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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
城国~深緑の王と光闇の騎士~
32/97

31,天使による虐殺

 ――城国内部の混乱。とある部屋で、クリムが何者かに殺された。その部屋には至る所に血が飛び散り、肉塊が無造作に吹き飛ばされている。まるで無邪気に虫を殺していくように、今まで人間だった「もの」はあった。

(クリム……やはり大方の予想通り貴方は殺された。……貴方が予告していた残りの二十日間、きっと僕達が継いでみせよう)

 ジュークはクリムの死体を、丁重に葬る。あまりに残酷な殺し方に、怒りどころか一種の確信が芽生えていた。

 ジュークと共に行動をしていたメンバーは、クリムを入れて十七人。つまり残りは十六人となっている。

「――みなさん、全員集まりましたね?」

 この問いに、十五人の兵士や医者、科学者といった人間達は、コクリと頷いた。

「知っての通りですが、我々の同志クリムが何者かの手により殺害されました」

「誰がやったのか、見当はつかないのですか?」

 この中の一人の兵士が問いただす。

「……殺ったのは、王の直属のものです。決して手は出さぬように」

「王の直属? それしかわからんのですかっ!?」

「クリムは短い期間だったが、確かに我々の同志で、尊敬に値する男だった。誰が殺したんだ……教えてください!」

 肝心な所を言わないジュークの態度に、怒りをあらわにしている。ジュークも少し迷ってから、静かに切り出した。

「わかりました。……でも敵討ちなど考えないでください。はっきり言って貴殿方に殺せる相手ではありません。それを約束してください」

 全員が黙り、小さく頷く。その目には、確かな了承の意志が見てとれる。

「――クリムを殺したのは恐らく……光闇の騎士、リオです」

「お言葉ですが……そのリオというのは、アルティロイドなのですか? 貴方と同じ」

 この問いに、ジュークは嘘偽り無く頷いてみせる。

「しかし、アルティロイドはジュークを含めた四人しか存在していなかったんじゃないのか!?」

「えぇ、確かにそのはずでした。しかしこれは事実です。僕達以外の新しいアルティロイドは完成していた。しかも厄介な事に新型は二人、その内の一体は、あの最強のアルティロイドである火の騎士ティーダと同等が、それ以上の戦闘力を有します……。だからです、敵討ちなんて真似はしないでください」

 その場は騒然となっていた。事実、このタイミングで完成型アルティロイドの投入は、ジュークにとっても大きな誤算すぎた。

「わかっています。……だからこそ、私達ができる最善を尽くす、これで良いのでしょう?」

 一人、白衣を纏う女性が、そう言い放つ。

「そうです。そこで、みなさんにお渡しした物があると思います。今も持っていますね?」

 各自は場所は違えど、ポケットの中から、超小型の黒い球体を取り出す。

「先に説明した通りです。――これは、こんなに小さいですが、相当な破壊力を持った爆弾です。これは飲み込んで発動します。体内に入ると、すぐにその者の心臓の活動と同化し、寄生します。生命力を吸い続け、次第にその威力を増大させる……。爆発させる方法は二つ。一つは事前にみなさまに伝えた『言葉』を言う事。二つ目は、宿主が死亡する事です。――では良いですね、これを飲み込みます」

 ジュークは率先して、その黒い球体爆弾を飲み込んだ。それに応じるように、全員が躊躇い無く飲んでいく。

「では……みなさんの命、新しい時代を創る為、僕にください」

 その場にいた全員が、迷いの無い敬礼をジュークに向けている。そんな真っ直ぐな意志に応える為に、ジュークも敬礼をする。

「クリムが、地上のレジスタンスの為に作る城国の隙。残りの期間は、我々が埋めてみせる。この人体爆弾によって――」

 その数多くの眼差しは、男も女も決意を決めていた。そして決戦の日がやってくる。クリムが混乱させる為に仕掛けたのは爆弾だ。それも連鎖爆弾であり、新しいものから順々に爆発していく。

