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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
城国~深緑の王と光闇の騎士~
37/97

36,深緑の王

 ――ティーダとの戦いから、ジュークは一人体力の回復に努めていた。

(ティーダを覚醒させるだけの演技のつもりだったが……つい本気になってしまう)

 業火になったティーダの、魔力解放における衝撃をもらっただけだ。しかしそれでも体の芯に残るダメージがある。

「さて、と……」

「よぉ、久しぶりだな、ジュークの兄貴」

 その声の主はラティオである。大して驚いた顔も見せず、ジュークは口を開く。

「ラティオか……。このタイミングでどうして?」

「あれ、あんまり驚かないのな。……本当は来る気なんか無かった。いや、そもそもこんな戦いが行われている事すら知らなかったさ」

「話が見えないな……」

「……声がしたんだよ。『火の騎士を助けてほしい』ってな。それで来てみたら、この様だ。ティーダの兄貴はこの先かい?」

 ジュークは適当な相づちをする。それを見て、ラティオはこの先にある王の間へ走る。

「大方、ティーダの兄貴にやられたのか? ジュークの兄貴も今後を考えた方が良いぜ」

 捨て台詞を残し、王の間を目指す。

 ジュークはその言葉を全く聞かず、ある一つの事柄について考えていた。

(声がした……人の思念の中に入り、言葉を話す。まさかな、まさか……生きていてくれたというのか)

 予測に過ぎない感情だが、その考えに鼓動が早くなる。そんな高まる鼓動を落ち着かせる為に、大きく深い呼吸をする。

「――ならば、僕はまだ頑張れる。最後のやるべき事……王の暗殺」

 深緑の剣フルーティアを見つめる目は、妖しく冷たく輝いていた。

 ――そしてジュークは、四人の攻防を見定め、王にフルーティアを突き刺した。並大抵のタイミングでは、リオとクリッパーに気付かれ、その攻撃を阻止されてしまう可能性が高い。だからこそ、気配を殺し期を伺ったのだ。

「キャアァァ! 王様!」

「ま、まさか……王よ」

 長きに渡り、支配の時代を作り続けた張本人。城国王の暗殺。

 布の向こうで、大量の血を流す王。そして心臓を一突きし、血の赤がこびりつく深緑の剣。そこには、かつて見せた事が無い程の、冷徹な顔を見せるジュークの姿がある。ジュークは乱暴に布を引きちぎり、自分が突き刺し殺した者の姿を確認する。

「――っ!?」

 薄布の向こうにいた者は、確かに心臓を突き刺されている。だがジュークを驚かせたものは、その姿形だった。

「……まさか、長きに渡って支配をした王の姿が……こんな若者なのか!?」

 その言葉に、ティーダ、ラティオ、リオ、クリッパーの四人が驚く。誰一人として王の姿を確認したものはいないが、少なからず老体であろうと思っていた。事実、声では判別できないが、その喋り方はどこか若くはなく、貫禄に溢れていたからだ。だが、いざ布を取ってみると出てきたのは、どこにでもいるような普通の若者である。

「まさか……影武者だとでもいうのか、ならば本物の王はどこに!?」

 勢い良く剣を引き抜く。そして突然の襲撃に備え、辺りを警戒し始める。

 この事実はリオとクリッパーにすら、知らされておらず、普段から取り乱さないクリッパーでさえ、さすがに困惑の色を見せている。

 はたして、この若者は本物の王なのか、あるいは影武者なのか。仮に影武者ならば本物の王はどこにいるのか、全てが謎だらけであり、緊張を走らせる。

『――ふ、ふっはっはっは!』

 突然の笑い声。反響するように聞こえ、発信源がどこなのか検討もつかない。

「くそっ、どこにいる!」

「どこにいる? 貴様の後ろにいるではないか、ジュークよ」

 咄嗟に後ろを向くと、そこにいたのは突き殺された若者がいる。

「どうした、私だよ、私が王だ」

 やはり言葉を発したのは、目の前にいる若者。そして心臓を貫き、確かに殺したはずの者は立ち上がり、薄ら笑いを浮かべている。

「お前が王だと!? ふざけるな!」

「ふざけてはいない。確かに私が王だ。さて……」

 自分を王と述べる若者は、突き刺された胸元を見る。すると傷がみるみると回復していき、あっという間に元に復元してしまう。

「ば、馬鹿な、心臓を刺され死なないどころか、完全回復するなど!」

「驚く事ではあるまい? 貴様達アルティロイドにも、自然治癒力を強化させたものを備えているではないか。それをさらに強化したものだよ。……最も不死身ではないのでな、心臓を刺された瞬間は確かに死んでいたよ。死を治癒したのだがな、ふっはっはっは!」

