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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
ゼロの胎動~対極生命~
94/97

24,電光石火と亀足

「――ここだ!」

 ヴェルデフレインとソウルイーターが当たった。――そのわずか一瞬。ティアナはヴェルデフレインを蹴り、三角飛びの要領で、大きく後方へ飛んだ。

「なっ……!?」

 クリッパーにしては、地味な攻撃だったかもしれないが、それでも一撃必殺を狙えるものだった。しかけるタイミングも悪くなく、申し分のない一撃。仮に防御できても、そのクリッパーの剛力で、威力は殺しきれない事が多い。

 かつて火の騎士ティーダや、爆炎の騎士ラティオが、剛力を防御した結果、逆に大ダメージを受けたという、戦いもあったのだ。

 だが片足で立ち、踏ん張りのほとんど利かない状態。そして自ら後方へ飛ぶ事で、その威力は八割殺せただろう。

(――それでも)

 そう、それでも、攻撃手はアルティロイドの中でも、断トツトップにいるクリッパーの一撃である。威力を八割殺せても、肉体に伝わる衝撃は、想像以上のものがある。

 だがこの程度、こと戦いにはよくあるものだ。痛みのない戦いなんて、ないのである。これで痛いと泣き叫んでいたのなら、所詮ティアナはそれまでの戦士だったという事だ。

 戦士として戦場に立ったからには、そこに女や子供といった概念は、存在してはならない。それは戦う自分自身も、相手も、常に胆に命じなければならない。

 ――それを怠れば、待ち構えているのは、死という安息だからだ。

「やああぁぁぁ――!」

 着地したティアナは、一気に攻勢に繰り出す。直撃を確信していたクリッパーは、今度は自身の攻撃後の硬直に、悩まされる事になる。

「ちぃっ……!」

 硬直がありながらも、怪力でそれに抗う。わずかながら、肉体が動く。

 それでも完全に防御するには、ティアナの速度が、一定の基準よりも遅い事が、前提条件となる。

 だがティアナは、そんな予想よりも遥かに速く、クリッパーとの間合いを詰めてくる。

(これは……)

 その速さを活かして、一気に斬り込んでくる姿。クリッパーには、見覚えのあるものだ。

 ティアナは、真横にヴェルデフレインを走らせる。想像以上の速さでの接近で、深手にはならなかったが、クリッパーに一撃をくらわせた。

 クリッパーの腹部から、左腕にかけて、鮮血が赤い霧のように見える。

(速さを活かして、急速接近。その速さはまさに、電光石火――。なるほど、争えんな)

 電光石火の接近。それはかつて、火の騎士ティーダが、自身の速さを活かして得意とした、戦闘スタイルである。

 だが、電光石火の本当の狙いは、速さを活かす事だけではない。アルティロイドの中では、唯一、パワーの能力が低いティーダが、速度の慣性をつけて、勢いのままに斬りつけるという、自分の弱点を補う為の戦術だ。

 そしてティアナが使ったやり方も、まさに本家そのままの、意図があってこそなのだ。女のティアナでは、腕力において不安が残るが、この方法を使えば、クリッパーにダメージを残す事は可能だ。

 助走をつけて攻撃する、という単純な方法であるが、単純故に効果は抜群である。

(もう一回っ……! いや、一回なんて言わず、二回、三回! この人に勝つには、私じゃ経験が足りない。でも……、足りないなら足りないで、全力で戦うだけだっ)

 二回目の電光石火。

 速度は衰えず、むしろ一回目の時よりも速い。

 走り抜ける剣線。だが今回は、鮮血ではなく、火花が散る。血にしても火花にしても、端から見ると美しく感じてしまうのは、傍観者だから感じられるものなのだろうか。

(見られてる――!?)

(よく見ているよ。お前の剣線をな。戦術こそ似通えど、スタイル自体には、大きな違いがある。……甘くは見ない、まずはお前の力を見極める!)