 ――数年間分である。クリムは数年間もの間、城国を騙し続け、地上を裏切り、この瞬間の為に、爆弾を仕掛けた。この次々に起こる連鎖爆発により、城国内部はパニックに陥る。

「――くそっ、何だ、一体どうなってやがるっ、突然爆発するなんて!」

「しかも爆発の威力は、人を殺せるが、この城国を破壊できる程じゃないぜ!?」

「そんな事は見ればわかって――んっ?」

 爆煙の中から、白衣を着た女性が現れる。城国兵士も、その存在に気づいた。

「なんだ、お前はっ! 医者だか科学者だか知らんが、邪魔だからシェルタールームにでも避難してろよ、ったく!」

「……支配の時代を終わらせる為に……希望の光を我にっ!」

「――えっ?」

 その瞬間、白衣の女性の体は光輝き、唐突に爆発する。城国兵士も共に巻き込んでの自爆である。今もなお続く連鎖爆弾と、人間爆弾により、城国内部は完全に混乱状態に陥っている。


 ――王に呼ばれ、王の間へとやってきたジューク。そこには相変わらず薄布の向こうから喋りかけ、一行に姿を現そうとしない王の姿と、二人のアルティロイドが存在している。

 そのアルティロイドは男女であり、恐らくは女の方がクリムを殺した者である。ショートボブの髪を金髪に染めている。年齢はデュアリスと同じか、ラティオと同じか、あるいはその真ん中か。いずれにしても近い年齢な事には変わりない。ただ女の方はどこか幼さを残すのに対し、男の方はジュークでさえも威圧感を感じる見た目をしている。

 黒い髪をオールバックで纏め、背が高く体つきも良い。何よりも威圧感を与えているのは、その表情である。不動明王、とでもいうのだろうか。そしてマントのように羽織った黒い戦闘法衣。何よりもその大きな体よりも更に大きな大鎌の異質さである。黒に統一された姿と大鎌により、ジュークは死神を連想させられてしまう。

