94_桜花動乱_アイボリー
埼玉県越谷海岸。
本来埼玉に海はないが、七年前の巨大地震で地盤が大きく陥没、東京を含めた千葉、神奈川は大体海底に沈んだ。
奇跡的に天帝邸の付近は地盤が強く陸地が残った程度だった。
ウイルスの大地震によって本来簡単に食い止められたレブルウイルスも爆発的に広まり日本の本州は封鎖せざるを得ない状況に追い込まれた。
カナメはその総力を以て、このレブルウイルスを海外に広めないようにするべく椿宮師団を結成し活動。
裏社会の組織、獣桜組に手を借りることもあった。
ウイルスの研究を進めるべく結成されたのが君影研究所。
非感染者を保護すべく活動していたシルバーベル。
だが、レブルウイルスは生物兵器に転用できる極めて厄介な性質があった。
当然、世界はこれに目を付けないはずがない。
過去に無断で侵入する部隊がいくつかあったがどの部隊も日本の海を渡る前に悲運な事故で海底に沈んでいる。
いつまでも秘匿するにも物資が足りず海外の助力は必要だった。だから限定的に新宿区までなら定期的に解放し好きにして良い、ただし現地で何が起ってもお互いに一切文句を言わない取り決めを行っていた。
それで開催されたサバイバルゲーム、これは獣桜組が裏で主催となりウイルスだけは持って帰らせないように徹底的な排除が行われた。
これがおよその真実だ。
そしてついにアメリカがそのルールを破って人間を送り込んできた。
「あっちは気付いてないみたいだけどどうする?」
『好きにやってくれ、ただし生きて返すな』
「はーい」
アイボリーはゆっくりと上陸したアメリカ小隊の前に立ちはだかる。
背中には六枚の翼が展開され、脈打つように徐々に肥大化している。
「###################!」
「ごめんなさい、英語はさっぱりなの――」
翼の一枚が兵隊の一人に巻き付く。
途端に兵士は柔らかな羽毛に包まれているにもかかわらず悲痛な声を上げる。
悲鳴の同調するように他の翼達も肥大化し兵士を襲った。
「###################!」
「騒がない方がいいわ。この翼はうるさいのが大好きなの」
悲鳴が木霊する度に翼は巨大になり小隊を取り囲むには十分過ぎるほどまで大きく成長する。
分厚い積もった羽のひとつひとつ強力な神経興奮成分と痛覚神経を狂わせる猛毒が仕込まれている。
そしてこの翼は音を吸収することで爆発的な成長を始める性質を持つ。
激痛の悲鳴を食らって更に巨大化する翼、そんな怪物がこの翼の正体だ。
一度翼に取り込まれれば神経興奮成分が致死量に達するまで永劫の激痛に苛まれる悪魔の体現者。
だが皆揃ってその美しい翼を称えて熾天使の羽と呼んだ。
「こんなもの悪魔の他にならないのにね」
静寂に包まれる海岸、海に浮かぶ月だけがアイボリーを照らしている。
(NNEDのお披露目には丁度良かったかしら……これで天帝陛下もさっきの話に乗ってくれるといいのだけど)




