39_修練進化_ナガト
椿宮師団、天帝邸には一般人にも開放している食事処『天竺』がある。メニューは日替わりだがどれもそれなりにうまいで評判だった。
ナガトはチユが半日不在のため久しぶりの休みを得ていた。とは言え、三ヶ月ぶりにまとまった睡眠に全ての時間を費やすことになる。
「……あっ」
天竺は長いテーブルがいくつもあり相席でみんな思い思いの食事を摂る。
当然、顔なじみにも会えるのだが。
「……よぉ」
顔面がボコボコに膨れて最初は誰かわからないが声でヤマトだとわかった。
「ひっどい顔してんなぁ……カナメ陛下にボコられてるらしいな」
「そっちもチユにやられてるって話聞くぜ?」
ナガトも血色が悪く、唇は青く血の気は無い。顔はそうでもないが体中擦り傷や打撲で悲惨なことになっている。それでもチユが適切な処置をしているため傷跡は皆無だった。
「まぁな。てか師匠……あの人は一体何者なんだかな」
「さぁな、獣桜組の等級丙種以上なのはわかるが誰も詳しいことはわからねえ」
「経歴不明か」
「俺もガキの頃から世話になってるが、組の連中誰に聞いてもチユはよくわからねえの一点張りだ」
「そっちはいいよな、どんな人か一発でわかる」
「はぁ? お前この顔を見て何言ってんだ?」
「夜は寝れるだろ?」
「そっちは……一日何時間寝てるんだ?」
「多い日で1、短い日で40」
「はぁ?」
「1時間寝れれば多くて、短いときは40分だ」
「こっちは三日間ぶっ通しだ」
「嘘だろ?」
「三日やり合って、一日ぶっ倒れて飯食って、また三日ぶっ通し」
「そっちもハードだな」
「隣の芝生は……なんとやってやつだな」
「青く見えるだっけか?」
「そうそう」
「そうだな」
「なぁ、ナガト」
「お?」
「丙種になれるか?」
「どうだろうな」
「そうだよな」
「やっぱ不安になるよな」
ヤマトは咀嚼するたびに腫れた頬が痛がりながら雑穀飯をかき込む。
「ナガト、なんでおめえ等級を上げたいんだ?」
「姉ちゃんを助けるために海外の医療技術が必要でさ、渡航許可は普通の感染者じゃダメらしい」
「姉さん、助けられるといいな」
「そっちは?」
「俺か?」
「こっちが教えたんだからそっちも教えろよ」
「あー……、まぁ獣桜組に戻るためだな。破門されってから」
「破門?」
「獣桜組の構成は知ってるか?」
「知らね」
「じゃあ、長い話になっぞ、組織構成とか成り立ちとかそんなところからになる」
「聞かせろよ」
「獣桜組は元々ヤクザの一派だったんだが、今はPMCということになっている。まぁヤクザ時代の黒い部分はそのままだけどな」
「なんでヤクザがそんなことに?」
「単純だ。ウイルスを世界に広めないようにするためだ」
「……すまん、よくわからん」
「ウイルスを武器として売るんだよ。これだけ身体能力を強化できるならいくらでもほしがる奴はいるだろ?」
「確かにそうだな」
「もちろん表社会では天帝様がうまいことやって押さえ込んでいるが、裏ルートはどうする?」
「そっちに詳しい人を使えばいいな」
「そこで目を付けたのが日本有数のヤクザでしかも親でもあるかあ……エマさんになる」
「裏と表両方を押さえるってことか」
「そう言う事だ。ただちょっと賢いのはエマさんは特殊感染者を生み出せる能力を使って裏社会を牛耳っている」
「毒を以て毒を制する。だな」
「……んだそれ?」
「感染者を使って感染を抑えてる的な?」
「最初からそう言え、インテリ野郎」
「……話を続けてくれ」
「その感染者の中から選りすぐりの奴らに等級を与えて一門……傘下の組織を再編成したってことだな。それが獣桜十二会」
「ボスにエマさんがいて、その下に十二の組織があるってことか?」
「そういうこった。んで、俺はガキの頃にエマさんに拾われて世話になってたんだ。んで十五のおりに寅組で下積みとして勤めさせてもらってたんだだが」
「だが?」
「このウイルスと地震の折に寅組の組長はエマさんが禁止しているウイルスの密売と違法薬物、子供の人身売買をやってシノギを立ててやがった」
「おいそれって……」
「ほぼ黒確定だったんだが、念のため審問会を開くことになったんだ。寅組の組長はエマさんのお気に入りの一人だったからな。息子も同然だ」
「情状酌量の余地を探した?」
「ああ、そのつもりだったらしいが、肝心の寅組の組長は夜逃げをしようとした。それを見つけた俺は、殺した」
「……そうだったのか」
「あんなだらしねえ姿を見たくなかったし、何よりもエマさんが喜ぶと思ったんだがな。手間を掛けずに粛正できたんだから」
「でも破門になったんだろ?」
「ああ、まだ罪状が決まってない状況でなんの権限も無い俺が組長クラスを殺した。ってのが破門の理由だ。納得いかねえよな」
「俺はヤクザのルールを知らないからなにも言わねえ」
「で、俺はなんで破門されたか知りたい。でも力が無い。丙種になればエマさんに直接話ができると思ってよ。だから等級を上げたいんだ」
「そうか……」
「なんだよ、チープだって言いてえのか?」
「違う違う。そういう進み方もあるんだなって。ほら俺はさ成り行きで進む道が決まったしそれで良いと思ってるけど、そっちは知りたいことに対して自分で進む道を決めてるから。それもありだなって」
「なんだそれ、よくわからねえな」
「お前はもうちょっと国語と道徳を学んだらどうだ?」
「うるせえナガト、俺は七つの時から学校なんざ行ってないんだよ!」
「まぁ、俺も中学途中で日本がこれになったし、まとも勉強できてねな」
「そんなやつゴロゴロいる。まぁ頭は良いことに越したことはねえが今は体が大事だよ」
昼飯を食いながらナガトとヤマトは身の上話に花を咲かせた。




