48_修練進化_チユ
チユは骨折したナガトに一日中勉強を教えていた。
ナガトはフソウと違って意外と要領が良く、物覚えが良いというのが素直なチユの評価だった。
工作員として素養としては十分だが、チユは未だにナガトが誇れる特技は依然として見つかっていない。
(今日は休みも兼ねてちょっと緩い内容にしようかしら)
病室に入るとナガトが理学系の参考書を読んでいた。
「師匠おはようございます」
「今日は緩い内容になるから気楽にして」
「ホントですか?」
「本当よ。今日はこれだから」
チユはバッグからいくつかのポーチを取り出す。
「なんですかこれ?」
「化粧道具」
「化粧するんですか?」
「興味あるの?」
「いえ……男のメイクもあることですけど俺は興味なかったので」
「化粧を知っておくと便利よ。印象を変えるから交渉にも使えるし、ちょっとした変装なんかもできるわ」
「そうなんですね」
「あとはハニートラップに引っかからなくなるわよ」
「え、なんでですか?」
「メイクでどれだけ化けるか知っていると化粧する前の顔を想像出来てしまうから」
「ああ、そうなんですね……」
ナガトは残念そうな顔をした。
「まぁ、勉強だから諦めなさい」
「はーい、これで師匠のすっぴんがわかってしまうんですね……」
「いや、私は元からすっぴんだけど?」
「え?」
「ん?」
「……進めましょう!」
少しだけナガトの表情が明るくなった。
「ガッツリ化粧の講座をすると凄く大変になるからまずはさわりだけね」
チユは慣れた手つきでメイクを始める。
途中途中で行程の理由や目的を説明しながらナガトにメイクを教える。
「まぁ、こんなものね」
「うわぁすげえ……」
「じゃあ、ナガトもやってみなさい。道具を貸すから」
チユは化粧道具一式をナガトに渡し、鏡を向ける。
「や、やってみます……」
(最初は酷い出来になるのよね。まぁ、ナガトは器用だしそこまで変なことになる前に諦めるかしら?)
ナガトはチユの教えた手順でナガトは自分の顔にメイクを施し始めている。
「うーーーん、こうかな……」
(あれ……?)
「いや、これこうかな」
(ん? あれ? ちょちょちょ!?)
「あ、ここをこうか!」
(え、うっそ……いやちょっと待って)
「出来ましたよ」
「いや、そうはならないでしょ!?」
「結構、良い感じじゃないですか?」
「良い感じって……もうあなた別人でしょ!? メイク初めてなのよね!?」
「初めてですけど? やっぱ変ですか?」
「変というか顔の輪郭が……あっちょっと待って!」
チユがナースコールを押す。
『どうしたんだいナガト君?』
アンナが返事をする。
「ちょっと来てもらってもいい?」
『……ふむ、構わないよ』
しばらくしてアンナが病室にやって来る。
「入るぞー……うお誰だい!?」
「やっぱそうなるわよね」
「え? えぇ!?」
「あ、声はナガト君だね。安心したよ」
「いや、俺は普通にメイクしただけで」
「アンナ」
「なんだいチユ?」
「顔の輪郭がガッツリ変わっているのよ。たぶん」
「だろうね、ここまで別人になるのは初めて見た……あっ!」
アンナはナガトの今の状態をドローンで撮影して解析を始める。
「何ですか!? え? 何!?」
「ナガト君……新たなベースがわかったよ」
「なんでこれでわかるんですか……」
「顔の骨格そのものが少し変わっているんだ。これが君のメイク前の骨格でこっちがメイク後の骨格だ」
「確かになんかちょっと違いますね」
「この差分と遺伝子から計算することによってベースがわかるんだよ」
「なるほど」
「それで今回わかったのはクレステッドゲッコー、日本語ではオウカンミカドヤモリと呼ばれる」
「かっこいい名前ですね。実は最強生物だったりします?」
「いや、これは草食寄りの雑食でペットとしても非常に人気が高く気性も大人しい」
「え、じゃあもうトッケイのベースを持っている俺じゃ」
「戦闘能力だけで見れば下位互換と言ってもいいな。まぁ観賞性とかを含むのなら別な話になってくるが」
「ヤマトに勝てる一発逆転にはならないですね」
「だが、どうやらナガト君はそれぞれのベースの出力をいじれるようだね」
「出力?」
「今ナガト君はトッケイヤモリ、カーペットパイソン、クレステッドゲッコーの三種類だがそれらのベースを好きなようにいじれるということだ。実際メイクをしたときクレステッドゲッコーの比率が大きくなったようだ」
「そうなんですね」
ナガトは試しに変身するときの要領で試しに出力をいじってみる。
「どうですか?」
「おお、これは……先ほどまであっておとなしめの少女っぽさから一気にお姉さん風になったな」
「メイクを合わせてボイストレーニングしたらかなり良い感じなりそうね」
チユとアンナは口を揃えてナガトを褒める。
「そんなに可愛いですか?」
「可愛いわよ」
「その辺にいる女なら目じゃないな」
「そ、そうなんですね」
「ナガト、これからあなたハニートラップの訓練もするわよ。女性らしい所作を覚えましょう」
「師匠マジでいってるんですか!?」
こうしてナガトはハニートラップのための作法を覚えることになった。




