23,氷水の騎士セレナ
名前 デュアリス
種族 アルティロイド
性別 女
年齢 15
階級 水氷の騎士
戦闘 2000
装備
E清蒼の槍トライディア
E水氷の戦闘法衣(青)
E赤いゴム紐
名前 セレナ
種族 アルティロイド
性別 女
年齢 12(デュアリスに宿ってからの年月)
階級 氷水の騎士
戦闘 2500
装備
E清蒼の槍トライディア
E氷水の戦闘法衣(白)
E赤いゴム紐
「セレナ……だと? お前は一体何だ……?」
体から血と共に、力まで抜けていく。崩れ落ちながら、今までデュアリスだった人物を見る。
「だから言ったでしょう? 私は氷水の騎士セレナ。デュアリスに宿るもう一つの人格……」
「もう一つの……人格!?」
それは幼き日から、一緒に生きてきたティーダも知らない事実である。
「そう、私はデュアリスの意識の中で増幅されていったものを、歪んだ形で発散していく存在。デュアリスの中に元々いなかった人格なのよ」
「……水氷の騎士、二つの属性を備えていたのは、一人で二つではなく、二人で一つという事か……」
抜けていく血と力、薄れていく意識、そんな中でも頭は冷静に働かせていく。
「さすが兄さん。話が早くて助かります。……最も、ラティオの馬鹿のように、二つの力を合わせて特化させた個体もいますけど。デュアリスは、人間の頃から戦いの嫌いな子だったみたいだけど、アルティロイドの適格者に選ばれてしまった……戦いに向かない人格者だからこそ、私のような存在が造られたのよ」
「…………よくも、まぁ、それだけペラペラと喋るものだな……」
「うふふ、当然でしょう? どうせ死ぬ人になんか、話したってどうって事はないわ。……あぁ、そうだわ、死んでいく兄さんに、デュアリスの気持ちを伝えておきますね」
相変わらずの高圧的な態度を崩さず、不気味な笑みを浮かべながら語りかける。左手には、ティーダを刺した氷の刃が、依然形成されている。
「兄さん……世界中の誰よりも、愛しています――殺したい程に、ね」
「――っ、貴様!」
言葉の終わりと同時に、氷の刃を振るう。刃はティーダの右頬を、容易に斬り裂いていく。
直撃を受けないように、体を流し、セレナから離れるように転がっていく。
「うふふ、さすが。それだけの出血をして……よくそれだけ動けますね。アルティロイドだからって、失血の苦しみは、人間と変わらないというのにね」
転がり避ける無様な姿を、セレナは見下すように、そして微笑みながら見ている。
普段ならば、自分のプライドにかけても、他人に無様な姿をティーダは見せようとしない。だが、この時ばかりは、そんな事もを考える余裕さえ無い。
依然として流れが治まらない流血は、ティーダからあらゆる感覚を奪っていっている。セレナの攻撃を避けられたのも、体に染み付いた反射で避けたようなものだ。
――それでも、ティーダの眼は、全く死んではいなかった。
「……私がちょっと本気になれば、兄さんをすぐに殺す事だってできる。それなのに何なんですか、その眼は?」
セレナの問いかけに答える事もせず、ただ真っ直ぐに睨み付けている。実際のところは、眼は死んでいなかったかもしれないが、ティーダの意識は既にこの瞬間は無かったのだ。
「まぁ……良いわ。殺してしまえば、兄さんともお別れ……そうすれば、ずっと兄さんと一緒よ。デュアリスも喜ぶわ」
心の底からそう思いながら、今から殺す相手に微笑を向ける。
その笑みは、人を、いや生命そのものを、いくつ殺しても何とも感じていないようにも見える。残忍や冷酷といった言葉では表しきれない表情だ。
「じゃあ……さよなら、兄さん。ほんの一瞬の出会いだったけど……何でデュアリスが貴方の事を好きだったのか……私にはわかる気がする」
セレナは左手に形成している氷の刃を、ティーダの心臓めがけて突き刺しにかかる。
「――!」
と、その時、セレナの後方から、咆哮らしきものが聞こえてくる。
セレナが振り向くと、そこには全速力で突進せんばかりの勢いで、走り込んでくるソリディアとカルマンの姿があった。
「うをおおぉぉぉぉ! コノヤロー!」
「ティーダは殺させはせん!」
「……人間如きがっ、奇襲したところでこの私は倒せないわ!」
構えも何もなく、カルマンはセレナに突っ込んでいき、がむしゃらに鋼の剣を振るう。一応、奇襲の攻撃だが、セレナは全く意に介せずに、カルマンの剣線を避けていく。
「こ、こいつ!」
「……はぁ、邪魔」
「――っ!?」
