30,支配開放大戦
「――それでは、ハインズ町長。戦力結集の成功を祈ります。我々も、残る期間で軍備拡張、装備点検などを行いたいと思います」
「了解です、ソリディアさん。……お見送りは良いのですか?」
「構いませんよ。私はまだまだ現役のつもりですし、いざとなったら若いハリスもいます」
突然の指名により、ハリスは慌ててしまい、照れ笑いを浮かべて見せる。
「ふぅむ……本当に大丈夫なんですか? 失礼ですが、こんな軟弱そうな兵士に」
「確かに優男かもしれませんが、腕は確かなモノを持っていますし、いざとなればやる男ですよ。――それでは、我々は行きます」
交渉日から翌日。ハインズの頼みにより、サンバナの宿屋にて一泊をし、その日の朝イチで出発しようとする。まだ朝も早い為か、朝日は見えるものの、辺りは少し薄暗い。
「いやぁ、しかしハインズ町長……見た目はかなり怖い人でしたが、良い人そうで安心しましたよ」
「うむ、失礼ながら人は見かけによらない、とはよく言ったものだな」
本人がいないのを良い事に、二人は笑い話をする。ここ最近は緊迫していた事もあり、あまり笑っていなかったのを思い出す。
「兵士長! 交渉成功もしたのですから、せっかくですしサンバナの土産でも買って帰りましょうよ」
「馬鹿者、遊びに来ているわけではないのだぞ?」
「それはわかっています。ですが、こんな時だからこそですよ。常に真剣にやっていれば良いわけではないです。時には息抜きもしないと……それに余裕を持たせれば、兵士達の士気も向上します」
「むぅ……それもそうだな。……よし、許可しよう。だが土産とかは何を買えば良いのかわからんから、お前が決めてくれよ?」
ソリディアの許可も出た事により、ハリスは端から見ても嬉しそうな顔を見せる。
「但し、十分だぞ。時間も無い……これ以上は待たないぞ」
「了解です! すぐに戻ってきますよ!」
威勢良く飛び出していったものの、戻ってきたのは――三十分後だった。
「す、すみません、兵士長……店は並んでいるし、道には迷うしで……」
「良い! おかげてゆっくりと今後の動向を考えられたわい」
兵士は皆、男連中という事で、飾るような小物よりも、食べ物の方が良いと判断し、サンバナ名物の「平焼き」と呼ばれる丸い円盤状の食べ物を購入する。
サンバナの町を、あまり堪能する事も無く、ソリディアとハリスはパーシオンへ帰還する。
(さて……あとはザードリブのラック兵士長が、良い返事を持ってきてくれるかどうかだが……。少なくとも、サンバナ攻防戦時以上の戦力を作らねばな……)
ザードリブからの使者が訪れたのは、今から八日後の事になる。――決戦まで残り九日である。
「遅かったな……それで、ザードリブのラック兵士長は、どのような返事を?」
ザードリブからの使いの兵士は、三人が来た。その中の小隊長であるアスイが、話し合いに応じている。
「戦いには参加させていただくと。シュネリ湖周辺のレジスタンスの総力を結集して決戦に臨ませていただく覚悟だと、聞き預かってきています」
「ふむ……それは嬉しい限りの返事だな。北の戦力、アテにさせてもらうよ?」
「それは勿論です。突然ながらも舞い込んできた、この支配の歴史を終わらせられる絶対的なチャンスなのですから!」
アスイ小隊長は、興奮気味に話す。だが、これは結果として良い方向に動く。パーシオンの兵士も、改めてこの話を聞く事で、気力の高ぶりを感じていた。兵力、装備、気力、あらゆるものが決戦に向けて備わっていく。
「そこでアスイ君。当日の作戦なのだがな……」
「はい、何かありましょうか? 前大戦の英雄殿の言葉、一字一句逃さずに聞き入れたいと思います!」
悪気は無いのだろうが、この「英雄」という言葉に、ソリディアは嫌気がさしていた。否応なしに過去の対戦時の、自分自身の過ちと、暗殺された戦友クリムを思い出してしまうからだ。
「作戦……と言いたいところだが、作戦らしい作戦は無いのだ」
「えっと……それはどういう……?」
「別に勝つ気が無いわけではないのだ。城国はそこに立っていて、通常の城とは違い横に広くなく、縦に長くなっている。つまりは大軍で攻め入っても、内部に入る兵の数はたかが知れている」
「仰る通りですね。……しかしならばどうします、結局軍力を集めても、これでは効果が薄くなってしまう。無駄になるというものですよ?」
「うむ、だから内部に侵攻させるのは、兵士としての突破力のあるものとする。……つまりは少数精鋭、選ばれた兵士が道を切り開き、それ以外の兵士は城の入り口、あるいは外で城国兵士の殲滅と足止めをさせる。部隊は第一陣と二陣に分けよう」
