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85_桜花動乱_アイボリー

 

 

 シルバーベル、聖堂に感染者が現われる。

 

 

 あらゆる感染者のトップに立つ男、かつてシルバーベルは感染者では無く、この天帝に敗北したことがある。

 

 

「どうした?」

「……いいえ」

 

 アイボリーはクラウンに視線を合わせる。

 クラウンは何かを察したのか天帝に椅子を出し一瞥してお茶を汲みに行った。

 

「意外と若いお嬢さんだな。よくその年で一組織の上に立っているな」

「成り行きですよ」

「そうか」

 

(クラウン……上手くやりなさいよ……)

 

「何か焦っているか?」

「はて、何のことでしょうか?」

 

 カナメは一瞬眉をひそめた。

 

「そうか」

「改めまして天帝陛下、アイボリーですもちろんコードネームですが」

「だろうな。髪の色以外は日本人だからな」

「はい、その通りでございます」

「で、アイボリーちゃん最近随分物騒なことをしているらしいな」

「と、言いますと?」

 

 カナメは胸ポケットからチャック付きのポリ袋を取り出す。

 

「コイツはNNEDと呼ばれるものだ。致死性の高さから今は流通禁止になっているが、どうやら裏社会で動いているらしくてな」

「あらあら、それは物騒ですね」

 

(挨拶は建前、ヤマトの誘拐の時に能力を使ったらしいからそこから探りを入れてきたわけね)

 

「現在日本で流通しているほとんどがここに集まっているらしい」

「何が言いたいのでしょうか?」

「シルバーベルも以前より活気が無くなったな」

「ええ、つい最近、死者が急増したもので。レブルウイルスじゃなくても様々な感染症がありますのでその一つかと」

「椿宮師団にある医療施設は一般人にも開放している、連絡をすれば急患を輸送することもする」

「本人達が拒んだもので、意思を尊重しました」

「よくある話だが余としてはその意向を無視して欲しい」

「それはなぜ?」

 

 

「シルバーベルの人間には死なれて欲しくはないからだ」

 

 

 天帝はハッキリと言う。

 

「なぜ? 感染者とシルバーベルは敵対関係にあります。減るには超したことはないのでは?」

「確かに政治としてはそれが正しいが、シルバーベルにしかできないことがあるんだ」

「と言いますと?」

「日本人としての血統、遺伝子の継承だ」

 

 アイボリーは目を見開く。

 

「遺伝子の継承?」

「レブルウイルスの性質のひとつに、他生物の遺伝子を人間の遺伝子に組み込む性質があるのは知っているな」

「存じております」

「つまり一度感染者になってしまうと純粋な日本人どころか人間としての判定も議論になってしまう。だがシルバーベルはその災害から免れた人間だ。もう本当の日本人として遺伝子を残せるのはここしかない」

 

 アイボリーは自分の行いを思い出し、頭を抱えた。

 

「そうですね……」

「だからこそ、シルバーベルには存続してもらいたいというのが余の意志だ」

 

「しかし、感染者に陥れられた者も多い、手を取り合うのも感情的な部分で難しいのが現実です」

「だがやらなきゃいけない」

「ではご支援を」

 

「わかった。まずは何をする?」

 

 

「甲種感染者の殺害です」

 

 アイボリーはニッコリと笑う。

 

「おっと、これは予想以上に過激な提案だ」

「まぁ、半分は冗談です」

「半分は本気ってことで良いんだな」

「交渉のテーブルに座るにはお互いに対等な力を持っているということが大事なのです」

 

 カナメはアイボリーの言葉を聞いて頬から汗を一滴垂らした。

 

「そうだな」

「なので表面上だけでもシルバーベルには力があると誇示しなければなりません。強気な交渉が出来るだけの材料が。それがわかりやすければわかりやすいほど手っ取り早いでしょう?」

「甲種を倒した実績を持って講和、そして協力関係を結ぶってことか」

「察しが良くて助かります。天帝陛下。実際に殺す必要はありません。うまいこと演技とちょっとした怪我を負って頂ければ」

「……少し考える」

 

「是非ご検討を」

 

 アイボリーは微笑む。

 

「コイツは……とんだ怪物がトップに立ったな」

 

 

 

 


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