72_一刀両断_AT_ナガト
話はムサシが風呂に入っているところまでさかのぼる。
ナガトはムサシとの一戦が終り、獣桜組に帰還したところをチユに捕獲され会議室にチユと共に正座させられていた。
机などは全て畳まれて端に寄せられてカーペットが広がっている。
「待たせたな何故呼ばれたかわかっているな?」
カナメはナガトを睨む。
正座しているナガトの目の前にはカナメとエマが現われる。
「……存じません」
「ほう?」
「言ったねえ、正直な方がええよ?」
ナガトは涼しげな表情を一切崩さない。
「ちょっと飛行機に乗ってただけですよ?」
「おいおい、それじゃあ、あの男はなんだ?」
「ムサシさんですか、今日知り合って意気投合しました」
ナガトは予想していた。カナメ、エマ、チユがムサシの情報をナガトが持ち得ていないということに。
知らないのであれば、偶然を装うことができる。
「あれは拘束指定に定められている男だ」
「へぇ……知らなかったです。久々にフソウ姉さんのところに顔を出そうと思ったら。たまたま玄関にいたので」
「そりゃあまた奇遇だな。じゃあヤマトが居合わせたのも偶然か?」
「ヤマト?」
フソウに会いに行くという理由なら、ヤマトを連れて行ったことは当然言えるわけがない。
ムサシと戦うためにヤマトを連れてきたと言えばその時点でナガトの言い訳は矛盾してしまう。
だからナガトは初めからヤマトとは会っていないという話に持っていくことした。
「やり合ったんだろ?」
「さぁ?」
「じゃあその表面上は隠せている全身の切り傷はなんだ?」
「……ちょっとセレネに」
「セレネがそんなことするわけないだろ――」
「セレネですよ?」
「……………………」
「絶対にやらないと言い切れますか? 何かの勘違いで突っ走ってということは?」
「……その傷については聞かないでおいてやろう」
何とか誤魔化す。
カナメはため息をついて携帯端末を取り出す。
「これを見ろ」
カナメが動画の再生ボタンを押すとナガトとヤマトが戦闘している一部始終が鮮明に写っていた。
「……ご、合成じゃないですかね?」
「これは君影研究所玄関の映像記録だ」
ナガトは大きく息を吸う。
「……すみませんでしたぁ!」
洗い浚いを白状する。
「今回の一件は、ムサシと戦うこと自体が無謀過ぎることと、派手な移動で君影研究所によくない注目を浴びるおそれがあったこと、この二つが問題だ」
「はい……仰る通りです」
ナガトは俯く。
カナメが言葉を続けようとするとエマがそれを遮って話を始める。
「なぁ、ナガト」
「何でしょうか?」
「ヤマトやったっけ? あのどうしようもない人食い虎、どうせ足手まといやったんちゃう?」
「そんなことないです」
「人食い虎は頭が足らなくてほんまアホなんよ。呆れてまうわ。獣桜組を追い出されてもなーんも変わらんなんて、救いようがないアホ――」
「あの」
「何?」
「ヤマトの悪口を言わないで下さい」
ナガトはエマの目を見てハッキリと言う。
エマは薄ら笑みの口角を上げてニッコリと笑う。
それから何歩か前に出て、しゃがみナガトの目線に会わせる。
「なぁ……ナガトやったっけ? あんさんお姉さんがちいっと偉いからって調子に乗ってるんとちゃうん?」
エマはナガトの前髪を右手でわしづかみにするとグッと前に引き寄せて目を顔を近づける。
「誰に向って、何て言うたん?」
「ヤマトの悪口を言わないで下さいと。とあなたに言いました」
「どうして?」
「ヤマトは友達なんです。獣桜組で何をしたかは詳しくは知らないし知って無くてもいいですが! 少なくともヤマトは予想の遥か上の動きを見せました! 最高の働きでした!」
「ふーん……そんなことででうちに楯突いたんか」
エマは少し目を細めて右手を離す。
「あーあー、アホらしい。もうどうでもええわ。この子の罰は天帝様が決めたらええ。うちはもうこの件はどーでもよくなったわ。ほな後は煮るなり焼くなりご自由に~」
エマはそう言って会議室を出て行った。
「とのことだが、チユはそれでいいか?」
「はい」
「師匠は関係無いじゃないですか!」
「いいかナガト、お前の修行を見ているのはチユだ。今回の事件はチユの監督責任の問題でもある」
「それは……」
「というわけで罰を言い渡す」
カナメは一息入れる。
「ナガト及びチユ、二人は罰として、五山の送り火の大宴会の時にメイド服のコスプレをしてお酌をするだ!」
「え……」
「いや、問題は問題なんだが、ムサシを正気に戻したという功績を鑑みたら無罪でいいんだよな」
カナメは先ほどまでのピリついた表情を解く。
「えぇ……」
「だが示しをつけなきゃいけねえしってところでな」
「そ、そんなぁ」
「まぁお酌楽しみにしてるからな。ナガトの女装もお披露目の良い機会だろ」
「え……ということはですよ、どうしてわざわざ会議室に呼び出したのは?」
「ん? そっちのほうがドッキリ感あるかなって。そうだろチユ?」
チユは手を顔に当てて小さく笑う。
「面白かったわ。エマが来るのは完全に予想外だったけど」
「あれは俺も焦った。まぁそんな怒ってなさそうだったし」
「エマさんの怒ってないの定義を教えて欲しい」
「そのうち慣れる」
「はぁ……」
「まぁとりあえず」
カナメとチユがニコニコを笑顔を見せつける。
「「ドッキリ大成功!」」
「あぁぁぁぁ!!!!」