カルマンの剣を避けつつ、そう言うと、セレナは氷の刃を真っ直ぐに突き刺した。あまりに速く、そして殺気すらこもっていない攻撃に、カルマンは何が起きたのかすらわからず、右胸を刺され、何も言わずに倒れてしまう。
「カルマンッ!? ――貴様!」
少し遅れてソリディアが、セレナと対峙する。走り込んだ勢いで、剣を左から右に走らせる。やはりこの一撃ですら、セレナに避けられてしまうが、セレナは大きく後退する。
「人間のくせに、貴方はかなり腕が立つようね……」
後方に下がったついでに、セレナは現状の戦力を確認する。辺りを見回すと、レジスタンス側が少しずつだが押しつつある。レジスタンス側の、攻めの第二陣が来た為でもある。何よりも、ただ攻めているだけの城国軍と、絶対に負けられないというレジスタンスとの間の、気迫の差が戦力を埋めている。
「良いわ……貴方達の頑張りに免じて、今は退いてあげる。こんな状態で続けても、無駄な人間が、無駄な命を散らせるだけだもの」
ちらりと横目でティーダを見ると、セレナは言い放った。
「貴方を殺すのは、ちょっと伸びちゃったけど……楽しみは後に取っておきます」
セレナはトライディアから、水球らしきものを上空に放つと、その水球は大きな音と共に爆発する。それが後退の合図だったのか、城国軍の兵士と、氷水の騎士セレナは後退していった。
安全を確認すると、ソリディアは緊張の糸を解き、倒れているティーダとカルマンに近づいていく。
「――ティーダ、カルマン! ……こいつは酷い……誰か、手を貸してくれぬか!」
ティーダとカルマンは、そのままザードリブへ運ばれていった。ティーダは腹部への刺し傷と右頬への切り傷、カルマンは右胸への刺し傷があり、二人とも重傷だった。ティーダの意識は傷の割に回復していたが、カルマンは意識不明のままである。
――そして、次の日の朝を迎える。
(――傷自体は完治に程遠いが……問題ない戦える)
寝かされていたベッドの上で、ティーダは自分の体調確認を行っていた。昨日の今日であり、生身の人間程でないにしろ、傷の具合は良いとはいえない。
「ティーダ、駄目だよ、まだ動いちゃ……貴方だって重症なんだから!」
ソリディアは、あれからラック兵士長の元で、今後の防衛策を考えている。その間、ティオはティーダとカルマンの看病に努めていた。
「問題は無い。それに状況が変わった。俺も行かなければ、レジスタンス連中は皆殺しにされるぞ」
一瞬の対峙だったが、セレナを見て感じ取った事だ。
相手の大将がデュアリスだったからこそ、実際にこの戦いは攻防になっていたのだ。もしも、このシュネリ湖を攻めていたのが、ジュークやラティオだったのなら、呆気なく陥落していただろう。だが状況は変わり、誰も知りえなかったデュアリスの第二の人格、セレナが表へと出てきた。間違い無く、この近辺のレジスタンスは、セレナの手により皆殺しにされてしまうだろう。
「皆殺し、って……」
ティオはその言葉を聞き、直感的にその恐ろしさを理解してしまう。
「そういう敵に変わってしまった。四の五の言っている暇は無い」
「うん……そんな人のところで、デュアリスちゃんは大丈夫かな……」
デュアリスを案じているティオを、ティーダは見つめていた。
(――何の偶然か、ティオとデュアリスは巡りあってしまった。……セレナの出方次第によっては……殺してでも止めなければならない。だがそうなったらデュアリスは――)
自分で言っていた通り、迷っている時間も無い。何よりも、そんな迷いを持って戦場に出る事が、何よりも自分の命を落とす事になりかねないという事を、ティーダはよく知っているつもりだった。
「とにかく、俺はお前が何と言おうと行くぞ。どっちにしても動かないと全滅してしまうからな」
「ティーダ……。……わかった、ならせめて今だけは休んで? 出撃の時になったら教えてあげるから」
ティオに促されるまま、ティーダは再び眠りについていった。
「――さて、どうしたものかしら」
拠点に戻ったセレナは、デュアリスに体を返す事無く、居座り続けている。
デュアリスが装備していた、青い戦闘法衣を脱ぎ去り、その下に着込んでいた白いレオタードのような、氷の戦闘法衣が姿を表す。デュアリスのものと違い、肌を露出させ、徹底的に動きやすさを追求した作りになっている。
辺りを見回すと、戦いの影響からか、兵士達は軽い興奮状態にあるのがわかる。
「――畜生、これが戦争かよっ、あんな誰だかわからない奴に殺されてたまるかよ!」
「お前は初めての実戦だったっけか? まぁ、無理もないな、最初は誰でもそんなもんさ」
