世界を救う矛盾
「……見てしまいましたか。 私の顔を」
奴がローブで隠した素顔を顕にすると、現れた顔は数刻前に爆発で跡形もなく消し飛んだハズのルーサ様と同じ顔なのだが、その表情は僕が何度も目にした慈愛に満ちた表情とは真逆の、冷めきった表情をしていたから
「……あなたは本当に、あのルーサ・ルカなのか?」
僕はそう尋ねずにいられなかった。
「ええ、私は救世の会所属の神官であり、世間が水の聖女と称するルーサ・ルカ本人に間違いありませんよ」
ここ最近何度も耳にした声で目の前の者はそう答えるが、その印象は相変わらず冷め切った表情と低いトーンで暗くて冷たい印象であり、過去に感じた慈愛に満ちたイメージとは真逆の所為で、未だに僕は目の前の存在がルーサ・ルカと同一人物だという事を信じる事が出来ずにいる。
「……なら爆発で跡形もなく消し飛んだのは誰だ?」
「消し飛んだのは誰? ……フフフフ、髑髏の闇騎士様は可笑しな事を言いますね」
「可笑しいだと?」
「ええ、私があの爆発に巻き込まれても生きているという事は、私はあの爆発で『死んでいない!』
ただそれだけの話です。
そもそも、先程私の力がどれほどの物かその身を以て知ったのですから、私があの程度の爆発を防ぐ事など”訳も無い”事だと知るには、十分な実力を私は見せたハズです。
だというのに私が生きている事に未だに動揺を見せる貴男の姿は、滑稽にしか見えませんよ」
「…あの慈愛に満ちた水の聖女が放つ言葉とは、到底思えない物言いだな」
「残念ながら今の私は、貴男の言う教会に属する『慈愛に満ちた水の聖女』ではなく、イルミナーテンの大司教が一人『アクアリウス』として活動している以上、イルミナーテンの大司教としての使命を全うしているだけですよ」
ルーサ・ルカは淡々とそう答えるが、やはり今目の前にいるのは、あのルーサ様と同一人物と思えない程、言葉一つ一つに冷たさを感じる。
「つまり今の貴女が、本当のルーサ・ルカだと言いたいのか?」
「いいえ、私は教会の司祭であって、イルミナーテンの大司教でもある以上、どちらも本当の私ですよ」
「……だったら何故だ? 何故爆発に巻き込まれて死んだように見せかけた?」
「そうする必要があったからです」
「必要があっただと? ふざけるのも大概にしろ! あの爆発を見にした人達は、貴女が死んだと思い、その事に心を痛めて悲しみに暮れていたというのに、貴女は人の悲しむ姿を玩具の様に扱い弄んでいる事に対して何も思わないのか!!」
「私が死んだと思わせた事で、多くの人が悲しんだのですね…」
僕の叫びが多少は堪えたのか、ルーサ・ルカの声のトーンが少し落ちる。
「そうだ! 貴女のやった事は多くの人の心に傷跡を付けた!」
「そうでしたか…でしたらこちらが狙った通りの結果が得られましたので、盛大に死を偽装した甲斐がありました。 教えて頂きありがとうございました」
「なっ!、本気で言っているのか!?」
「もちろんです。 人は心が傷付いた後に立ち治る事でより強い心を得るのです。 ですから私の行いで傷ついた心こそ、人がこの先に嫌でも待ち受ける多くの困難と試練を乗り越える為の力の源となるのです」
ルーサ・ルカは、平然かつ淡々ととんでもない事を語るが、その語りに迷いは見えない。どうやら本気で自分達のやっている事は、正しいと思っているようだが、聞かされる側としては聞いていて気持ちの良い物ではない所か、怒りさえ感じてくる。
「例え貴女の言う通り、貴女の行いが人の心に力をより強くする行為だとしても、この街の人達の心を平然と踏みにじった事は罪に値する行為なんだぞ!
それでも自分のやっている事は正しい事だと、貴女は言うのか?」
「正しいも何も先程お伝えした通り、この世界は破滅する方向に進んでいる以上、もうあまり多くの時間が残されていないのです。
ですからアナザーワールドで生きる人達には、この先待ち受ける試練に打ち勝つ力を、例え本人達が望まなくても持って頂きます」
「言っている事は、この街で支配者を気取るマフィアと変わらないレベルで高慢だな!」
「どれだけ非難されようが我々は構いませんよ。 なぜなら人々はいずれ私達の行いに感謝する事になりますし、何よりコレで結果的に多くの人と世界が救えるのであれば、私は聖女などではなく非道な悪魔となりましょう」
ルーサ・ルカは絶対的な自信を持ってそう答えたが、その姿は”水の聖女として活動していた時の姿と重なる部分がある” 何て言えば可笑しな話に聞こえるのかもしれない。
だけど……コレだけは! ルーサ・ルカは本気で全ての人を救おうとする思いが本物だという事だけは、不思議と伝わってくるのは、しばらく行動を共にしていたからなのか? もしくは神遺物は互いに共鳴すると言っていたからその副作用のような物で、相手の想いが伝わりやすくなっているのかもしれない。
だから僕は気になってしまうんだろう。 どうしてルーサ・ルカが、世界を救う為に人を救おうとしつつも、人を傷つけるという矛盾した行動をするのか。
「最後に聞く。 貴女は自分の行動が矛盾していると分かりながら、どうしてその歩みを一切止めようとしない?」
「そうですね……世界を救う事こそが、私とって私自身が犯した最大の罪である”私が滅ぼした故郷に対する贖罪の為”ですよ」
「滅ぼした故郷への贖罪だと?…貴女の故郷は、津波に呑まれて滅んだのでは?」
「一般的にはそのように広まってしまいましたが、真実は違います。 同じ神遺物に選ばれし者として、髑髏の闇騎士様にはお教えしましょう。 私がどのよな経緯で水の神遺物、悲観する水に選ばれ、どのようにして私が今のステージに至ったのかを」
最後まで読んで頂きありがとうございます。