「死を治癒だと!? そんな馬鹿な事が……治癒力の強化ができたとしても、生きている人間が、死を治癒するなどとっ!」

「――生きた死体。と、すればどうするね?」

 生きた死体。人はそれをゾンビなどと例える。王は自分の事を、リビングデッドとでも言うつもりなのだろうか。

 ジュークですら、その王の言葉の真意が掴めないでいる。

「わからない……と、いった顔をしているな。大方の予想は当たっているが、この肉体はリビングデッドなのだ」

「そんな馬鹿な……肉体は死して、魂が健在などと」

「それが可能なのだよ、なぁティーダよ。お前にならわかるのではないか? 思い出してみろ、デュアリスとセレナをな」

 王の言葉の通り、デュアリスとセレナの事を思い返してみる。この二人は元々一緒にいた人格ではないのだ。主人格と肉体はデュアリスのものであり、セレナという人格は、デュアリスの体に寄生していた人格である。

 ここでティーダは、ある事に気がついたのだ。

「――寄生」

「ご名答。そう、寄生だ」

「つまりその若者の肉体は本来の王の肉体ではなく、人格……いや魂を寄生させた存在だというのか……」

「ふっふっふ。さすがジュークだ、頭の回転が早いな。この肉体は本来ならば、既に廃人になっている程の改造が施されている。超治癒力もその一つ、その他、痛覚の削除や肉体の増強も限界まで行っている。まぁ、これも他人の肉体だからこそできる事だがな。ふぁーはっはっは!」

「……外道めっ!」

 自分ではない他人の肉体に寄生し、そして好きなように弄ぶ。寄生に関するセレナとの大きな違いは、宿主の尊重である。セレナはデュアリスを主人格、肉体とし、そこからできる限りの事をしていた。だが王に限っては、この若者の人格と肉体を乗っ取り、そして殺した。これでは寄生ではなく略奪である。

「私は神になるのだよ。リビングデッドもアルティロイドも、私にとっては造物主としての実験に過ぎんのだ!」

 王は高々と笑ってみせた。その笑い声は、神などではなく、さしずめ悪魔、いや魔王の笑い声である。

「おい、お前ら二人も聞いただろう? あの野郎は、お前らの命も遊びとしか見てないんだぜ、このままで良いのかよ!」

 ラティオは、リオとクリッパーに言葉をかける。だが二人は動揺も全く見せずに言う。

『我々の命は王の為に』

「……こいつらっ、大馬鹿野郎だぜ!」

 舌打ちしながら、苛立つ感情を力の限り吐き出す。

 そして、ラティオがそんな事を言っている間に、ジュークは王の心臓を再び貫いた。突き刺しただけに留まらず、そこから剣を上に走らせ、左肩を斬り裂く。そして流れのままに首をはね飛ばす。

「どうだ、心臓を潰され、首をはねられて、生きていられる奴はいまい!」

「――それが生きていられるのだよ、ジューク」

「……なっ!」

 この世の光景とは思えなかった。潰された心臓は傷痕が消え、裂かれた肩はくっつき、飛ばされた首は、本体の肉と首の肉が合わさり連結する。

「この体は生ける屍。魂だけが寄生してる肉体なのだ。殺そうとしても殺せんよ、所詮は生きてる者を殺す行為ではな」

 そして王はジュークに手を伸ばす。

「くっ、寄るな!」

 その手を斬りつける。大量の血飛沫が散ったが、すぐに再生し、追い始める。ただがむしゃらに、剣を振るう。頭の先から足の先まで、あらゆる場所を斬っても再生し、追いかけてくる存在。

「ジューク、もういい、逃げろ!」

 嫌な予感がし、ジュークを助ける為に走るティーダ。だがその前に、リオとクリッパーが立ちはだかる。

「火の騎士。ここから先へは通させん!」

「そういう事、通りたければ倒していきなさいよ、キャハハハ!」

「くそっ、どけっ、お前達!」

「兄貴、突破するしかねぇ、行くぜ!」

 ジュークと王とは違う所で、再び始まる四人の騎士の戦い。だがティーダもラティオも疲労してしまい、二人を突破する力は残っていなかった。

「あやつらは、また戦い始めたようだ。はっはっは、愉快愉快」

「何が愉快なものか!」

「愉快ではないか。他人同士が戦い血を流す。それを見ていると謎の高揚を覚えないか? 弱い者が弾圧、凌辱される様を見ていると、一種の快感を感じるはずだ」

「……貴様という奴はっ、お前のような奴がいるから、こんな支配の歴史が生まれてしまうんだ、このエゴイストがっ!」

「強がるな、正義感ぶるな。人間とはそういう生き物なのだ。自由? 平等? そんなものは、所詮は弱き者が掲げた逃げの口実に過ぎん。この立場で見ろ。すぐに気持ち良くなる、他人をより強い力で凌辱する快感だ!」

