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43_修練進化_ナガト

 

 

 右足を骨折したナガトは病院のベッドで眠っていた。

 久しい熟睡なのだが隣でチユが付きっ切りで介護しているためか落ち着かなかった。

 

 

 薄めでチユを見ると見慣れない缶詰から茶色い玉状の何かを食べていた。

 

「それ何ですか?」

「グラブジャムっていうお菓子よ」

「美味しいのですか?」

「うーん、好きな人は好きかしらね。インドの食べ物で結婚式とかに食べられていたそうよ。これはそれを真似て作ってもらっている代物だけどね」

「へぇー、一個もらってもいいですか?」

「いいわよ」

 

 チユはフォークでグラブジャムをひとつ刺して、ナガトの口に運ぶ。

 

「……?」

「はい、あーん」

「……あーん?」

「口開けなさいよ」

「えっあっ、はい」

 

 ナガトが口を開けると死ぬほど甘い何かが口の中に入る。

 

「うっ……何これ……」

「甘いのよねえ」

「甘いというか歯が溶けそうっすよ」

 

 ナガトは口の中に残る余韻に頭を悩ませる。

 

「さて骨が折れたのだけどどうしましょう」

「二週間動けないのは辛いですね」

「それもそうなのだけど、ナガトの試験が二週間後なのよね……」

「マジっすか」

 

「延期するわけにはいかないですか?」

「無理ね。啖呵切ったし」

「そうですか……え? 啖呵切った?」

「ナガトならどんな試験でも突破出来るって、天帝陛下に」

「うわぁ……やっちゃいましたね」

「と言うわけで一週間で足を治して」

「無理っす」

「じゃあ、モルヒネでこう、うまいこと」

 

「おいおいおい、モルヒネなんて大層なものあったとしても渡さんよ?」

 

 アンナが定期検診のために病室に入ってくる。

 

「モルヒネってなんです?」

「端的に言えば麻薬、一応、医療用の鎮痛剤としても使える」

「あぶねえじゃないですか」

「末期癌患者とかに使う最後の鎮痛剤だ。初手で使うものじゃないよ」

 

「なんてものを使おうとしてるんですか」

「私は何度か使ったことあるわよー」

「なんで!?」

「そりゃあ、仕事で死にかけたことぐらいたくさんあるわよ」

 

「一応、特定の場合において覚醒剤やモルヒネなどの一部の麻薬は使用することができる。しっかり量を管理すれば有用なものさ」

 

 アンナが補足する。

 

「へぇー、毒にも薬にもなるんですね」

「毒イコール量、なんでも過ぎれば毒になる」

「塩でも沢山食ったら死ぬもんなぁ」

「そう言う事だ。だが塩は全く摂取しないとこれはこれで死んでしまう。何事も良い塩梅が必要なのさ」

 

「塩梅……?」

 

 ナガトは聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 

「丁度良い加減のこと」

 

 チユが説明する。

 

「へぇー、初めて聞いた」

「初めて……あっ」

「ん?」

「座学なら足が折れててもできるわね」

「いや療養に専念しましょう」

「大丈夫、倒れてもベッド上だから」

 

「ふっ、座学なら問題ないだろうな。じゃあ私は研究に戻るよ」

 

 アンナは手をヒラヒラさせて去って行った。

 

「…………やりますよ」

「まだ何も言わせてないじゃない?」

「うぅ……」

 

「はーい、じゃあ始めるわよ、まずは四教科から」


「ちょっとだけでいいので休ませて下さい……」


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