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アルティロイド―究極の生命体―  作者: ユウ
北の大地~悲しき水と氷~
23/97

22,水氷の騎士デュアリス

 ――刻一刻と近づく、城国軍の大軍。その迫る足音は、ザードリブに暮らす人々の耳にまで聞こえる程に、迫ってきていた。

「ラック兵士長!」

 ソリディアの鬼気迫る声と表情とは裏腹に、ラックは大変なぐらいに冷静だった。

「……わかっていますよ、ソリディアさん。予定より少し早いですが、敵は攻めてきた……悲しい事です、できれば人間同士で戦いたくはないですが、やらなければやられてしまいますからね」

「はい……やむを得ない戦いになります。泣き言は誰にでも言えます。それに理想を言うのも楽です。しかし、今は戦う事しかできないのです。戦って、そして命を繋いでいくしか……!」

 ソリディアとラックは、お互いに目を見合わせ、その言葉の中の真意を確認する。

「……城国軍に打ってでよう。ソリディアさん?」

「えぇ、この防衛戦には参加させていただきます。しかし、連れの女の子……ティオは、戦闘員ではないので、ここに匿わせていただきますよ?」

「当然ですな。少女を前線で戦わせるようになったら、もうおしまいですよ……。では、よろしく頼みます」

 そう言い残し、ラック兵士長と、ザードリブの兵士達は戦いの備え始める。用意が完了した者から、次々と足早に外の守備に回っていく。見たところ、装備も大差は無いようで、鋼の剣と鎧、あるいは、くさりかたびらといった防護服が主流のようである。

 ソリディアも急ぎ、ティーダ達に合流すべく走る。

「――兵士長、話は聞きました、戦闘が起きるんですね!?」

 テントに戻ると、真っ直ぐな瞳で、そう呼びかけてくるカルマンがいた。

「あぁ、あまりに突然で不本意ながら、起きてしまったものは仕方がない。我々も、この防衛戦に参加する。カルマンは私と共に、ここザードリブの守備に入る。ティーダは前線に出て、敵軍の遊撃をしてもらいたいのだが……?」

「――了解した。なら俺はこのまま攻めに入らせてもらうぞ」

 最初から装備も整えてあった為、ティーダは颯爽と戦場へ向かおうとする。ヴェルデフレインと共に、やる気を見せている。

「頼んだぞ、ティーダ。被害を最小限に抑える為には、お前が前で戦ってもらう他ないのだ」

 ソリディアの言葉に、ティーダは軽く頷き、一番手でテントを出ようとする。だがその時、ティオの声が、ティーダを止める。

「ティーダ……あの……」

「何だ? 戦いは一刻を争う、無駄な時間は避けたい」

「……気を、つけてね?」

「――了解した」

 ティオに振り向く事もなく、ただそう答えたティーダ。そしてその勢いで、パーシオンの第一陣として、戦場に向かっていった。

 ――そんな光景を、カルマンは例えようのない心境でみつめていた。

「――カルマン」

 カルマンの肩に、ソリディアは優しく手を乗せ呼びかける。

「あ、兵士長……?」

「さぁ、我々も向かおうじゃないか?」

「……はい」

 カルマンにとっては嫌な光景を見せられた。戦いに向けるべき覇気が、どこか散漫になってしまっている。

「……ふっふっふ、良いかカルマン。我々はこのレジスタンスを守る守備兵として活動する。それがどういう意味があるかわかるかな?」

「…………いいえ」

「教えてやろう。それは好きな女を最前線で守れるという事だ」

「へ、兵士長!?」

 カルマンにとってソリディアのイメージというのは、こういう事を言う人物だと思っていなかった為、素っ頓狂な声をあげるカルマン。

「守ってやろうじゃないか、一番近い場所で……なぁ、カルマン?」

「……はいっ!」

「よし、我々も行くぞ! ティオ、負傷した兵達が出る、お前は兵の治療を手伝ってあげなさい」

「わかりました! ソリディア兵士長もカルマン君も気をつけて!」

 ティーダに続き、第二陣としてソリディア、そしてカルマンの二人も戦場へと向かう。一人残されたティオは、ザードリブにて、この戦いに参加する全ての人間の、無事をただ祈る。

