41_修練進化_チユ
昼食尾食べ終わった頃合いのナガトをチユは見つけ出す。
「んあ、師匠も飯です?」
同席しているヤマトは気まずそうにチユを目に入れる。
「会議が思った以上に早く終ったから午後から訓練を再開するわよ」
「え、今日休みって!?」
「ナシ」
「ナシをナシにできませんか?」
「できません」
「……そこを、こう、なんと言いますか手心を加えて頂いて」
「諦めて」
「……はい」
ナガトは残っている飯を流し込むように胃袋へ詰め込むと直ぐに立ち上がる。
「なんだよ、せっかく話してたのに」
チユはわざとらしくヤマトの言葉を無視してナガトに顔を向ける。
「師匠とヤマトは仲悪いのか?」
「いいや、チユは獣桜組だから破門した奴と口が利けねえのさ」
ヤマトが補足する。
「厳しいんだな」
「まぁ……しゃーねえよ」
「じゃ、また飯食おうな」
「おう、またな」
ナガトは早々に立ち去っていった。
「人食い虎と仲がいいのね」
「ん? あー、命の恩人っすからね」
「そう言えばそうね。まぁ、殺されかけてもいるけど」
「そういうときもありますよ」
(そういうとき? この子、何を言っているの?)
「じゃあ、明日殺し合えってなったらどうする?」
「そんときは、そうならないようにまずはするかな」
「それでもなってしまった?」
「その時はその時」
(……待って、この子まさか)
「そう言えば、アイリだっけ昔一緒にいた女の子」
「あー、アイツかぁ……」
「今はシルバーベルで聖女様とか持て囃されて、時期司祭のポジションに着くらしいわよ」
「へぇー……アイツ何でもやるからなぁ」
「ねえ、ナガト」
「はい?」
「シルバーベルと君影研究所で友好協定を結べと言ったらできる?」
「良いんじゃないですかね?」
(嘘でしょ……どういう神経してるの?)
「いいのそれで?」
「師匠とまだちょっとしか修行してないですけど、思ったんですよね自分の感情より全体の利益が重要な時があるなぁって、当たり前だけど」
「そうね。よくあることよ」
「だから自分が嫌だなって思った時に嫌という感情を切り離して良いところと悪いところを比べて判断する。それでどっちも同じだなってなったときに感情を優先させようって」
「冷静さを失わない、これは重要よ」
(影響されやすいタイプじゃない。ということはこの子まさか――)
「まぁ言ってもうまく出来ているかわかないっすけどね」
「ねえ、ナガト、もしも私があなたの敵になったらあなたは私を殺せる?」
「やりたくないっすね。それに今は勝ち目がないので逃げます。でもまぁ、しゃーないこともあるのかな」
(他人に興味がないわけでもない。やっぱりこの子、生まれつき理不尽を飲み込めるタイプなのね)
「でしょうね、まぁでもあなたが道を違えなければ」
「師匠は道を間違えないのですか?」
「ええ、もちろん。何せもう現役引退しているもの」
「何で辞めちゃったのですか?」
「こう見えていい年なのよ。それに色々と顔を出しすぎて水面下で動けなくなったの。まぁそのおかげで派手に動く組織も今はいないのだけど」
「引退したのにそう言う手合いを抑えられるんですね」
「ええ、老いたと言えど寝首を掻くくらい簡単よ」
「流石師匠」
「まぁ、今は獣桜組が上手くやっているわ、私がいなくても大丈夫だと思いたいわね」
「獣桜組、いつか会ってみたいですね。どんな人たちなのか気になります」
(ナガトはやっぱり自分の感情を切り離してものを考えることが出来る子。生まれ持った素質、決して天才ではないのだけど――)
(私が最も欲しかった才能をあなたは持っているのね)
「そうね今度連れて行ってあげる。他に行きたいところは?」
「あ、ドイツに行ってみたいっすね。丙種になったら行こうと思ってるんですよね」
「ドイツ?」
「セレネっていう知り合いがいるんですよ」
「セレネさん?」
「セレネ・シュミットトリガ、確か親の会社を取り戻すとか何とか、凄いっすよなんて言うか戦う女性って感じで」
「へぇ……女性ね」
「どんなところで育ったのか気になって」
「セレネさんの事は好きなの?」
「うーん、たぶん?」
「ハッキリしないのね」
「よくわからないんですよ。それを確かめたくて会いに行きたい」
「そう……それならまずは等級を上げないとね」
「ですね」
何となく、チユはトレーニングをいつもより厳しくした。