 開戦間際とは、逆転した構図。クリッパーはどんと構えた、防御重視の姿勢である。余談だが、攻撃しても防御しても、クリッパーという男は絵になる。それは、恵まれた体躯からなるものだろう。

 そして三回目の電光石火。これも速度は衰えるどころか、更に速度を増している。

(速く動く為の、コツでも掴んだか? ……いや、コツを掴んだからといって、ここまでのスピードアップにはならない。ある種の天賦の才か……)

 天賦の才。それもあるだろうが、これは歴としたティアナの経験である。

 電光石火で攻撃をしかけてくる相手、そう黒騎士――クロディアンである。そしてその正体こそが、火の騎士ティーダなのだから、皮肉なものなのかもしれないが。

 どっちにしても、経験をすぐに自分の技術にできてしまうのだから、やはり天賦の才なのかもしれない。

 再び起きる火花。完全に太刀筋を、見切られている証拠だ。闇の騎士という男には、電光石火の目にも止まらぬ攻撃さえも、その二つの眼に納めている。

 ティアナの開花し始めた、天賦の才も凄いが、やはりこの男も、百戦錬磨の強さがある。

 そして返した足で、更に四回目の電光石火。

「無駄だっ!」

 クリッパーが吠えた。

(三度も防御に回せば、その剣をも見切れよう。四度はないぞ?)

 事実、次に剣と鎌が交差する時、クリッパーは反撃に移るつもりだ。次こそは息の根を――その細い首を跳ねるという、強い気持ちが現れている。

 ティアナは疾走する。四度目のそれは、ティアナの過去最高の速さであろう。本家との差はあれど、着実にその強さと速さを、磨いていく。

 そしてヴェルデフレインとソウルイーターが、その刃と刃が触れるかという刹那――。

(なっ、何だと……!?)

 当たる瞬間、ヴェルデフレインの刃が、クリッパーの視界から消えた。

(消えた? いや、馬鹿な、そんなはずはない!)

 クリッパーほどの猛者さえも、呆気にとるぐらいに、ティアナのカラクリは見事だった。

 そして――。

「ぐぅっ……!?」

 突如、クリッパーの顔面が弾けた。星が見えるとは、よく言ったものであり、それぐらい突然の衝撃が襲う。

 その答えは、ティアナの左拳が、クリッパーの右頬を殴打した為だ。

 それを確認できたのは、もうしばらく後になってからだった。

「一回で駄目なら……。二回、三回っ!」

 再度、顔面へ。続いて胸部、腹部、そしてまた顔面へと。がむしゃらな拳を、何度も叩き込んでいく。

 とても女の子がやるような、攻撃手段ではないのは確かだが、それでも戦いにおける、有効手段なのには変わりない。

 そして遂には、『あの』闇の騎士――クリッパーに、尻餅をつかせたのだ。それを合図に、一旦間を開ける。

(よしっ、やれたっ!)

 人知れず、ティアナは小さなガッツポーズをとった。

 この戦いは、ティアナの今までの経験を、全て出した戦いと言っても、過言ではないものだ。シンラの三角飛び。黒騎士の電光石火。ラティオの拳の弾幕。

 やれるかどうかの、不安はあった。ティアナにとっては、みんなが偉大な戦士であり、尊敬すべき技術の数々だ。

 そして、尻餅をついたクリッパーは、自分が殴打されたのだと気づいた。身体中に走る痛みは、骨と骨がぶつかり合った類のものだ、と。

 認識できるまでに、クリッパーにしては、長すぎる時間だった。それほどに見事過ぎる、騙し討ちだったと言えよう。

(まさか、これ程とは……。火の騎士の剣を継ぐ者、というだけの事はある。何よりも、あの命の騎士の生まれ変わり。かつての戦闘力は無いと、あの坊やは言っていたが、……ふん、俺も随分と甘くなっていたようだな)