 再び伸びてくる手。その手はまるで触手のようになり、ジュークの体に刺さり始める。

「――ぐっ、あああぁぁぁ!」

「どうだ痛いだろう? 肉体と精神を侵す行為だ。お前は痛いかもしれんが、私は全く痛くない。むしろ先ほどから言うように、他人の体を凌辱する快感だ」

「き、さまの、よう、な、奴、にっ!」

 力を振り絞り、再度、王の心臓を突き刺した。

「無駄だジューク。……お前は私だ。私はお前だ。私の存在を受け入れろ……そして消えろ」

「ぐああああぁぁぁぁ――!」

 激しい光が、若者からジュークへと移動する。その途端に、若者の体は灰のようになり、崩れ落ちた。そしてそれをクズを見るように、見つめるジュークの姿がある。

「……ふむ。さすが私が造ったアルティロイドの肉体だな。凄まじいポテンシャルだ」

 声はジュークだが、喋り方は王のものになっている。その一つの儀式のような行為に、戦いはいつの間にか終わり、静寂と共に四人は見つめていた。

「ジューク……?」

 その存在を確かめるように、ティーダは言葉を投げかけた。

「ジューク? 違うな、私は王にして神、この世の支配者にして造物主だ。ジュークなどという者は、私によって完全に殺した」

 王により宣言された事実。アルティロイド達の、長兄であるジュークの死。

「なるほどな、最初から私を暗殺する事だけを考えていたか、こやつを乗っ取ったおかげで、あらゆる企みが見えてくるな、はっはっは!」

「き、貴様だけは――!」

 怒りの感情が、ティーダを動かした。凄まじい速さで、王となったジュークに向かう。

「火の騎士……まだ動けるというのか!?」

 クリッパーですら、反応する事はできなかった。

「お前が王だというのなら、俺がジュークの肉体を殺してやる! それが俺の……」

「――良いのだな、実の兄の体を殺して」

 その言葉で、今まさに斬りつけんばかりの、ヴェルデフレインが止まる。

「な、に……!?」

「ジュークとお前はな、デュアリスやラティオのような存在ではない。リオとクリッパーと同じ……実の兄弟なのだ」

「ジュークが……俺の、実の兄……?」

「そうだ。ジュークは随分前から知っていたようだがな。……死への土産としては、粋な計らいだっただろう?」

 王は深緑の剣を振るい、ティーダの体を深々と斬り裂いた。行き場を求めて、溢れ出る血液。力無く崩れ去るティーダ。

「兄貴っ、しっかりしやがれ! ――ぐあっ!」

 ラティオも、リオが放った光線の前に倒れる。

「キャハハハ、今まで生意気言ってくれた分、たっぷりと仕返ししてやるから!」

 一人、そんな場を冷めた視点で見ていたクリッパーは、ジュークを乗っ取った王を見て、ポツリと言葉を溢した。

「――深緑の、王か」

「どうした、クリッパーよ。ティーダの首をその鎌で取り、最強の称号を手中に収めよ!」

 王に言われ、クリッパーはその場へ向かう。全てが満足げな表情を見せる王と、身を切り裂かれ体に力の入らないティーダ。

(不本意だな。こんな……誰にでも倒せるような火の騎士を倒して、最強などと言えるものか)

 漆黒の鎌ソウルイーターを、ティーダの首にかける。ちょっと力を入れれば、一瞬にして首を飛ばす事ができる。

「キャハハハ、早く殺っちゃいなよ、もうリオは疲れちゃったー!」

 深緑の王と、光と闇の騎士。そこには火の騎士が処刑される様相がある。

 ラティオを見ると、リオに完全に倒されたのか、大の字になり倒れている。今立っているのは、深緑の王と、リオ、クリッパーのみ。この光景を見て、王は心の中でほくそ笑んだ。

(これで、私に逆らう愚か者は全て消えた。良い遊戯であった)

「――悪く思うなよ、火の騎士。そして……さらばだ」

 クリッパーは、その鎌に力を入れて首を飛ばしにかかる。

「――だか、ら、言っただろ? 兄貴、を倒すのは、俺だ、って。お前等、なん、か、に、くれてやるわけにはっ……いかねぇんだ!」

 その言葉を放ったのはラティオであり、見るとその右拳は最大魔力が集中し、火花のように荒れ狂っている。

「ま、まさか……!?」

「二撃目装填! 二撃目の衝撃(セカンドインパルス)!」

 まるでファーストインパルスのように溜めた魔力を、地面に向かって殴りつける。その威力に地面から大爆発を起こし、辺りを爆炎が巻き込んでいく。外から見れば、城国の遥か上の方全てが大爆発を起こしている。その場にいた全ての者を巻き込む大技である。

 王も、クリッパーも、リオも、ティーダも、そして技を放った本人であるラティオでさえ、どうなったのかが全くわからない程の大爆発。



「――ラティオめ、よもやあんな事をしでかすとはな」

「ご無事ですか、王よ?」

「うむ……大した傷はない。――しかし見ろ、最強の火の騎士も、爆炎の騎士も、水氷の騎士も、そしてこの体である風の騎士も、私に逆らう戦力はもういない!」

「キャハハハ、これで邪魔者は消えた。王様の世界構築の独壇場ですね?」

「ふっはっはっは! さぁ、この世界を、大地を、悪しき手から浄化せねばいかんな」

 この地上軍と城国軍の戦いは、地上軍の敗北に終わった。数ある強者達、そして兵力を失い、地上軍は撤退を余技なくされる。過去希に見ぬ大戦に、参加したレジスタンスの被害は大きく、戦意を失うには充分過ぎたのだ。そして、ここから城国軍による地上弾圧が急速に始まっていったのだ。

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