「ジュークよ。下が騒がしいようではないか、何があったのだ?」

「内部に裏切り者でもいたのでしょうか……。いずれにしても計画的な犯行です」

「なるほどなるほど……。しかし最近の貴様は失敗続きではないか。貴様ほどの眼があれば、このような事態ぐらいは見抜けよう?」

「申し訳ありません。この事態を見抜けなかった私の責任です」

 王は溜息混じりの唸り声をあげる。そしてそのまま黙り込んでしまう。

 今もなお爆弾は爆発しているのだろう。城国の中でも上に位置する王の間でさえ、微弱な振動が続いている。

「――キャハハハ!」

「むぅ、どうしたのだ、リオよ?」

 やはり女のアルティドイドがリオ。そのリオは独特な笑い方で、その場の静寂を打ち消した。

「駄目、やっぱり面白すぎて耐えられない……。キャハハハ、地上のゴミ達、この混乱に乗じて攻め込んできましたよ?」

 確かに下から襲ってくるような、微弱な振動は爆発だけにしては大きいものである。この絶え間無く、繰り広げられる振動は、地上軍による咆哮の威力だろうか。

「ふっはっはっは! なるほど、そういう計画かい。つくづくゴミの考えそうな事だよ」

「――どうしますか、王よ。この程度の事、我々には微弱な事柄でしかありませんが、下の階にいる兵士達には少々荷が重い事です」

 今まで、沈黙を貫いていた男のアルティロイドが口を開く。見た目だけではなく、その声や喋り方までもが威圧感に満ちている。

「ふむ……そうだな。それに裏切り者のティーダと、アンノウンのラティオの動向も気になりはする」

「この私が下界の民を一掃してきましょう」

「ちょっと待ちなよ、クリッパー! ゴミ掃除はリオがやるのっ、パルティナの試しもしたいしさ、キャハハハ!」

 今の会話から、死神のような様相の男は、クリッパーという名前がわかる。

「では王が命ずる。リオは地上に赴き、思い上がっているゴミどもに裁きの鉄槌をくだしてやるのだ」

「キャハハハ、了解しました王様!」

 命令されたリオは、それこそ鼻歌混じりに王の間から出ていく。

「さて……万が一もあるのでな、この私を守護する騎士が必要になるな」

「お言葉ですが王よ。貴方様の守護は、この風の騎士ジュークです!」

「……ふんっ、愚か者めが! 最近の貴様の失態続きの戦果で、この私の命を守護するだと? 思い上がるな、出来損ないめっ。……守護はこの闇光の騎士クリッパーに命ずる」

 その王の勅命に、クリッパーは深々と頭を下げる。

「……王の仰せのままに」

 そんな二人のやり取りを、ジュークはただ黙って見つめていた。

「ジューク。貴様は下の階に赴き、ティーダあるいはラティオからの防衛に備えろ!」

「……了解、しました」

 ジュークは命令された行動を遂行すべく、王の間から出ていく。そのまま下に降りていくと、いまだに続く爆発音と、兵士達の戦う怒声や断末魔を聞く事ができる。

「……ふっ、ふふふ、はははは、はっはっは!」

 そんな中、ジュークは一人笑っていた。その笑い声から真意を確認する事はできない。

「――計画通り」

 誰もいない場所で、ジュークはただ一言を呟く。


 そして地上のレジスタンス連合は、城国から轟く爆音を合図に一気に攻撃を開始していた。

 はたしてそれが、クリムの仕掛けたものなのかは、わからなかった。しかしソリディアとバースには、その確信があったのだ。

 事実、城国に攻め入ると、兵士達は混乱しており、半ば不意討ちに近い卑怯な戦いだったが、序盤戦の流れは間違いなくレジスタンス連合が取った。

「――ソリディア! 今なら内部を攻められる、俺とティーダのガキは一気に中を叩くぞ!」

「行ってくれバース、ティーダ!」

「よぉし、行くぞ! 他の兵も俺とティーダに続け!」

 城国外部の戦いを制覇したレジスタンス連合は、決められた作戦通りに、一気に内部へ進行していく。 バースが指揮する前衛兵のほとんどは内部へ入った。ここまでの作戦は極めて順調である。

(北のレジスタンスは……さすがラック兵士長。極めて冷静に戦況を見ている)

 バース隊がほとんど中へ入り、外部を掌握しているのはソリディア隊となる。

「ソリディア兵士長!」

「カ、カルマン!? お前はまだ念の為に、安静にしていなければならん体だろう。何故ここにいる?」

「自分だって、ソリディア兵士長のパーシオン兵士ですっ、こんな大事な時に寝てるだけなんてできません!」

「……こいつめ。今から戻ってはかえって危ない、ここにいても良いが、更に後方へ下がり援護に徹するのだ!」

 カルマンは「了解!」と元気よく言うと、命令通りに後方へ下がり援護に徹する。

 ――戦いは順調に進んでいたが、突然の膠着状態に陥る。ただ単に城国兵士が体制を立て直したにしては、あまりに突然すぎるのだ。

(何だ、一体何が起きているのだ。妙な胸騒ぎが消えん――)

「――どうした、状況を知らせるのだ!」

 あまりの急展開である。今までの流れは止められている。ソリディアは見える範囲で前の方を見ると、明らかに混乱している兵士が目につく。

「……一体、どうしたというのだ……」

「――キャハハハ、みんな死んじゃえ!」

 戦場には、あまりに不釣り合いな子供の戯れた笑い声。その瞬間、白い光の線が走ったかと思うと、兵士達の断末魔が響く。

「何だ……あれは?」

 そう兵士達が見たのは、アルティロイドの少女リオである。情勢の変化は、このリオがもたらしたものである。

 リオは純白の戦闘法衣を纏い、空に浮遊していた。そしてリオを中心に、八つの光の玉が確認できる。その神々しいまでの存在に、殺されていきながらも、兵士達はこう呟いていた。

