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95/167

95_桜花動乱_ムサシ

 

 椿宮師団、正門付近。

 

 小休止。

 

 

 

 慣れた手つきで刀を鞘に戻す。

 

「まぁ、こんなもんかな」

 

 鋭い切り口で結ばれた残骸たちの上に立つムサシは涼しい顔で夜を散歩する。

 

 

 

『真正面から誰か来る』

 

 黒錆神楽が助言する。

 

「ようやく本命かな」

 

 

「お、まだ日本にもサムライがいたのか」

 

 パワードスーツに身を包んだ重装兵が一人で散歩していた。

 

(癖のない英語……ワシントンかニューヨーク、ミシガンかな)

 

「こんばんは、夜間飛行は大変だったでしょう?」

 

 ムサシは流暢な英語で言葉を返す。

 

「そうでもないさ、腕の良いパイロットに恵まれた」

「そうですか、それでわざわざ極東の田舎に何かご用で?」

「仕事だよ。好きでこんなところに来ると思うか? 行くなら盛岡がよかった」

「それは残念、そこは広い括りで小生の故郷です。お気を悪くされたら申し訳ないですが、その汚い足でそこに踏み込むのはやめてください。ニューヨークみたいなゴミだらけの場所は違ってね」

 

「はっ! よく吼えるガキだな。よく俺がニューヨークの出身だとわかったな」

「まぁ、これくらい出来なきゃ、甲種として話になりませんからね」

「甲種だぁ?」

 

「強いと思って頂ければ結構です」

「そりゃあいい!」

 

 男は肩のガンラックから人間では到底扱えない大型ライフルを取り出して構える。

 

「蜂の巣にして――」

 

 ムサシは既に距離を詰めていた。

 

 月夜に弧を描きながら鈍色の半円が一瞬だけ光る。

 

 ライフルは真っ二つに切り裂かれる。

 

「は――?」

 

「君より、ヤマト一人の方がよっぽど強いよ」

 

 刀を返し一振り――。

 

静かな夜を続けさせる。

 

 刀を鞘に収め、ムサシは椿宮師団の門番に戻る。

 

「前線出た方が良かったかな……」

 

 クスっと笑って夜風で心を落ち着かせる。

 

 


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