18,引き金を引く者
今回の話は、リオが汚い(教育上よろしくない)言葉を連発します。
好きじゃない方はスルー推奨。
火薬餅の一件から、数日。大方の予想通りに、城国からの南側のレジスタンス攻撃は、極少数に限られていた。新しいパーシオンは、洞穴という見つかりにくい習性を活かし、現在までの難を逃れている。
しかし、その時に見張りについていた、一人の兵士がとある異変を発見する。カザンタ山岳地帯の、高い位置という利点により、発見された出来事である。
それは遥か北の方から、煙幕のような煙が少しずつながら、南側へ近づいているという事だった。いや、煙幕というには少々穏やかなもので、実際にはまるで爆発の衝撃のような、砂埃が舞っているというものが正しいのかもしれない。
「ふむ……どうだい、ロビン。何か見えるかね?」
「ワカラナイ デモ タシカニヒトノヨウナモノガミエル」
ロビンの眼は、一種の双眼鏡にもなっており、遠くの景色を見渡せる。ハリスはロビンの見た報告により、今後の動向に対する考えをまとめている。
先手必勝。打って出るべきか、様子を見るべきか。パーシオン内での多数決も見事に割れてしまい、後は兵士長としての、ハリスの判断により決まるという状況である。
「ハリス兵士長、どうです?」
思考を巡らせるハリスに、問いかけてきたのはカルマンだ。
「カルマン、確か君は様子を見るべき、と提案したね?」
「はい、その通りです。せっかく見つけた洞穴という、最大の隠れ蓑になる場所です。俺達の誤った判断によって、一般の女子供を戦いに関係させるわけにはいきません! 下手に攻撃を仕掛け、仮にもこの位置が見つかってしまうのは避けたい、というのが俺の意見です」
「あのやんちゃだったカルマンが、そういう冷静な判断をしてきてくれてしまったのが、どちらにするかの悩みの種になってしまうとはね……いずれにしても、私の力不足か……」
ハリスは、その眼鏡の向こう側に起きている景色を、今はただ傍観している事しかできなかった。
もしかしたら、あれは城国の罠かもしれない。そうだとすれば、ここは行くべきではない。しかし、もしもあれが仲間の危機だとしたら――そうも考えれば打って出て、助けるべきなのだ。現にパーシオンには、並の戦力を蹴散らせる力を備えている。
「――カルマン、そしてロビン。肝心な時に、役に立たない私を呪ってくれても良い。君達に任務を命じたい」
一つの決心と作戦を考えたハリスは、その旨をカルマンとロビンに伝えた。
――旧パーシオンから、やや北東に位置している場所。その爆発のような砂埃が上がっている、大元となっている場所がここだ。
そこでは、数人の兵士同士による、小規模な戦闘が行われていた。追手は城国軍、しかし数は二人。対する追われる側は、約十人ほどだろう。こちらも前線に出て、戦っているのは二人だ。
戦局は事実上の二対二。そして、その四人の姿は見知った姿なのだ。
「くっ……奴等は一体何者なのだ!? 我々がこうもやられるとはっ」
「我が命尽きるとも、姫を無事に南の地へ、送り届けるのみ!」
追われる側の二人、その正体はティーダが、遥か東の地で出会った者達。
エスクード城に、絶対の忠誠を誓う、複合生命体の騎士。鷹の騎士オルテンシアと、鷲の騎士バゼットである。
「キメラにしてはよくやる。強き剣、殺すには惜しいな……」
「キャハハハ! でも殺しちゃおうよっ、どこの田舎のお姫様だか知らないけど……お姫様ってだけで、イラってしちゃうじゃない? 殺っちゃえ、殺っちゃえー!」
そして対するは、城国が誇るアルティロイド。光闇の騎士リオと、闇光の騎士クリッパーである。 ここまでは何とか、互角の戦いを繰り広げている、オルテンシアとバゼット。しかし、それは明らかな手加減によるものだと、これ程の腕を持つ二人が、気づかないはずは無い。
「この強さ……まさかティーダと同じ、アルティロイドという奴なのか」
オルテンシアの発言に、食いつくクリッパー。
「ほぅ、火の騎士を知っているようだな、一体どこにいる?」
「火の騎士?」
バゼットが聞き返した。
「火の騎士っていったら、ティーダ兄様の事に決まってるじゃない、アンタら馬鹿ね、大馬鹿だわっ、キャハハハ!」
「残念だな、ティーダの事は我々も捜している最中だ。仮に知っていても、お前達に教えるわけにはいかない」
お互いに、話の通じる相手ではない。そう判断し、オルテンシアとバゼットは、エスクードが誇る、エクストリウム製の剣『マークX』を構える。
「良いだろう、行くぞ!」
再び、四人の騎士による戦いが始まる。
オルテンシアには、クリッパー。バゼットには、リオがつく。
