四回の回帰……四回の死……
「はっ!」
ここは……。
四畳程度の狭い部屋。薄い煎餅のように固い布団。四つ足の丸いローテーブルの上にはリンゴとバナナ、それと水差しがあるものの、コップは用意されていない。
……力が入りません。
——まるで実家に帰ってきたかのように、自然と夕月は立ち上がり、立てかけてある鏡で自分の姿を確認した。
——切れ長の三白眼。右頬には一本の刺青。布切れを身に纏っただけのガリガリの体に、ガリガリの腕。発達の悪い中学生のような身なり。
……帰ってきたんですね。ここに。
胸に穴は……空いていません。手も動きますし……飛び跳ねても何ともありません。良いものですね。無傷というものは。
……。
しかし、何ともまぁ、ガリガリだこと。師匠たちが、いつまでもこの頃の話をし続けるのも無理はありませんね。
十五年後の私は、成人女性としてはまぁ……痩せ型ではありましたが、そう、スレンダー、スレンダーという感じでした。
しかしまぁ、このお粗末な『172番』の体ときたら……流石にこれはないですね。
確かに……闘気をまともに使えないはずのFランク剣闘士にもかかわらず、これが竜を殴り殺した上に、ドゥラウスを睨みつけていたら……。
今だったら私も、そんな場面に立ち会ったら、忘れられない気がします。
あの頃はドゥラウスも、レオニクスも、……エルセフィアも、私からすれば雲の上の存在でしたから。
その中でも師匠は別格でした。ヴェルガンドの歴史でも最強と言われたSSSランクの剣闘士『マクレイン・ヴェルガンド』が敵わない相手が、まさか存在するなんて、信じられませんでした。
しかし、ハイヒューマンはともかく、あの古代龍は……。
多分……私と、レオニクスと、ドゥラウス、エルセフィア……それと、師匠が束になっても、敵わなかったでしょうね……。
……。
まさか、師匠も回帰者だったなんて……。
四回の回帰……四回の死……。
師匠はあの日、何が起こるかわかっていたんですね。
もしかしたら、「ヴァリアントドラゴンの肉が食いたい」なんてのも……私たちだけでも、災禍に巻き込まれないように……。
師匠は、勝てないことがわかっていたんですね。
たくさん、たくさん、アホみたいにたくさん、私たちを鍛えてくれましたけど……、結局私たちはSランク止まり。
師匠だけが孤高の存在でした。
なら、どうすれば良かったのでしょう。
場所……がポイントなら、街を捨てて逃げる選択も……いや、八万人の難民が生活できる場所なんて……。
待ってください。
……。
SSSランクの師匠は、同じくSSSランクの魔獣『カラミティドラゴン』も『ベヒモスベア』も『タイラントオーガ』も……全て一人で討伐します。
私たちが四人がかりでやっと倒すモンスターを……。
もしかして……。
復讐の第一プランは決まりだな。
強くなること……師匠と肩を並べられるくらい。
私だけじゃない。ドゥラウスも、レオニクスもだ!
しかし、あのクソエルフはどうしたものか。
くそっ。
最後の「もう一回」を邪魔しやがって……。
あいつさえ来なければ、一週間でも二週間でも……体が朽ち果てるまで……。
くそっ!
許さんぞ。
まずはあいつから——。
だめです。
あれはあれで、戦力としては使えます……。
あれがいなきゃ……師匠以外にSSSランクの討伐が……できなくなってしまいます。
それに何もわかっていません。あのクソエルフが、なぜあそこにいたのかも、なぜ裏切ったのかも……。
とにかく、あのクソエルフには利用価値がある。
泳がせましょう。
……。
師匠に会いたい。
……まだか! 何をモタモタしているんだ! あのバカゲイルは!
早く呼びに来い……『172番、時間だ』なんて気取った声で呼びにこいっ!
さもないとまた、私の代わりに真っ二つになってもらうぞっ!
それでもいいのかああああ!?
あああああ焦ったいっ!
くそっ! 早く師匠に会わせろっ!
一撃だ……一撃でぶち殺してやるぞあの竜め。
このガリガリのくせに無駄に純粋な闘気がしこたま丹田に込められた『172番』の体で、今の私の闘気操作能力があれば、余裕だっ! さっさとしろっ!
今の師匠は前の師匠とは別だ? 知るかっ! 私は一秒でも早く大好きな師匠の顔が見たいんだ——。
だめです。
そこだけは、変えてはいけない場所です。
師匠とのファーストコンタクトだけは、変えては行けません。
弟子になることだけは、絶対に譲ってはならないのです。
あの日を再現しましょう。
細部まで思い出しましょう。
私が、この世界に来た……あの日のことを。




