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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
使者~最後の団結~
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19,二つの戦い・前編

 ――それは、今から数十分前の事。

「……私達、パーシオンは打って出よう。仮にもあれが、我々と同じレジスタンスだったとしたら、それを地上に生きる仲間として、見過ごすわけにはいかない!」

 ハリスは、打って出る事を選択する。その発言に、カルマン以下パーシオン兵達は、一層に気を引き締める。

「――但し、目標の得体が知れない事も事実。よって目的地に向かうのは、少数精鋭。ティーダ、カルマン、ロビンの三名とする」

 ハリスの発言に、作戦室はざわめきだす。

「目標に当てるのは、我がレジスタンス、最高の兵士だ。もしも敵の罠ならば、三人でこれを、瞬時に撃滅。敵にここの位置を悟られるな!」

「もしも、味方がいたなら?」

 非常に冷静な口調で、カルマンが質問する。

「うむ、仮にも味方がいた場合、ティーダを攻撃の基点とし、ロビンで防御壁とする。その間にカルマンが、誘導できるだけの人間を、安全な場所まで避難させる。――いずれの場合にしても、重要なのは、敵にここの位置を悟られてはいけないという事だ。そして残った我々は、万が一に備えて誘導の準備だ! ……何か質問はあるかな?」

 すると、後ろの方から、小さな手が上がる。

「はいっ!」

「ティオちゃん? 何かな?」

「えっと、質問というわけではないんですけど……」

 話すべきか迷っている、そんな感情がはっきりと、読み取れるようなティオ。ハリスも努めて優しく、声をかける。

「構わないよ、どんな事でも言ってくれて良い」

「……この作戦、私もティーダやカルマン君と一緒に、連れていってください!」

 これを聞いたティーダは、感情を顔には出さない。代わりにカルマン達が、驚いてみせる。

 ハリスもまた、内心では軽い驚きはあったが、顔には出さず、その出で立ちは冷静である。

「と、いうのは?」

「え、あの、明確な理由は特には無いんですけど……こんな言い方、悪いとは思いますけど、何となく、です」

 眼鏡をかけ直し、「ふむ……」と唸り声をあげるハリス。

「俺は賛成、しておくよ」

 今まで黙っていたティーダが、静かに口を開く。

「何故だい? ちなみに僕は行かせるべきではない、と考えている。現地では何が起こるかわからない。みすみす彼女を、危険に曝すわけにもいくまい」

 ティオは、暗く沈みこんでしまう。

「正論だな。だが、こいつの勘はある意味で当たる。不確定要素は高いが、連れていく必要はある」

 これにつられて、カルマンも口を開く。

「俺からもお願いします。きっと守り抜いてみせますから!」

 ハリスは、ティーダ、カルマン、ティオの、三人の顔を見回した後、深いため息をつき言う。

「……わかったよ。但し、ティオちゃんは、カルマンとロビンの後方、何があっても逃げられる位置を、キープする事。そして戦闘そのものには、間接的にも、関与しない事。……この二つを、守ってくれるね?」

「はいっ! ありがとうございました。……それと、わがままを言って、ごめんなさい」

「うむ。――よし、では作戦開始だ! 一人の死者すら出させず、各個が全力を尽くすように。以上!」

 これが今回の作戦。

 少数精鋭による行動。攻撃にティーダ。防御にロビン。指揮にカルマン。そして味方がいた際の、誘導にティオ。

 そして、現地に到着すると、ティオの勘は当たっていたのだ。オルテンシアとバゼットの時間稼ぎにより、エスクードの民は姿を隠せた。しかし、その結果として、リオがパルティナにより、一帯を吹き飛ばすという暴挙に出てしまう。

「カルマン マカセロ」

 ロビンは自分の右腕を、リオに向け、狙いを定める。ロビンの右腕は、ギガンティックアームズといい、旧時代にあったとされる、タイホウやテッポウのように、弾を発射させる腕だ。

「よし、ロビンが撃ったら、ティーダはあの大鎌を持った奴を、抑えてくれ!」

 カルマンの指示に、ティーダも黙って肯定する。

 そしてロビンの右腕から、一発の砲弾が放たれた。迫力ある発砲音と共に、飛び出すティーダ。その鋭い刃は、もう一人の最強の騎士、闇光の騎士クリッパーを狙っていた。


「――待っていた、待っていたぞ! 火の騎士との決着を、最強の称号を奪う日を!」

 激しい火花と共に、交差する互いの武器。力でクリッパー、技でティーダ。一進一退の攻防は、一瞬でも気を抜いた方が、その刃の餌食となってしまうだろう。

 クリッパーの怪力からなる、大鎌からの一撃。それを受ける度に、ティーダの体が右に左にと、大きくブレる。だがこれは、ティーダだからこそ、この程度で済んでいるといっても、決して過言ではないのだ。