一呼吸置いて、アスイは聞き返す。
「どちらが……第一陣で切り込むおつもりで?」
この問いに対して、ソリディアも一呼吸置いた後、口を開いた。
「――それは、我々です。南のレジスタンスが先陣を切るべきでしょうな」
「良いのですか? 間違いなく、第一陣は戦死者が多発しますよ!?」
「この賭けにも等しい事を言い出したのは、南であり張本人は私です。ならば我々が行くべきなのです。……勿論、会議の結果は必要になりましょうが、必ずこうなるように尽力します。アスイ殿は、ラック兵士長にこの事を伝え願いたい」
「ソリディアさん……わかりました、必ず伝えます」
作戦はこうなった。南も北も、双方とも突破力のある兵士を内部に送り込む。その他兵士は、城国外部にて敵兵士の殲滅あるいは足止め、状況によりけり内部への侵攻。第一陣はサンバナを中心とした南のレジスタンス。第二陣はザードリブを主戦力とした北のレジスタンス。第一陣の戦力低下時は速やかに、第二陣と入れ代わり進軍。その間に第一陣の戦力を整える。
クリムの言葉通り、城国の守備力が低下し、この奇襲戦法が決まれば、勢いのままに城国を落とす事は可能なはずなのだ。
ただソリディアには二つだけ、不確定要素からくる不安のようなものを抱いていた。一つは城国の戦力の大きさである。作戦自体は単純なものだが、充分に城国を落とせる計算なのだ。しかし城国の戦力が、予想以上であり消耗戦を強いられた場合は、間違いなく敗北する。
「――あのソリディアさん。我々はすぐにでもザードリブへ戻り、この事をラック兵士長および仲間達に知らせたいと思います」
「あ、あぁ、うむ。できるだけ早く戻り、伝えてくれる事を望むよ? いくら詳しい道がわからなかったとはいえ、行き道と同じ時間で戻られたら、作戦には間に合わないからね」
「大丈夫ですとも。帰り道は記憶しています。二日三日あれば帰りつきます!」
「ならば良いのだが。――誰かアスイ殿達を、お見送りしてくれないか」
簡易的な食料と水を持たせ、アスイ達を見送る。北のレジスタンスへ大々的な作戦を伝えたところで、再びサンバナの町へと、ソリディアは出かけなければならなかった。戦力結集の具合を見る為と、この会議の結果を伝える為である。
「――クリムの言った日まで、あと何日あったかな?」
「あと九日です。兵士長」
ソリディアの何気ない言葉に、ハリスが答える。
「九日……か。あとティーダはいるかな?」
「ティーダなら、あそこに」
テント内の奥の方を指差すハリス。呼んでも良かったのだが、ソリディアは性格的に自分から出向く。
「ティーダ、ちょっと良いか?」
ティーダはヴェルデフレインの手入れをしている最中だった。いやティーダだけではない。決戦の日へ向けて、手が空いた兵士達はそれぞれの武器の手入れと点検を欠かしてはいない。自分の命を預ける武器になるからだ。
「城国の戦力を聞きたいのだ。特にアルティロイドの……」
「アルティロイドの……?」
「そうだ、一般的な兵士の相手ならば我々でも相手できるが、アルティロイドの存在となると話は別になる。君が知っている限り、今現在で城国に存在するアルティロイドはいくついるのだ?」
「……アルティロイドは、俺が城国にいた時点で四人いた。――一人は風の騎士ジューク、そして水氷の騎士デュアリス、爆炎の騎士ラティオ、そして俺の四人だ。この内、ラティオはサンバナ攻防戦時に戦い、その後は行方不明で俺にも消息がわからない。そして……」
ティーダはゆっくりと、しかし確実にその言葉を言う。
「そして、デュアリスはシュネリ湖制圧戦時に――死んだ」
「……つまりラティオの得体の不明な点は困りものだが、明確な敵となるアルティロイドは風の騎士ジュークただ一人、と見て良いのだな?」
「間違いは無いと思う、仮にだが新たなアルティロイドが作られていなければ……の話だが」
「……ふむ。風の騎士ジュークな。ティーダに抑える事は可能なのかな?」
「楽ではないが、可能だ。俺は……あいつの事はわかっているつもりだ」
「よし、わかった。仮に対アルティロイド戦となったら、ティーダが率先して戦ってくれないか?」
ティーダは覚悟を決めた眼差しで、しっかりと首を縦に振ってみせる。そんなティーダの答えに、ソリディアは軽く肩を叩いた。
その後、北のレジスタンス勢との会議の疲れが癒えぬうちに、ハリスを連れ再びサンバナの町へと向かう。
――サンバナの町へ到着した頃には、辺りも暗くなりつつあった。
前回来た際と大きく違う点は、町にはかつての戦いの時と同じく、兵士の姿がちらほらと見受けられる点である。
(――ハインズ町長。上手くレジスタンスを集めてくれているみたいだな)
