90_桜花動乱_セレネ
『システム探索モード』
「日本は湿度が高くて急勾配で本当に機械化泣かせな土地ね」
『内陸は平地が少ないですが、海に囲まれ回路での貿易は可能です』
「はいはい」
セレネはコックピットで原点復帰動作が完了するのを待ちながら戦闘準備を始めている。
最中にナガトから通信が入る。
『セレネ、こっちのアンドロイド兵はメズキさんが倒した』
「ほぼ生身で本当に倒せるのね……ナガトの感想を聞かせてよ」
『一方的だったよ』
「本当?」
セレネはヘッドディスプレイに戦闘記録を投影させる。
「うあぁ……何この安全管理ガン無視の戦闘スタイルは」
『獣桜組の流儀だって』
「無茶苦茶よ。もっとスマートに出来ないのかしらね」
原点復帰の完了音と共にセレネに操作権が移される。
『そっちはどう?』
「これから、まぁ丁度新作の実施テストもしたかったから丁度良いわ」
『実戦なんだけど』
「あら余計にいいじゃない」
「それならいいんだけど」
『じゃあ行くわね』
セレネは拡張型パワードスーツを起動させる。
下半身は蜘蛛のような8本の足、上半身はセレネの体が見える。丁度、怪物アラクネを彷彿とさせるような出で立ち、機体の腹部には各種装備は格納されている。
そして機体を取り囲むように空中浮遊する無数の脳波操作型浮遊ユニット、通称ヒステロクラテスが合計で8機浮かんでいる。いずれも凶悪なレーザー砲であり、アンドロイド兵が相手でもオーバースペックなのは誰にでもよくわかった。
「発進!」
浮遊ユニットからワイヤーが射出され機体を空中に持ち上げて移動が始まる。
この8機のユニットとスパイダー型のパワードスーツを操作するシステム、これこそセレネが新たに開発した兵器システム。
「ヘクセンナハトの実力を見せてあげるわ!」
『メインシステム 戦闘モード 衝撃にご注意ください』
アンドロイド兵は3体をロックオンする。
アンドロイド兵も迎撃システムを起動しヘクセンナハトを攻撃をする。
『電磁シールド、展開』
アナウンスと共に目に見えない障壁でアンドロイド兵の攻撃を防ぎ、悠々とヒステロクラテスの銃口をアンドロイド兵に向ける。
「三世代は離れてるっての!」
レーザー砲は8本の光線を同時に射出し、障害物などを薙ぎ倒しながらアンドロイド兵を一撃で消し飛ばす。
「まずは1つ!」
光線を射出したまま無理矢理軌道を変えて残りのアンドロイド兵をその高火力で殲滅する。
「もうちょっと手応えが欲しいわね。これじゃテストにならないわよ」
セレネはマップを開いてヤマトの動向を確認する。
「うそ――ッ!」
通信チャンネルを開いて、現在行動中の部隊に通達を始める。
「ヤマトのところにアンドロイド兵が向っている。しかも識別コードからして今までの奴より新しいモデル!」
『こちらメズキ部隊、敵が早すぎるこっちは追いつけない!』
ナガトが即答する。
「こっちもヤマトが接敵しちゃうと巻き添えリスクで兵器が使え無いの! こんなことなら小火器も持って来れば良かったわ」
『というかなんでセレネが運用している偵察ドローンに引っかからないでそいつ来てるの?』
「たしかに……装置ログを見てみないとわかないわ」
『とりあえず急いで見るよ』
『へぇー、随分と面白いことになってるな。まぁいいや、じゃあこれで貸し一だな』
「え?」
炸裂音と共にヤマトを追いかけていた敵機体の識別コードが消失する。
「何!?」
『じゃあな、ヒクイ様よりプレゼントだ』
セレネは敵機消失地点に向う。
そこで見たのは想像を超える代物だった
「嘘でしょ……一体どこから撃ち込んだのよ……」
地面には大きなクレーターと粉々になったアンドロイド兵の残骸だけが残されていた。
クレーターのサイズと弾頭の破片から自走砲か戦車による一撃であることはすぐにわかった。
だがこの弾頭と高速移動しているアンドロイド兵にピンポイントで当てるという事実がセレネの脳みそを悩ませた。
「この弾頭なら70キロ離れた場所でも撃ち抜けるけど……まさか……電子機器などはこっちで検知していない。目測でこれを当てたって言うの!?」
セレネは冷や汗が止らなかった。
「これが獣桜組の幹部の実力……人間の水準は超えてると思ったけどここまでとは……」