 仮にも、この怪力を真っ向から受け止めたのならば、その力を止める事はできずに、吹き飛ばされる事は明確だ。

 その証拠として、過去のクリッパーとの戦いが、全てを物語っている。解放大戦時、相対したティーダとラティオは、その一撃により、激しく壁に叩きつけられた。同じくしてオルテンシアも、武器破壊という代償を払う事になったのだ。

(クリッパー、更にできるようになったな)

 大鎌による豪快で鋭い一撃、それを受け止めるでもなく、捌く形での戦いをする。

「ぬぅあっ!」

 そのまま回転をしてしまうのではないかと、錯覚してしまうクリッパーの縦振り。それを見極め、ティーダは大きく後方へ飛び、距離を離す。そのまま左手をクリッパーへ向け、火球を数発放つ。

(今回の俺の目的は、決してクリッパーを倒す事ではない。――俺はクリッパーとリオが一緒にならないようにする為の、いわゆる時間稼ぎ)

 放たれた火球を、防御も弾き返すわけでもなく、そのまま接近してくるクリッパー。

「この程度の攻撃、防御する必要も、避ける必要もない!」

 突進の勢いと共に、ソウルイーターで突きを繰り出す。鎌で突きをしても、刃は裏返ったままだが、クリッパーの怪力の前では、ただ物を振っただけで、一種の凶器となる。

 ティーダはその一撃をかわし、反撃を繰り出す。クリッパーの背中に走る剣線。そこから血飛沫が舞う。

「ぬ、うっ……ぐ!?」

 苦痛に多少ながら顔を歪めるが、クリッパーはよろけを感じられない。

「お前は確かに強いかもしれないが……その強さに『あぐら』をかいてしまっているな」

「ほぉ、この俺が?」

「だから一対一で、背後を斬られるなんて事になるんだ。絶対的な経験値、それが俺とお前の差だ」

 そっと目を瞑り、呼吸を整えだすクリッパー。ティーダもわざと、その隙に攻撃をしかけないでいる。

「――なるほどな、そういう事か。この俺との戦いは……時間稼ぎ、という事だな」

「……どういう事だ?」

「とぼけなくて良い。敵である俺に対する、心優しい説教。それにここまで隙を見せている俺に、攻撃を仕掛けてこない」

「お見通し……ってわけか」

 やれやれ、といった感じで、軽くため息を吐き出すティーダ。

 そして対称的に、クリッパーは表情を変える事はない。

「だが俺には、そんな事実は興味はない。俺が興味あるのは、火の騎士と最強の称号のみだ!」

 気合一閃。再び、その躍動する肉体と共に、一気に間合いを詰めるクリッパー。首筋に狙いを定めた攻撃を、ティーダはヴェルデフレインを使い、受け止めてみせる。一瞬の力比べ、しかしすぐに勝敗はつき、ティーダは大きく薙ぎ飛ばされてしまう。

「くっ……この、馬鹿力め!」

 飛ばされながらも、再び火球を放つティーダ。

「時間稼ぎ……そんなもので俺を倒せるかっ!」

 やはり火球をものともせず、突進移動をしてくるクリッパー。瞬きする間に追いつくと、その大鎌を上から下へと振り下ろす。ハンマーで殴られたような衝撃と共に、ティーダは地面に叩きつけられた。とてつもない怪力による威力は、少しでも気を許せば意識を刈り取られてしまいそうになる。

「俺を圧倒してみせた、あの力を出せ。俺はこんなものでは倒せん!」

 全身に走る痛みに耐え、剣を支えにしながらも、立ち上がるティーダ。しかし、その瞳の光はいまだ失われない。

 あの力――それは火を超えた、業火の力。風の騎士ジュークとの一戦で、教えられた覚醒の力だ。

(業火の力……あれ以来、やろうと思ってもできない)

 業火の騎士への覚醒。できていたのならば、最初の段階で、クリッパーを仕留められていただろう。

「出し惜しみか、良いだろう。ならば、出さざるをえないようにしてやるだけだ」

 ティーダとクリッパーが、一進一退の攻防をする一方。カルマン達にも、命を賭けた戦いがあった。


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