「何でお前はそんなに落ち着いてるんだよ! ……死ぬのは怖くねぇ、でもあんな名前もわからない奴らにっ!」
興奮している兵士を、ベテランがなだめている。そんな光景を見て、セレナはうっすらと笑う。「――ねぇ、貴方、知らない人に殺されるのは嫌?」
「あぁっ!? ひっこん、で――」
今まで威勢良く叫んでいた若手兵も、セレナを見ると、急に黙りこんでしまう。
「デュアリス様!? 申し訳ありませんっ、無礼な口を――」
「それは良いんだけど……ねぇ、私の話、聞いてる?」
「は、はい……」
兵士はセレナの話を、全く聞いていなかったが、流れのままに返事をして、嘘をついた。
「ふぅん、まぁ良いわ。それで?」
「はっ……?」
「それで……知らない人に殺されるのは嫌って聞いてるんだけどな」
「あ、はい、申し訳ありませんっ」
いつまで経っても、自分の問いに答えてくれない兵士に、セレナは内心イライラしていた。
「自分は、嫌であります! 死は怖くないですが、それでも知らない奴に、この命をくれてやる程、自分の命は安くないと思っています」
スラスラと言う若手兵。恐らくは根っからの本心なのだろう。その言葉には一切の迷いが無かった。
「そう……貴方、ちょっと来なさい」
セレナは努めて優しく、その若手兵を手招きする。
若手兵も、全く警戒する事無く、セレナに近づいていく。それは当たり前の行為だ。普通ならば仲間同士で警戒する必要は無く、この兵士の行動は、大方正しいといえるだろう。
「そうよね。貴方の命は訳のわからない相手にあげる程、安くはないわよね?」
「は、はい? ――っぐ!?」
セレナは近づいてきた兵士の顔を、左手で優しく撫でる。そして空いた右手に氷の刃を形成し、兵士の心臓を貫いた。
――兵士は即死だった。
その行動に、近場にいた全兵士達が見つめる。優しく、おとなしいデュアリスしか知らない兵士達にとっては、セレナの行為はまさしく異端である。
「貴方達も覚えておきなさい。貴方達はただの戦争の駒よ、自分の命を過大評価してはいけないわよ? とっとと敵を殺し、そして死んできなさい」
セレナの言葉に、誰も反応を起こさなかった。いや、起こせなかったのだ。自分も心臓を一突きで殺されてしまうかもしれない、そう考えて兵士達は納得できなくても、理解しなければならなかった。
そんな兵士達の反応を楽しむように、セレナは再び微笑する。そして足下に横たわる若手兵を、まるでゴミを見るように見下す。セレナにとっては、死んだ人間など肉塊に過ぎなかった。
「――私が殺してあげたわ。嬉しいでしょ、満足でしょ? 貴方の望み通り、知らない人間に、貴方の命は取らせなかったわ。……覚えておきなさい、貴方の命を奪いし者の名は、氷水の騎士セレナよ」
満足した表情で周りを見回すと、大きな声を出し、兵士達に呼びかける。
「次の進行は、数時間後よ。それまで各自は戦いの準備に取りかかりなさい! ――あぁ、あとはこのゴミも片付けておいてね」
それだけを言い残し、セレナはデュアリス専用のテントへと入っていく。
「うふふ、待っててね、デュアリス。すぐに兄さんを貴方の物にしてあげるからね。……私は永遠に貴方の味方――」
――それから三時間程が過ぎた。城国軍は、新しくセレナ指揮の下、シュネリ湖侵行作戦を再開したのだ。
ザードリブを拠点とし、レジスタンス兵が集まる。その中には、まだ傷も癒えないティーダと、ソリディアの姿が確認できる。ラック兵士長が指揮し、再度襲ってくる城国軍からの防衛戦を行う。
「――俺は何と言われようと、前へ出て戦うぞ?」
ティーダは、ソリディアに対して言葉を投げる。
「うむ、構わんよ。ここで駄目だと言っても、ティーダは聞かんし、何よりも前に出てくれないと、私達はあっさりと全滅だ、違うか?」
「話が早くて助かるな。そういう事だ、デュアリス……いやセレナは、そういう相手なんだ」
「初めてティーダ以外のアルティロイドを見たが……なるほど、あれは危険だとすぐにわかったよ。それにそう来ると思って、ラック兵士長には話を通してある。……だが無理はするな、ティーダの実力は認めているが、本来ならば安静にしていなければならない体なのだからな?」
軽く返事をして、ソリディアの言葉を受け止めた。
「――と、いう事で、みんなで一致団結をし、城国軍からの支配より、我々の暮らす場所を、シュネリ湖を守ろうではないか!」
ラック兵士長の出撃前の激励も終わり、いよいよ二回目の防衛戦が始まった。