「ティーダ、ソリディア兵士長、カルマン君……そして、そして……もしかしたら、この戦場にいるかもしれないデュアリスちゃん……みんな、無事に還ってきてください……」

 手を強く握り合わせ、無事である事を、ひたすらに願い続けた。



(――味方が少なすぎる。さすがにサンバナの時の規模は期待しないが、これでは一方的な戦いになるのは明確だな)

 ザードリブ、あるいは周辺のレジスタンスから出陣したのは、簡単に見ても百人ちょっとが良いところである。城国軍の兵士の数は、足音から察するに、軽く五百人はいるだろう。

 それに敵はただの部隊ではない。ティーダと同じアルティロイドである、水氷の騎士デュアリスがいる。アルティロイドが一体いるだけで、人間の部隊など何人いようと勝ち目は無い。

(命拾いしたな。……お前ら)

 一人不敵な笑みを浮かべ、冷静に戦況を見る。

 レジスタンス兵士の進行は、地の利を活かしている事もあり、かなり順調に進軍している。この分では、城国軍と相対するのは、目とはなの先だろう。

「南のレジスタンス……パーシオンの方か!?」

 声がする方を振り向くと、恐らくはザードリブの兵士と見られる者がいる。

「ご協力を感謝します! こんな貴方達には無意味な戦いに参加させてしまい、大変申し訳なく思います」

「気にするな。参加すると決めたのは、俺達の意志だ。それに隊長命令だしな」

 兵士の言葉に、いつも通りの素っ気ない返事をする。そんな反応に、兵士は軽く笑った。

「ありがとう! お互いに頑張りましょう!」

 それ以上の言葉は返さず、無言で更に走る速度を上げる。そこから少し進むと、城国軍の第一陣であろう。鋼鉄の鎧を身に纏う、兵士の姿が確認できた。先ほど会話した兵士の隊も確認できたのか、最前線となる戦場は、更に緊張の糸が張りつめ、そして一気に爆発する。

 それと共に、ティーダも得意の電光石火の速さで接近し、戦闘開始からわずか数秒で、三人の兵士の命を奪っていく。

 レジスタンスと城国軍の戦力が、ぶつかり合い、正に合戦となっていく。敵も味方も、この瞬間から血が飛び散り、そして命を落とす者が出てくる。

(……一人、二人……キリがないぐらいの数だ)

 開始早々から、圧倒的な戦闘能力を以て、城国兵士を撃破していく。それでも数においては、比べようもない程に備えている城国軍は、斬っても斬っても、まさしくキリなく出てくる。ティーダの読みは、五百人前後だったが、いざ対峙すると千人はいるのではないかとも思える。

 ――事実、開始数分でティーダは、八十人前後を殺したが、それでも減っていると感じさせない。それに引き換え、ザードリブを主力としたレジスタンスは、見た通りに百人程しかいないのだ。長く戦えば、それだけ死者が増える。最も早く終わらせようと戦っても、今度はその分、城国軍の兵士達が死んでいく事になってしまう。

(ちぃ……味方さえいなければ、たかだか千人ぐらい片付けるのは容易だが)

 だがティーダは、それができなかった。アルティロイドが、力を発揮してしまうと、敵味方問わず、自分の意志に関係なく、無駄な殺戮をしてしまう。それはサンバナ攻防戦の、ラティオを見れば一目瞭然の事である。あまりに強大な力を所持しているが故に、意図的に戦闘能力を落とさなければならない。

