64_一刀両断_ナガト
ナガトはムサシを助けるためにセレネに頼み込んで自家用ジェットを動かしてもらうことになった。
「それで東京で何をするの!?」
エンジン音に掻き消されないように大声でセレネは叫ぶ。
「ちょっとしたピクニック!」
「あら楽しそうね! 私も交ざって良いかしら!」
「熊とか猪とかトラとか辻斬りとか出てくる場所だからやめておいた方がいい!」
「あら随分物騒なところにピクニックへ行くのね!」
「でしょ!」
セレネはハンドルを握ると投影ディスプレイを操作する。
いくつかの操作をすると機内の騒音が消える。
それからアクチュエータが駆動して壁の内側にある操作アームがテーブルを展開して荷台から様々な装備を並べる。
物騒な武器から防弾チョッキ、これだけで戦争が出来そうなレベルだった。
「好きなの持って行くといいわ。使い方は全部知ってるからなんでも聞いて。ちなみに右側に並んでいるのが製品で左側に並んでいるのが試作品よ!」
ナガトは耐刃に優れたインナーシャツを手に取る。
「これってどのぐらい頑丈?」
「電磁徹甲弾くらいなら余裕で防ぐわよ。まぁ直撃したら死ぬほど痛いか、内臓が液状化して死ぬけど」
「じゃあこれお願い」
「試作品の方はもっと強度あるけどどうする?」
「じゃあそっちで」
「わかった。上下でいい?」
「うん」
ナガトは武器のチョイスを始める。
本来であれば使い慣れた武器を使いたいところだが、武器なんか持ち出せば三秒でチユにバレる。
(というか師匠、そろそろ勘付いてるよなぁ……なんて言い訳しよう……)
だが、命の恩人であるアンナにできる限りのことはしてやりたいという思いが勝った。
(まぁ、師匠相手なら死にそうになるけど死なないから大丈夫か、それ以上にムサシを相手にして勝てるか、そこがネックだな)
ナガトはいくつかの武器を手に取るがどれも殺傷力が高すぎるため、今回の目的と反してしまう。
「こう、不審者を捕獲する系の武器とか無い?」
「あるわよ」
「見せて」
セレネはどこをどう見てもミサイルをぶっ放すも兵器を取り出す。
「……これ戦車とか捕獲するやつ?」
「弾頭を変えれば建物に隠れている人間を建物ごと吹っ飛ばせるわよ」
「いや、そこまでの火力はいらないよ」
「安心してこれは弾頭が特殊なネットが展開できるようになっているの。付属のボタンを押すことでパルスショックを与えて筋肉を痙攣、相手を鎮圧できるわ」
「お、これは良いかもしれない」
「まぁこれ試作品でパルスショックが安定しないけど十分実戦で使えるわよ」
「ピクニックには最適だね」
「……それもう言い訳には見苦しいわよ」
「……うん」
ナガトは防刃素材の服に着替えると、腰にナイフを一本、服の下、長ズボンの内側ふくらはぎに縛り付ける形で合計三本のナイフを装備する。
背中には捕獲用のネットランチャー、サイドアームにはスタンガンを装備する。
「ナイフ三本は多くないかしら?」
「ナイフは二、三本あるといいんだ……」
これは戦闘というよりサバイバルの教訓のである。
「ふーん、まぁいいけど。あ、そろそろ着くわよ」
「早っ!」
「三十分もあれば簡単に着くわよ」
「俺の二日間……」
「ふっふっふこれが文明の力よ」
飛行機が着陸するとナガトはセレネに手を振った。
「ナガト忘れ物!」
セレネはナガトに四角い箱を手渡す。
「これは?」
「これは咽頭マイクとコンタクトレンズ型のアシストモジュール、目の中に入れるタイプのPCディスプレイって思えばいいわ」
ナガトはおそるおそるコンタクトを装着し、喉に専用のアタッチメントのマイクを装着する。
それから耳の後ろにイヤリングと間違えそうな程小型の骨伝導イヤホンを装着する。
「結構似合ってるじゃない」
「そりゃどうも……うわ気持ち悪いな」
目の中にプロジェクターの映像が投射される。
「すぐに慣れるわ」
「善処します」
「じゃあ私はここで待機してるから」
「ありがとう、ヤマト呼んできたら今度は会津に飛んで欲しい」
「ええいいわよ」
ナガトはヤマトを誘いに出向いた――。




