40_修練進化_カナメ
天帝邸、カナメの自室にてカナメとチユはそれぞれの訓練状況を報告のミーティングを予定していた。
「はーい、チユでーす!」
「キャラじゃないことするなよ」
「そこまで引くことないじゃない?」
「そのキャラは無理がある。あんた今年でいくつだよ」
「17歳よ?」
「…………じゃ、ミーティングを始めるぞ」
「冗談をスルーしないでくれる?」
「…………こっちはヤマトの面倒を見ているが予想以上に手を焼いている。よく獣桜組はあれを野に放ったな」
「はぁ……エマの御意志だから仕方ないじゃない。ああでもしないと組の連中に付け入られるかもしれなかったのだから」
「事情は大体わかっちゃいるが、もうちっとやりようがあっただろ。あの親子どこまで性格が不器用なんだか」
「そう言わないの。でも人食い虎の成長もなかなかじゃない? ちょっとお勉強が足りていないようだけど」
「かなり良いな。物覚えは悪いが愚直で自分のやれることをよくわかっている」
「そうね。人食い虎は自分の得意な領分に持っていくのが得意なのよ」
「だが、それは能力を広げる妨げになっちまうがな」
「そうなのよね。それをどう扱うかは陛下の采配じゃない?」
「だな」
「でも人食い虎をそこまで気に入るとは思わなかったわ」
「余もそう思わなかったさ。別に優秀じゃないし、腕はちっと立つが別にそれ以上でもそれ以下でもないな。ただなんか違和感があるんだよな」
「違和感?」
「なんて言うか、ベースが成熟していないって言うか、何かを見誤っている気がするんだ」
「人食い虎のベースは確定しているはずだけど? 遺伝子パターンもとっくに調査されているわ」
「そうなんだよなぁ……でもさ、トラってあんな強いか? いや強いんだけど。なんていうかアイツを見ていると自分よりも遥かにデカイ生き物に対しての方が闘争心を剥き出しにしているっていうか」
「それはベースではなく人間の頃の性格によるものじゃない?」
「その範疇かどうかはヤマトの成長次第か」
「そうね」
コンコンコンコンとノックが四度鳴る。
「いいぞ」
「失礼します。お飲み物とお茶菓子をお持ちしました」
「ここに置いてくれ。あとはこっちでやる」
給仕が紅茶とグラブジャムを配膳する。
「あら、私の好みに合わせてくれたの?」
「そっちはカロリー摂取に命懸けだろ?」
「こういう配慮、嬉しいわ」
「そりゃどうも」
カナメは試しにグラブジャムを一つ口に入れて、顔を引きつらせた。
「じゃあこっちの番かしら?」
「頼めるか?」
「こっちは順調と言えば順調だけど不調と言えば不調ね」
「どういうことだ?」
「かなり厳しくしている。それでも必死についてくる。メニューを増やして負荷をかけ続けているのだけど何とかギリギリでついてくる」
「良いことじゃねえか?」
「それなのに一向にナガトの特技や特性が自覚しないのよ」
「ナガトのベースはトッケイヤモリとカーペットパイソン、それとあと四種類あるんじゃなかったか?」
「ええ、それも普通なのよ。トッケイヤモリの壁に張り付く能力やカーペットパイソンの熱感知、色々できるんだけどそれを得意としないのよ」
「それは変だな」
「私としてはもっと自分に自信を持って欲しいのよね」
チユはグラブジャムをご馳走のように頬張る。
「……ナガトは気に掛けるんだな?」
「え?」
「いや、弟子入りした奴らはみんな、お前にボロッカスに言われてるのにナガトだけ妙に優しいなと思って」
「そうかしら、普通のつもりだけど?」
「そうかぁ?」
「なによ?」
「いや、なに、惚れたか?」
カナメは冗談気味に茶化す。
「さて、どうかしらね?」
(ん? 否定しないのか)
「そーかい」
「まぁでも、男として見るならもうちょっと男前の方が好きね」
「それは、そのうちだな。男の顔は場数踏むしか磨けないからな」
「それもそうね。そう言う意味ならあの子はいい顔になってきたわね」
「お、脈ありか?」
「まぁいいじゃない。そんなことよりそろそろ試験の話をしましょう。最初から本題はそれなんだし」
「へいへい、そんじゃ、あいつらの昇格試験をどうするかだな」
「どうせなら二人を再戦させるのはどうかしら?」
「こっちは構わないがタイマンだったら間違い無くヤマトが勝つぞ」
「大した自信ね。じゃあこういうのはどうかしら? 簡単な攻防戦、攻めはナガト、守りはヤマト、拠点にフラッグでも立ててそれを回収した方が勝ち」
「守りの方が有利なルールだがいいのか?」
「これが出来なきゃ話にならない」
チユは氷のような冷たい声音で言い放った。
(現役時代のスイッチが入ったか?)
「いいんだ。ヤマトは手加減できねえぞ?」
「ええ、良いわよ」
「わかった、試験日はいつにする?」
「いつでも良いけど?」
「そうだな、当日の段取りとか準備、ここにいる人間への周知もあるから二週間後でどうだ?」
「二週間後ね」
チユはグラブジャムと紅茶を飲み干すとすぐに立ち上がる。
「今日ぐらいナガトを休ませてやれば?」
「言ったでしょ、私には時間が無いの」
「おい、ナガトの肉体の話をしてんだよ、いくらなんでも高負荷過ぎる。肉体が先に持たなくなるぞ」
「……それでも、よ」
「知らねえぞ」
「あなたが私に預けたんじゃない」
チユは何も言わないまま去って行った。
「どうなっても知らねえぞマジで……」
カナメはため息をつく。
それからグラブジャムを口に放り込む。
「歯が痛くなるくらい甘めえ」