「――チィッ!」

 斬りつけてくる城国兵士よりも早く、その深紅の剣を振るう。足を斬り、腕を斬り、胴を斬り、そして首を斬り落としていった。返り血を浴び、更に美しく血の化粧を施されたような、ティーダのその姿は、見る者に畏怖の念を植え付けていく。

「退け、退けば命は取らない。……だが退かないなら、ここでその命を散らせてみせよう」

 たった一人の少年の存在が、その戦場を膠着状態にさせている。数で圧倒的に勝る城国軍を相手に、レジスタンスは迂闊に手を出せない。しかし、質において極上の戦闘力を有するティーダの存在により、城国軍もまた先に手は出せない。そのティーダ自身も、自ら動き出そうという気は無いのだ。

 ――この戦況を動かすには、いずれにしても起爆剤となる、何かの要素が必要不可欠となる。

「……みなさん、下がってください。ここは私がいきます」

「デュアリス兵士団長!?」

 城国兵士達の後方より、聞き覚えのある声。そして兵士の一人が言った名前に、ティーダは敏感に反応してみせる。

「デュアリス……だと?」

 そこには綺麗な青い髪を、赤い紐でポニーテールに束ね、その髪と同じ青い水氷の戦闘法衣を身に纏った者がいる。そして身の丈以上の三つ又の槍トライディア。

「レジスタンスの方々もお下がりください。私は無益な殺生はしたくはありません!」

「ふ、ふざけるな、それは俺達にシュネリ湖から出ていけっていう事だろう!」

「何が無益な殺生はしたくないだ、そんな事を言っても、お前達のやっている事は一方的な支配だろ!」

 デュアリスの提案に、いきり立ち乱暴に返答をする。硬直していた場は、一気に一触即発の状況となる。

「……私だって、こんな支配なんてしたくはないです……」

 誰にも聞こえない小さな声で、瞬間的に思った事を出す。ティーダはそんな小さなデュアリスの声を、戦場で一人聞いていた。

(デュアリス……さて、どう動く? 膠着していた戦場、起爆剤となったのは、お前なんだぞ)

「貴様ら、おとなしく下がれば殺しはしないという、デュアリス様のお気持ちを無駄にする気かっ!」

「ふざけるな、城国軍! お前達の好きにはさせてたまるかよ!」

 ティーダは、その戦場を見て笑いたくなった。本来ならば、お互いの正義を貫きあい、命のやり取りをする場所だ。そんな場所で、子供染みた言い争いをしているからである。

 そんな中、デュアリスの側近らしき男が、耳打ちをしているのを見つける。

「――デュアリス様、このまま言い争っていても、戦況は動きません。ここはこちらから一気に攻めに出ましょう」

「……ですけど!」

「話し合いによる解決は無理です。あの地上の連中の野蛮な反抗を、ご覧になってください。……そして何よりも、我々が仕える王の為であります」

「王の……為……。くぅっ!」

 迷いながらも、その清らかな蒼き槍、トライディアを構える。

「話し合いが無理とわかれば、今度は武力制圧か? 何が理想郷だ。そんな支配の上に成り立つ理想郷なんてあるものか!」

「――黙りなさい!」

 デュアリスは、トライディアをレジスタンスに向け、一振りさせる。攻撃的ではないものの、一陣の突風が巻き起こり、デュアリスの言葉通り、兵士達を黙らせてしまう。

「王の、王を悪く言う事は許しません! そんな事を言う人達とは……私は誰とでも戦ってみせます」

 その言葉を合図に、城国とレジスタンス、双方の戦いが再開される。

 デュアリスは、アルティロイドの中では、単純明快な戦闘能力は、最弱に位置する。しかし、トライディアを駆り、レジスタンスの兵士を倒していく様は、一騎当千の文字が思い浮かぶ。それでも巧みに長い槍を操り、倒す全ての兵士は、死傷を負っていない。

(――だからこそ、攻撃された兵士にとっては、逆に苦痛だ)

