84_桜花動乱_アイリ
シルバーベル、聖堂――。
アイリは鏡を見てため息をついていた。
NNEDの作用によって自分の髪の毛が白くなってしまったからだ。
「はぁ……」
「おや聖女サマ、どうしました?」
「クラウン……この髪、染めようかしら……」
「アイリサマじゃなくてアイボリーサマですね」
「洒落のつもり?」
「コードネームに良いと思いますよ」
「あー、あなたがわざわざひとりひとりにつけてる珍妙なあれね」
「あれは、一種の儀式的な要素のひとつです。自分は特別だって思わせるためのね」
「まぁなんでもいいわ」
「しかしまぁ、似合ってますよそのアイボリーの髪。でもお染になられるのですよね」
「あら、染める方がクラウンが嫌そうだからこのままで良くなったわ」
「そうですかアイボリーサマ」
「好きに呼べばいいわ」
「はーい」
「それで、どうしたのかしら?」
「ヤマトを無事に捕まえたのであとはクライアントに引き渡せば終わりです」
「首尾は上々ね。大勢の犠牲は払ったけどNNEDは必要な力だものね」
「ええ、これでしばらくは過激派も大人しくしてくれると思います。感染者側が何もしなければの話ですが」
「懸念があるなら言って頂戴」
「あのヤマト、天帝サマのお気に入りみたいで」
「それで?」
「そろそろ連絡来ると思うよ」
クラウンの言葉の直後にアイリの携帯端末が振動する。
「はぁ……もしもし? どなた?」
『どうも天帝です』
「あら天帝陛下、お電話いただきありがとうございます。して本日は何用でしょうか?」
『そっちに感染者がひとり紛れ込んだみたいで回収したいからそっち行ってもいいか?』
「ここは感染者立ち入り禁止のシルバーベルよ?」
『ああ、知ってるとも。ちゃんと抑制剤は飲んでるから安心してくれ』
「何を安心すればいいのでしょうか?」
『前任の司祭との約束だ。余だけはシルバーベルに立ち入ることが許可されている』
「それは前任の話です。こちらは引き継いでいません」
『新任、名前は?』
「アイボリーです」
『アイボリー、余は何も取って食おうなんざ思っちゃいねえ、ただ迷子を捜してそっちにうっかり行ってませんかと聞きたいだけだ』
「酷く高圧的な態度を感じたので」
『そりゃ悪かったな』
「あとそちらが思っているような感染者はおりませんよ」
『本当か?』
「ええ、まぁ時々紛れ込んでくることはありますが、所属がある場合、送り返していると思いますが? 私が就任してからもそれは続けておりますよね」
『確かに記録があるな。オーケー。それについては信用する』
「ご理解頂けて何よりです」
『じゃあ、次の質問だ。普通トップが変わったなら天帝であるこの余のところに挨拶のひとつくらい寄越すのは筋じゃねえのか?』
「大変申し訳ありません。何分シルバーベル内でかなりもめ事がありその対処を優先していました。本来であればいの一番に天帝陛下にご一報するのが当然ではありますが、私の能力不足です」
『そうか……なら仕方ない』
「ご理解いただけて――」
『今から余、自らがそちらに出向いて挨拶を聞こう』
聖堂の扉が開く。
アイリの見知らない男が独特の威圧感を滲み出させながら目の前に立つ。
「…………」
「初めましてアイボリーちゃん、天帝のカナメだ」
(……アイボリーって名のならきゃよかった)
アイリは、名前を捨てざるを得なくなった。




