98_桜花動乱_AT_ナガト
椿宮師団、ナガトの自室。
全てが終り、明日には獣桜組にとんぼ返りでメズキのカリキュラムを受ける。
束の間の休息をナガトは喜んだ。
「やっと戻ってきた」
セレネがベッドに腰を掛けてせわしく何か作業をしている。
コンタクト型のディスプレイを操作しているため具体的なものはナガトから見えていない。
「セレネ、そっちも終ったの?」
「まぁまぁってところね。今は日本に工場を建てる算段をしてるの」
「工場か」
「日本の雇用状況を改善するのもあるけどこれだけマンパワーがあれば良い工場が建てられると思うわ」
「いいね」
「まーーーーーー大変だけどね」
「お疲れ様、手伝いたいけど何もしてやれなくてごめんな」
「そうね、修行が終ったらこき使ってやるわ」
「お手柔らかに」
「よーし、終ったぁ! あの女ほんとに無茶苦茶言うわ!」
「あの女?」
「獣桜組のエマよ」
「あー……あの人は独特だよね。俺も髪の毛掴まれてこうだったよ」
ナガトはジェスチャーする。
「うわぁ、何したの?」
「ちょっと悪戯がバレただけよ」
「子供みたいね」
「男はいつだって子供だよ」
「まったく……」
「せっかくだしお茶でももらってくる?」
「ビール! 仕事終わりはこれに尽きるわ!」
「ビールね」
「ナガトは飲まないの?」
「うーん、すっかり飲むタイミングをなくしちゃって」
「じゃあ、今日がそのタイミングじゃない?」
「試してみようかな」
「いいじゃない!」
ナガトは自室を出て天竺でビールを注文する。
日本が崩壊しても娯楽として酒造文化はすぐに蘇ったこともあり以前通りまでとは言わないがある程度流通している。
ナガトは災害が起きた七年前は未成年ということもあって飲酒の経験はなかった。
瓶ビールを二つ受けとると直ぐに自室に戻る。
「これで合ってる?」
「これこれー!」
「よかった先に飲んでて、俺は風呂に入るから」
「お風呂?」
「流石に何時間も歩きっぱなしで汗臭いんだ」
ナガトは自室にある風呂場に向う、乱雑に服を脱ぐと湯船のお湯を張りを待つ間にシャワーで体を洗う。
(……なんか、流れが完全にこれあれだよな)
わずかに期待している自分にナガトは呆れてしまった。
「背中流してあげる!」
思わぬ不意打ちにナガトは驚いた。
一糸まとわぬセレネが悪い笑顔を浮かべながら悪戯気味に言う。
「セレネ……」
「何かしら?」
「俺だって男だよ?」
「知ってる」
「それは――つまり――そういうこと?」
「いいよ」
ナガトは苦悶の表情を浮かべる。
「あーうーん……」
「ね?」
「はい……」
「ね!」
ナガトはこの先の行く末が心配になった。
翌朝――。
天竺でヤマトと二人で朝食を取る。
「なぁナガト」
「どした?」
「すげえげっそりしてるけど、どうした?」
「何ちょっと搾取に遭った」
「搾取? まぁなんでも良いけど飯でも食って元気出せや」
「はは……そうだね」