 攻撃してくる城国兵士を捌きながら、ティーダはそんな事を考える。ティーダとデュアリスは、同じアルティロイドだが、明確に違う処は、兵士に対する対処の仕方だ。ティーダは容赦無く、人を殺していく。

 いずれの理由にしても、数が圧倒的に少ないレジスタンスには、これ以上攻められるのは、良い事ではない。一時的な方法で、何の解決策にもならないが、この戦いを終わらせるにはデュアリスを退ける事が、最良の策だとティーダは考える。勿論、ここにいる城国兵士を全滅させる事は、ティーダにとって容易いが、それだけは、どうしても避けたかったのだ。

 一気に接近し、デュアリスとの間合いを詰めていく。

「たあああぁぁ!」

 接近してくる者の存在を、すぐに察知し、鋭い体捌きで、トライディアを振るう。ティーダもまた、愛刀である深紅のヴェルデフレインで、攻撃を受け止める。

「――っ!?」

「良い攻撃だ、デュアリス。腕を上げたようだな」

「えっ、だ、誰!?」

 この戦場に、自分の攻撃を受け止められる存在は、いないと予測していたデュアリスは、その事実に驚いたが、更に驚いたのは、自分を呼ぶ声に覚えがあった事だ。

「……まさか、まさか兄さん! 生きていらっしゃったんですね、兄さん!」

 デュアリスにとっては、大切な人である、ティーダ生存の確実な事実が、何よりも嬉しい出来事である。

「あぁ、デュアリス。俺はこの通り生きているぞ。そして……デュアリス、何とかして軍を退かせてほしい」

「……兄、さん。それは、できません……。兄さんも知っているでしょう? 私達アルティロイドの使命を」

 デュアリスは、思い悩んだ表情で、弱々しく言葉を絞り出す。

「私達アルティロイドは、王の命令に忠実に動くように、この世界に造られた存在……もし、逆らったらどうなるか……」

「どうなるんだ?」

「……えっ!?」

「王の命令に逆らったら、どうなるんだ? デュアリス」

 そう投げかけられた言葉に、デュアリスは思考を始めていた。

(――こんな単純明快な質問だが、デュアリスにとっては、理解できない難題になるだろうな。デュアリスは戦闘能力こそ最弱だが、その精神能力は最高に位置している)

 予想通り、デュアリスは困惑した表情で、問いかけに対する答えを導きだそうとしている。

「デュアリス……今は答えが見つからなくても良い。しかし、今は一旦退いてほしい。お前の決断一つで敵味方関係なく、犠牲者が増えるんだぞ!」

「う、うぅ……わかり、ました。」

 強引ながら、デュアリスの説得に成功する。最も、その場しのぎの方法であり、すぐに戦闘が起きてしまうだろう。

(――王の支配を、その身に最も受けている。それなのに平和を願い、他人を案じられる……デュアリスは本当に優しい人だ)

「うぅ……くっ、ぅ、くっ……」

 俯いて泣いてしまうデュアリス。ティーダは、そんなデュアリスの両肩に、そっと手を置いた。

「デュアリス……」

「く、ふ……ぅ、は、はっ……。――あ、あはははははは!」

「デュアリス? ……ぐっ!?」

 突然、腹部に激痛が走る。ティーダがそこを見ると、自分の腹に氷の刃が突き刺さっている。そしてその氷の刃の元を見ていくと、そこには目の前にいるデュアリスの手が確認できる。

「甘いですよね、兄さんも、デュアリスも、さ」

 氷の刃を勢い良く抜かれると、そこから血が一気に流れ出す。

「デュ、ア、リス……?」

「デュアリス? ……違うわ、私はセレナ。氷水の騎士セレナ、よ」

 そこには、美しい青い髪を持つデュアリスではなく、銀髪をなびかせる見知らぬ者がいる。表情も、デュアリスの優しい表情とは裏腹に、高圧的にティーダを見下す顔があった――。

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