「今までとは違うぞ?」
その大鎌を持っているとは、とても思えない速度で、間合いを詰めるクリッパー。
「――くっ!?」
オルテンシアは決して弱くはない、しかし最強のアルティロイドと、双璧を成す実力を持つこの男に、はたして、その実力は活かされるのだろうか。答えはノーだろう。
その突進だけで、全てを薙ぎ倒してしまいそうな、クリッパーの攻撃に、オルテンシアは、かろうじて構える事しかできない。
「……笑止」
漆黒の鎌ソウルイーターを、その怪力のままに、横へ薙ぎ払う。オルテンシアも、必死の思いでこれを防御したが、虚しくもマークXは、簡単に音を立てて砕け、オルテンシアは後方へ飛ばされ、大木に激突する。
「くっ……そ、……化け物……め」
バゼットには、その光景が信じられなかった。過信しているわけではないが、オルテンシアは、自分と同じぐらいの能力を持った、強き騎士だ。並、いや、並以上の相手は、軽く捌ける力があると評価している。
しかし、目の前にいるクリッパーは、汗一つかかず、息すら乱さずに、そこに立っている。オルテンシアを相手に、物足りない、といった表情で、そこに立っているのだ。
「――そんな馬鹿な。とでも言いたげな顔ね、バッカじゃないの? アンタらみたいな実験失敗の烙印を押された、クズが私達に敵うと思って? キャハハハ、ウケる!」
「何だと……!?」
嘲笑うリオと、その冷静な表情を変え、怒気に満ちた目を見せるバゼット。
「王様いわく。人は『平等ではない』んですって! 私もそう思うわ。だって私と貴方じゃ、生命の価値が明らかに違うものね、キャハハハ! 失敗した、いらない生命の出来損ない、そんな貴方達キメラは、とっとと死んでしまえば良いのよ、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね! キャハハハ、自分で死ねないなら、私が殺してあげる。子供が蟻を殺すように、遊びながら、ね?」
「確かに……我々は実験の結果に生まれた、失敗の産物なのかもしれん。しかし、私達の命は、エスクードに拾われてから今まで、一変たりとも陰る事のない煌めきを手に入れたのだ! 貴様のように、命の重さを理解できん奴に、易々と殺されてやるわけにはいくかっ!」
「生意気っ!」
リオは八つある月光の蝶パルティナを、バゼットに向ける。そして一撃を、放ってみせる。
だがバゼットも負けてはいない。その一筋の光線を、マークXを用いて弾き返してみせたのだ。
「ならっ、これはどう! いきなさい、パルティナ!」
今度は八つのパルティナが動き出す。自律行動をするパルティナは、その一つ一つが独自の動き方をし、バゼットを追いつめていく。
「いくら独自して攻撃してこようとも、確実に撃墜すれば問題はない!」
八つの内の一つを、間合いに捉えたバゼットは、目にも止まらぬ速さで接近すると、レイピアの形状をしたマークXを活かし、一気に突きを繰り出す。
しかし、砕けたのは攻撃されたパルティナではなく、攻撃を仕掛けたマークXだった。
「――そんな!?」
「キャハハハ! バーカバーカ、パルティナは一つ一つがオリハルコン、同じオリハルコンだってパルティナを壊すのは、至難の業なのよっ! そして馬鹿は馬鹿らしく、地に這いつくばりなさい!」
まるで雨のように、バゼットに降り注ぐパルティナの光弾。それを為す術なく、全身でくらってしまい、バゼットは力無く崩れ落ちる。
「あーあ、飽きちゃった……クリッパー、最大出力、やっちゃうからさ?」
クリッパーは静かに首を縦に振り、静かに上空へ飛び上がる。
「さっきのお姫様に、雑魚数人。どこに隠れてるのか知らないけど、最大出力のパルティナは、この一帯を軽く吹き飛ばしちゃうんだからっ、死ね! キャハハハ!」
リオも飛び上がり、八つのパルティナの砲門は、巨大な光をチャージしながら、地上へ向いた。
「キャハハハ! いけぇー、パルティナ! ゴミを片付け――キャア!?」
突然、リオに衝撃が走る。それは砲撃によるものだ。
「……やったのは奴のようだな」
クリッパーの眼は、冷静にその攻撃者を捉えている。
そこにいたのは、カルマンとロビン、そして――。
「――はぁっ!」
クリッパーの視界の外から襲ってくる、あまりにも鋭すぎる斬撃。それもそのはずだ、それは最強の斬撃である。
「……しばらくは、俺がお前の相手をしてやる」
「――火の騎士!」
そして斬撃の正体は、ティーダである。ハリスは『打って出る』という選択をしたのだ。
再び相対した火の騎士ティーダと、闇光の騎士クリッパー。炎帝・ヴェルデフレインと、漆黒の鎌ソウルイーターが、交差した刃と共に火花を散らす。