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73_一刀両断_AT_ヤマト

 

 

 ムサシとの一戦の後、ヤマトは椿宮師団に帰還すると自室に戻りダクトテープで傷口を塞いでいた。

 ヤマトはヤクザの出身であるため基本的に命が本当にヤバイ時か病気にかかったときくらいしか病院を利用しない。

 だからと言って医学の知識があるかと言われるとこれまた何とも言えない。ただ仲間内でやっているのを見様見真似でやっているに過ぎなかった。

 

 

 コンコンコンとノックする音が聞こえる。

 

「…………?」

 

 ヤマトは取りあえず居留守をすることにした。

 

 ガチャ。

 

「鍵は借りてあるから入れるんだけど」

 

 ドアからひょっこりと顔を出したのはヒラだった。

 君影研究所所属の医者で主に椿宮師団の病院に勤務している。かつてはトモエの専属医療スタッフの一人だったためその腕の良さは頭の悪いヤマトでもよくわかる。

 

「何の用ですか?」

「カナメから連絡が来てね、刀傷をしこたまこさえた奴が病院にも行かないでふらふらしているだろうから捕まえて治療してくれと来てね」

「……病院抜け出していいのか?」

「アスペルが来てるから大丈夫。それに今日は五山の送り火と……毎年急性アルコール中毒が出る無法地帯のクソ大宴会だから」

「そうか……そんな時期か……」

「元は獣桜組だっけか?」

 

 ヒラは他愛もない話をしながら縫合の準備をしている。

 

「まぁ……」

 

「じゃあ麻酔打つね」

「なしで」

「なんでよ」

「なしで」

 

 ヒラは注射器をチラリと見せる。

 ヤマトは怪訝な表情をした。

 

「注射怖いの?」

「別に」

「じゃあ麻酔打つね」

「なしで」

「怖いの?」

「別に」

 

「ふーん」

 

 ヒラは有無を言わせず局部麻酔を打ち込む。

 

「あっおい! あれ痛くない?」

「最近の注射針も進化してるの。打たれてる感覚もほぼ感じないのよ。まぁ一部の予防接種はどうしても普通の針じゃないとダメだから痛いやつもあるけどね」

「……はぁ」

「でもまぁダクトテープかぁ……あながち間違いじゃないのよねそれ」

「へえ……そうなのか」

「医者から言わせてもらえばナシだけど傷口を押さえるっていう意味では悪くないわよ。ただし医者がいるんだからちゃーんと病院に来る方が何万倍も良いのだけど」

 

「病院はみんな行きたがらなかったので」

「獣桜組はヤクザ者の集まりだからねえ。記録に残るとまずい傷がいっぱいあったのよね。今はこんな状況だし気軽に来てもいいのよ。それに君はもうヤクザじゃないんだから」

「そうっすね。今はただの半グレですね」

 

「その割りにはカナメ陛下に目を掛けてもらっているのね」

「ええ……まぁ……なんでか」

 

「よし、縫合は終わり」

「……どうも」

 

「にしても凄い筋肉だ」

「筋肉? まぁ最近は訓練ばっかりでしたし」

「食事量はどのぐらい?」

「毎日三食しっかり食ってますけど」

「量は?」

「定食を三つくらい?」

「一日定食三つ……ちょうどいいか」

「いや、一回で定食三つです」

「てことは九人前食べてるの?」

「まぁ……そうっすね」

「ふーん……それでこれかぁ……」

「ん?」

「そうだ。ちょっと血液検査したいからちょっと腕出して」

 

「注射は……その」

「大丈夫、注射じゃないから」

 

 ヒラに思いっきり注射を打たれた。

 

「ああああああああああ!」

「よしサンプル採取できた」

「そんな大事なことかよ!」

「かなり大事。ひょっとしたらヤマト君、変わった遺伝子疾患をもっているかもしれないからね」

「遺伝子……?」

「生まれながらに持つ病気のことさ」

「……じゃあ俺は生まれた時点で欠陥品ってことか?」

「そういうわけじゃない」

「でも病気持って生まれてるんだろ?」

「病気を持っているから欠陥品とか劣っているという考え方は良くない。それを言ったら我々感染者も人より劣ることになるだろう?」

「それもそうか」

「それに疾患と言っても君のはある意味天性の才に近い物かもね」

「なんだそれ病気じゃねえだろ」

「そうかもしれないね」

 

 そう言いながらヒラはヤマトの自室を出て行った。

 

 芸術的なほど緻密に縫われた傷口は明日にも塞がってしまいそうだった。

 

「病院か……」

 

「あっ、採血したところしばらく押さえてないと鬱血するから! じゃ!」

 

「んあおい! 鬱血ってなんだよ!?」

 

 


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