 のっそりと立ち上がったクリッパーには、今までとは比較にならない威圧感があった。

 ティアナも、思わず生唾を飲み込む。汗が一滴、流れ落ちる。身体は正直であり、目の前にいる男の恐怖を、理性よりも先に感じとっている。

「もう、手加減はしないぞ?」

 淡々と発せられた言葉は、この男の本質を彩っていた。まるで機械のような、それでいて重厚な。

 ここからが、二人の真価の戦いになる――。


 目の前にいるのは、城国に属するアルティロイド――光の騎士リオである。

 カルマンの、物々しい様相とは正反対な、美しい金髪と白い衣に身を包んだ、天使のような外観の女性である。だがカルマンには、とても天使などには、見えなかったのである。

「貴様を……また、この目に見れる日を、俺は心待ちにしていたぜ?」

 いつもの感じではない。カルマンを知らない人が聞いても、その口調には怒気がはらんでいた。

 だから尚更、カルマンを知るシンラには、その怒気をダイレクトに感じとれていたのだ。明らかに、こんなカルマンは異常なのである。

「はあ? 誰、あんた? 私、あんたみたいな奴は知らないんですけど? キャハハハ!」

 小馬鹿にしたような、リオの態度。実際、馬鹿にしているのだろうが……。

 シンラが一応、たしなめる。まさかこんな挑発に、乗るとは思えないが、今のカルマンは普通とは違う。

 だが、心配は当たっていた。ちらりと見えたカルマンの表情は、血眼と、絵に描いたように、血管が膨れあがっていた。

「貴様は俺を覚えてねぇか? でもな、俺は貴様を片時も忘れた事はない……」

「うわっ……キモ! あんた、ストーカー? 変な見た目もそうだけど、頭もイカれてんじゃないの? キャハハハ!」

「俺は貴様に、恩師を奪われ、戦友を奪われ、そして腕や眼を奪われた男だ。……返してくれ……なんて言うつもりはないが、変わりに俺も貴様を奪ってやる!」

 その言葉を聞き、リオは小馬鹿にした笑みから、小悪魔のような残忍な笑みへと、その表情を変える。

「ふぅん……。復讐ってわけね? 面白いわ、そういう奴を殺すのって! どうやって殺してあげようかしら? 残った腕と眼を奪ってから、ゆっくりと殺してあげようかしら? 虫けらのように遊んであげるわよ? キャハハハ!」

 リオの纏う衣から、四つの自律起動兵器――パルティナが放たれる。その銃口全てが、カルマンに向けられた。

 一方で、カルマンの言葉に、より反応を示したのは、少し離れた位置で、それを見聞きしていたシンラである。ある種の衝撃が、彼女の心に響く。

(私と……同じだ……)

 心の声を呟いたシンラの顔は、何とも言い難いものがあった。強いて近い言葉をあげるならば、トラウマを刺激された顔だ。

 それと同時に沸き上がってきたのは、目の前にいる男の力になりたい、という感情だった。それは純粋な感情であり、唐突に出たものかもしれないが、確かにそこにあるもの。

「さあ、いくわよ! キャハハハ!」

 四つのパルティナが、カルマンに向けて、光の弾を放つ。

「くっ……!」

 弾は速い。それは記憶の中の、過去のパルティナよりもだ。

(さすがに、これだけの長い歳月だ。武器の強化は、怠らなかったようだな。だが……)

 カルマンは、自身の鈍重さから、回避するのは不可能と判断。巨大な機械腕を盾にしながら、一歩一歩、着実に歩を進めていく。

 幸いな事に、パルティナの光弾の威力は、防御しながら進められる程度の威力である。更に幸いな事は、光弾の速度強化はしているものの、過去に失った四つのパルティナの、復元をしなかった事だ。

 元々、パルティナは八つ。それが半分の四つになっているのだから、火力は単純に見ても、過去の半分にしかならない。

「亀のようね! そんな遅いペースじゃ、いつまで経っても、私のプリティな背中は捕まえられないわよ!? キャハハハ!」

(――遅くて結構! 俺は今も昔も、天才肌とは真逆の位置にいる。亀だかなんだか知らないが、一歩一歩、着実に近づいて、必ず貴様を捉えてやる!)

