幸せだった頃の記憶
「今日も海が穏やかで風も気持ちいいわ。 ついでに何か良い事があったら、もっと良い気持ちになれそうですね」
私はお仕事の休憩中に海を眺めながらそうぼやいたのは、きっとこの港町が本当に穏やかな所だから、そんな呑気な事を考える余裕があるんだと思います。
私の住む港町”ポータウン”は小さな港町ですが、比較穏やで安定した気候がウリで、近隣の海で獲れる海産物も豊富で質が良いから、小さい町の割にはそこそこ活気がありますが、だからと言って騒がしい訳でもないのがこの町特徴です。
なので”穏やかな町”と言う言葉がよく当てはまる良い町だと私は思ってますが、ちょっと穏やか過ぎて退屈な時もあるから、ちょっとした何か驚くような事が起きてくれてもいいんですよ?
なんて私は思ったりしています。
「でも実際そんな事起きたら、きっとこの町が大騒ぎになってしまいますし、それはそれで嫌ですから、このままでいいですよね?」
「ハハハ、そんな事を言うなんてよっぽどルーサは退屈してんな!」
「わっ! トッ、トリトン!!」
急に後ろから声を掛けられたから驚きましたが、その声は良く知る幼馴染であり、恋人でもあるトリトンの声でした。
「もう、周りに誰も居ないと思っていたので、急に声を掛けられてビックリしたじゃないですか! 一体いつからそこに居たんです?」
「お前がボーっと海を眺めている間ずっと後ろから眺めてたけど?」
「もう、居るんなら直ぐに教えてくださいよ」
「悪い、悪い! ちょっと、なんだ、その……声はかけようとしてたんだけどなぁ…」
なんだか歯切れが悪そうに答えるトリトンを見て、私はきっとトリトンが私に言いにくいい事を伝えようとしているのを察したので、大人しくトリトンの言葉を待ちました。
「その…今日さ、仕事終わったらあの灯台の展望台に来てほしんだけど、良いか?」
そう言ってトリトンが、この町にある灯台で最も高い位置にある灯台を指差しました。
「良いですよ。 今日は特に大した仕事も入っていませんから、夕方6時頃には灯台に行けると思います」
「そ、そっか! じぁ、じゃあ夕方6時に灯台でな!」
トリトンは夕方に私と灯台で会う約束を交わした後、そそくさと去って行きましたが、私はトリトンが何故私を灯台に呼んだのかその理由を直ぐに察してしまったので、思わずクスリと笑ってしまいました。
なんせ先程私と会う約束をした灯台にある展望台は、この町で最も綺麗な星空が見える場所なので、この町で最も有名なプロポースの名所ですから、トリトンが私にプロポーズをしようとしているのは明白でした。
「もう、せっかくのプロポ―ズなんですから、もう少しサプライズ的な何かがあっても良いと思うんですけどね」
何とも分かりやすいトリトンの意図に文句を言いってしまいましたが、その言葉とは裏腹に私の顔は嬉しさで緩み切っていました。
こうして私は逸る気持ちを抑えつつ仕事を終わらせると、思った以上に早く仕事が終わってしまい、時間に余裕が出来ました。
どうやって時間を潰そうか?と考えていると、ちょっとした悪戯心が芽生えてしまったので、私は予定時間より早く灯台に向かい、トリトンが灯台に来た時にいきなり出て来て驚かせてやろうと思ったのです。
そして約束の時間10分前になるとトリトンが緊張した表情をしながら灯台に現れ、展望台に上がろうとした時
「わぁ~!!」
「うわ!! おっ、驚かすなよルーサ!!!」
”ポト”
展望台に上がる階段の死角に隠れていた私が勢いよく飛び出すと、緊張していたトリトンは大いに驚いてしまたしたが、驚き過ぎて手に持っていた小さな箱を地面に落とすと、その衝撃で箱が開き中から青い宝石であるアクアマリンの付いた指輪が姿を現しました。
「わぁ! 綺麗な指輪ですね。 もしかしてコレを私に渡すためにココに呼んだのですか?」
「あぁぁぁ…もう! どうして中身出てくんだよ……ああ、そうだよ、今日はコレをお前に渡そうと思ってココに呼び出したんだよ!」
「ふふふ、ありがとうございます。 でもどうして突然指輪なんか? 今日は何かの記念日でしたっけ?」
私はどうしてトリトンが美しい宝石の付いた特別な指輪を、私に準備していたのか分かっていましたが、あえて何も気付いてないフリをして、トリトンが私に指輪を渡そうとした真意を訪ねました。
「えっと……よ。 俺達チビの頃から一緒で、付き合ってから十年経っただろ。 だからそろそろ結婚すんのもアリかと思ったりして……な」
恥ずかしそうにそうしどろもどろ指輪を渡そうとした理由を答えるトリトンでしたが、その姿を見て思わず私はクスクスと笑ってしまいましたが、コレもトリトンの全てが愛しかったからでした。
「つまりコレは、婚約指輪って事でいいんでしょうか?」
「…まぁ、そうゆう事だな」
「フフフ、せっかくのプロポーズ何ですから、せめてもう少しムードが欲しかったですね」
「んだよ! 笑いやがって!! はいはい、どうせ俺は女の好むムードとは無縁の男だよ!! それで、この指輪受け取ってくれるのかよ?」
トリトンは口では悪態を付いていますが、その表情は緊張を張り巡らしている所為か、とても真剣な表情でした。
「そんなの決まっているじゃないですか。 もちろん受け取りますよトリトン、いえ、私の未来の旦那様」
私は満面の笑みでそう答えると、トリトンは片手で口を覆い、表情を隠そうとしますが、隠した所でトリトンの口が激しく緩んでいるのは丸分かりです。
ですがトリトンは肝心な事を忘れているので、私は左手の薬指をそっとトリトンに差し出して
「では、この指輪はトリトンが嵌めてくれませんか?」
「ああ、任せろ!」
私からプロポーズの承諾得たトリトンの顔は、とても晴れやかで、私の手に指輪を付ける動作は珍しく紳士的でした。
こうして私とトリトンは、恋人から婚約者となったのです。
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