土を払った。
それを見て、俺はつい、はあ…と溜め息がこぼれてきた。
せっかくの美少女の顔に自ら傷をつけにいくとは、世界の損失である。
普段大人しいくせして、やめていただきたい。
俺の呆れた顔が視界に映ったのか、うぅぅ、と美亜が頭を抱えた。
「ごっごめんね……こんなことしか思いつかなくて…!そうだよねこんなんじゃ伊織くんの傷ついた分の償いになんてならないよね…!あぁぁぁ私は後出しジャンケンが得意な卑怯者のアタンポナスのすっとこどっこいのミジンコソイペースト廃棄物ですぅぅぅ!!!!」
「ちょいちょいちょいちょい」
うわぁぁとダンゴムシのように丸まろうとする美亜をまた止めに入る。
俺が呆れたのは世界の損失行為にであって、美亜の提案にじゃないんだが、どうも勘違いされてしまった。
こんなキャラだったかと言われれば元々こんなキャラだったような気もするし、なんかの磁場にやられておかしくなっているような気もした。恐るべし林間学校マジック(絶対違う)
俺は、美亜をひとまずベンチに戻した。
彼女の肩をさすって、落ち着かせる。
それから俺は彼女に何と言おうかと少し考えた。
今は言葉を慎重に選ぶ場面だ。
もとより感じやすい魂の持ち主だから、今なんかは特に、ちょっとでも言葉のチョイスをミスるとすぐに彼女は悪い方向に考えてしまうだろう。
頭を働かせて、花屋で並んだ花を選び取るように、俺も言葉を選び取った。
「まず、俺は美亜とお付き合いしたいと思ってる。両想いなのを知った以上、これは譲りたくない」
「……そ、それは私も、…だけど、…」
じゃあ何も問題はないじゃないか、という言葉が出かかったが、俺はいったんグッと喉の奥に押し込んだ。
美亜を納得させた上で、付き合うのが最良だ。
「だから、葛飾に電話する云々の美亜の提案は俺はいいと…思う。それで美亜の中にある蟠りみたいなものが解消されるなら、とても」
「ほんと?……でも伊織くんは、それでいいの…?その、それだけで、って言ったらあれだけど、もうちょっと私に恨みつらみをぶつけるべきでは…」
「いや、」
それだけでは良心が耐えかねるといった具合なのか美亜はそう申し出るが、俺は首を振った。
両想いに近しいと思っていた矢先に否定されたショックで、中学時代に美亜が恨めしく思ってた時期もなくはなかった。
だが今は、何より美亜と過去のすり合わせができて、あの頃の自分が少し救われた気がした安堵の方が大きかった。
「とにもかくにも美亜を早く自分の彼女にしたいってのが、一番の俺の本音だよ」
「……っ!」
美亜がぱっと目を見開いて、手で顔を隠した。彼女の最大の特徴といっていい、あのこぼれんばかりの大きな瞳が隠れてしまった。
「どうした」
「……い、いゃ……ぁ、えっと、ね、その、伊織くんがいつにもまして積極的なのと、伊織くんにそんなこと言われる日が来るなんてっていう感動のダブルパンチに今襲われてて〜……!」
よく見ると、美亜の耳がほんのり赤かった。
まあ確かに。草食通り越してもはや枯葉系男子になってた俺とは思えないセリフではある。
未来の娘の花音さんのご指導のおかげかもしれない。…いや言うほど指導はされてないが。
「俺はこういう希望なんだけど……美亜の意向は?」
ここで美亜に変に粘られると困るなと思ったが、彼女は意外にもあっさり引いてくれた。
こくっと、美亜は頷いた。
「うん、分かった。……真綾ちゃんに電話して、私がきちんと過去の清算をできたら……その時は」
「ああ、もちろん」
口に出さなくても、指切りをしなくても。
お付き合いをしよう、と互いの目線が語っていた。
相手からの好意が前提にないと言えないような言葉を自分が言える日が、まして美亜に言える日が来るなんて、本当につい昨日までは思いもよらなかったのに。
そして美亜は、スマホをタップして、葛飾真綾へ電話をかけた。
書きながら思ってましたよ。
はよ付き合ってくれって。
眠たかったです。
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