 雨のようにカルマンに当たる、パルティナの光弾。威力は弱いが、このまま受け続ければ、確実にカルマンの体力を奪っていくだろう。

 カルマンの志は立派だが、正に亀のペースで接近していたのでは、一体いつになればリオに届くのかも、一切わからない。仮にあと一歩のところまで接近できたとしても、リオは機動力に優れ、おまけに空まで飛べてしまうのだから、雲を掴むような話になってしまうのは、最早言うまでもない。

 この状況を打開する、何か外的要因が必要になるだろう。

「――そんなペースじゃ、寿命で死ぬまでに、たどり着けるかもわからないわよ?」

「むっ……!?」

 この二人の戦いにおける、外的要因とはシンラである。

 ティアナはクリッパーとの戦いで、手一杯のところを見ると、シンラだけが自由に動ける駒であり、このシンラの行動次第により、戦場の流れは大きく変わる事になる。

「何よ、女ァ! 別にあんたが加わったって構わないのよ! よく言うじゃない? 一人殺すのも、二人殺すのも一緒だって! キャハハハ!」

「そう? じゃあ、お言葉に甘えて――!」

 シンラは人の形から、本来の姿である狼の姿へと変貌する。こうすれば、人型の時よりも、速度は目に見えて跳ね上がる。

「狼のキメラ!? ――ちっ……!」

 一気に接近するシンラ。

 それを迎撃しようと、カルマンに向けていた四つのパルティナの内、二つをシンラに向けて放つ。だがこうなった事によって、カルマンを押さえつけていた圧力は一気に低下し、先程よりも少し速い歩行で、リオに接近を開始する。更に二つの砲門では、シンラのトリッキーな動きを捉える事はできず、一瞬にして間合いを詰められてしまう。

 リオは後方に下がる事も、上空へ飛ぶ事もできた。それをしなかったのは、自分がアルティロイドであるという優位性、そこからくる高慢な性格が災いしていた。

 懐に飛び込んだシンラが、やるべき事は一つ――思念武装の具現化――。手足が使えない為、口にくわえながらの装備になる。牙のような刀のような剣、便宜上『牙刀(ガトウ)』とでも呼ぼうか。相変わらず、目を奪われる程の鋭利さであり、逆に言えば鋭利な刃物のような、そんな感情がシンラの奥底にはあるという事でもある。

「――覚悟なさい、小娘!」

「ひっ……!?」

 二人の女は、既に表情が違っていた。

 何か覚悟のような、力強い眼差しをしているシンラに対し、自分があと一歩のところまで攻め寄られ、そのか細い首筋に刃を突き立てられ、恐怖するリオ。

 普通に戦えば戦闘力において、圧倒的に劣るシンラが勝てる見込みはない。だが、カルマンに目を奪われ、攻撃の手が緩み、相手は格下だという高慢を抱いたリオに、ある種、不退転の決意があるシンラがここまで来られるのは、必然といえよう。

 そして、鋭利は牙刀が、リオの首を切断するかというその時――。

「――なーんちゃって! 馬っ鹿じゃないの? マジになっちゃってさ! キャハハハ!」

「うぐっ……!?」

 シンラは自分の感覚を疑った。自分の右後ろ脚に、激痛が走った為である。

 パルティナは全てを回避し、その武器の性質上、所有者にこれだけ接近すれば、撃てないはずだ。何故ならば、所有者自らが、自分を撃ってしまうという自爆があるからだ。

 それにこの痛みは、熱を伴った光弾に『撃たれた』痛みではなく、何か刃物のようなもので『刺された』ような、鋭い痛みである。

(馬鹿な……この娘の武器は、光を放つものだけじゃなかったの?)

 シンラは、自分の右後ろ脚を凝視する。

「こ、これは……!?」

「キャハハハ! 私のように聡明な女が、満足に武器も揃えずに戦うわけないじゃなーい? ……さぁ、見せてあげる! これが光闇の騎士の新しい武器、自律機動兵器――フォルトゥナ!」

 フォルトゥナと呼ばれたそれは、パルティナと違い、ダガーのような形状をした飛行する刃物だった。

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