町中を歩いていくと、先の戦いの時の見知った顔も見かける。その兵士達の士気を見る限り、かなりのやる気を伺う事ができる。これはソリディアにとっても、作戦成功への大きな自信となっている。
町長のいる建物へ着くと、変わらずに扉を叩く。すると前回と同じくして秘書であろう美女が出てくる。
「すみませぬ、パーシオンのソリディアという者ですが」
「あ、ソリディア様。どうぞこちらへ! ハインズ町長からは、来たらいつでも通すようにと申し遣っております」
快く通されるソリディアとハリス。そのまま案内され扉を開けた向こうには、ハインズ町長の他に、もう一人の男がいた。
「――おう、遅かったな、ソリディア!」
「バースか……。一体何故ここに?」
「何故ここに、だと? お前の呼びかけに呼応して、コロセオン……いや近場のレジスタンスは小細工無しの真っ向勝負をする為に、全戦力をここへ終結してるんだぜ!」
「そうだったのか、心強いな……相変わらず」
ソリディアはハインズ町長へ一礼すると、ハインズの指示により席へつく。
「よくぞ、ここまでの戦力を集めてくださいました。全レジスタンスを代表してでも、御礼を言います」
「いえいえ、そんな事。……支配の時代を終わらせる為の戦いなのです。今この瞬間、上も下も無い、一介の人間であり同志なのです」
「事実上、我々の中の最大権力をお持ちになっている貴方の口からその言葉が頂ければ、兵士達の士気は間違いなく今以上に発揮する事でしょう」
そしてソリディアは、北のレジスタンスとの間で交わした作戦内容を、ハインズ町長とバースに伝える。反発の一つ二つはある事を覚悟していたソリディアだが、会議は思いの外順調に事が進んでいく。
「……なるほど、総力戦だな。それで、北はわからんが南からは一体誰を内部に送り込むつもりなんだ?」
「細かな兵士の能力は後々見ていくしかないが、お前とティーダを筆頭としようと思う」
「……ティーダ? あぁ、あの見込みありそうなガキの名前か」
ハインズ町長は頭を撫で回しながら、会話に割り込む。
「私は元兵士ですが、戦略という面や、兵士の能力を見るという点ではお二人に負けます。兵士編成に関しては、貴方達二人が指揮を取って頂けないでしょうか?」
「それは構いませんが……?」
「ありがとうございます。――ならば私はこれで。まだまだ各方面のレジスタンス探索と交渉の仕事が残っておりますゆえ。宿屋の件は、既にご用意させて頂いています。今夜はそちらでお休みになってください」
そう言うと、ハインズは足早に部屋を出ていってしまう。
「……ふむ。ならばバース、お前は前衛兵を指揮してくれないか? 私は後衛兵を束ねてみせる。出しゃばる気は毛頭無いが、勝っても負けても最後の決戦になるかもしれないんだ、全力を尽くしてみたい」
「良いんじゃねぇか? お前がそれをできるってならよ。おい兄ちゃん、しっかりとソリディアを援護するんだぜ?」
「はいっ、頑張ります!」
ハリスに一声かけると、バースも部屋を出ていってしまう。バースが出ていくと、ハリスは緊張の糸が切れたのか、大きな溜息を吐き出す。
「はぁ…………。いやぁ、何で昔の人ってあんなに怖い人が多いんですかぁ?」
「はっはっは、バースはあんな風に見えて義理人情に厚い、良い奴だよ」
「そうなんでしょうが……。どうも緊張してしまいます」
ソリディア達は、会議で使ったその部屋をあらかた片づけて、部屋を後にする。もう外はすっかり夜になっており、この日はそのまま宿屋に向かい、朝を迎える事になる。この時点で決戦まで残り八日。
ソリディアはこのままサンバナに残り、集められた兵士達の具体的な能力査定に残った。決戦が近い為、ハリスはソリディアの命令により、パーシオンの兵士全員をここに招集する事になる。但し、当然の話だが、どこのレジスタンスも最低限の守備兵士と、怪我人や体調不良者は置いてきている。その日の内に、パーシオン兵は招集され、南のレジスタンス連合軍へと加わった。
決戦間際で集められた兵の数は、サンバナ攻防戦時の約2.5倍と推測されている。知り得るレジスタンスを全て計算しても、これ程の戦力が見当たらなかったが、ここまで集められたのはハインズ町長のおかげといっても良いだろう。彼は元々、東にあるといわれる砂漠地帯の兵士であった為、そのコネを使い前町長以上の、戦力を集めたのだろうと噂されている。
総大将にサンバナ町長のハインズを置き、前衛兵総指揮官バース、後衛兵総指揮官ソリディアを布陣し、今、決戦の準備が整う。
――そして、決戦の日の朝を迎える。過去に類を見ない、最大の決戦が幕を開けようとしていた。