「――まるで、天使だ」

 そうして白い光線に撃たれ、その身を屍に変えていくのだ。

「キャハハハ、天使だって! それ良いかも、キャハハハ! じゃあ可愛い天使による人間虐殺を開始しまーす!」

 その言動、態度は明らかに人殺しを楽しんでいた。まるで遊戯のように、ゲームのように人の命の重さは軽く、文字通り遊ばれて殺されていく。

 そんな光景を見て、ソリディアはうち震えていた。

「――あの声、あの笑い声……間違いない、奴が、クリムを……!」

ソリディアの視線は、天使のようなリオに釘付けになっていた。そして剣を握った拳が、全身が、明確な殺意に満ち溢れていた。

「……ソリディア、兵士長?」

 それを後方で見ていたからだろうか、あるいはずっと男の背中を見ていたからだろうか。カルマンは誰よりも早く、ソリディアの異常な雰囲気に気がついていた。

「――うっ、うああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 突然の咆哮。そして弾けるようにソリディアの体は、リオを殺す為に動いていた。

「何よ、せっかく人が気持ちよくなってたのに……不愉快! 貴方だけはもっと酷く殺してやるっ!」

 言葉の通り、リオの声色は不機嫌になっていた。そして光の玉を八つ全て、ソリディアに向け放つ。

「リオの武器。月光の蝶パルティナの威力を受けなさいよ、キャハハハ!」

 八つの光線が、ソリディアに向かう。だがソリディアは光線を避けてみせ、一気に間合いを詰める。

「真っ直ぐ進んでくる軌道では、何発撃とうが避けるのは容易いものだ。君の得意そうな遊びでは、こんな事はわからないかね?」

 冷静な口調ながらも、怒りに満ちた一太刀を振るう。並の人間ならば、いかに達人といえど反応もできずに斬り殺されているだろう。

「――生意気っ!」

 心底、腸煮えくり返ったような声をあげ、その一太刀をソリディアの体ごと、叩き落としてみせるリオ。勢い良く地面に叩かれ、ソリディアは重い呻き声をあげる。

(……やはり、アルティロイド、か。……私の全霊を込めた一撃でさえ、届かんのか……。無念だよ、クリム……敵討ちとはいかないまでも、せめて……せめてお前の無念を晴らす……一太刀を浴びせたかった)

 ソリディアの体は、全身を骨折したような激痛が走っていた。体を動かそうとしても、動かせない。ただ地べたで寝ている事しかできなかったのだ。

「マジで超ムカツク! 死ね、もう死んでしまえっ、ゴミクズの人間どもめ!」

 動けないソリディアに向かい、八つのパルティナを向ける。そして再び、八つの光線がソリディアに放たれた。

「これで終わり。クソ生意気な人間めっ、キャハハハ!」

「――ソリディア兵士長!」

 光線に撃たれようとするソリディアに向かい、カルマンは恐れる事なく走っていた。そして勢いのままに、ソリディアを回収すると、パルティナの光線は誰に当たる事もなく消え去る。

「た、助かったぞ、カルマン。――カルマン? っ!?」

 助けたまま、返事の無いカルマンを見ると、カルマンは自分の右目を押さえつけ悶絶していた。あまりの痛みからだろうか、嘔吐までしている。

「カルマン……」

「……っもう、ウザいっ、ムカツク、絶対に殺してやるわっ! 最大出力よ、パルティナ!」

 八つのパルティナの光は、更に大きく光輝いていく。

 身体中に走る痛みに耐え、ソリディアは立ち上がる。

「最大出力のパルティナよ! どこに逃げようと、お前達クズは死ぬの、遥か後ろにいる奴らごと一緒に……消し飛べぇ!!」

「――カルマン。せっかく救ってもらったのに、すまないな。新しい時代を、未来への希望を守る為に……散っていった戦友達よ、クリムよ……そして、愛するマルシャナよ。……私と共にっ!」

 白く輝く極大閃光が、一帯を包み込む。だが兵士達は、そんな全てを奪う閃光の他に、もう一つの閃光を見る。それは命の光――。

 そして、光の霧が晴れてくる。人間はまだ生きている。命は命に守られたのだ。

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