罪と罰
マフィアとの抗争が終わりを迎えた後、再び以前のように、「サナッタ・シティを誰もが住みやすい街に戻そう」と、この街は復興作業に取り掛かり始めるようとする。
だけど、マフィア達が残していった多くの爪痕が、復興の妨げとなり、この街の復興は思うように進まなかった。
どうしてこの街の復興が、中々進まないのか?
その具体例を挙げると、まずこの街を支えていた多くの有権者を、失ってしまった事で、この街が長い年月を掛けて築き上げていた、統率の取れた体制が大きく崩れてしまった事が一番の原因だ。
そんな街の統制が、まともに取れていないタイミングを、見計らったかのように、この街の外から多くのならず者が、この街に流れ込んできた。
他所からこの街に、流れ込んできたならず者達は、マフィアとの抗争の傷が癒えてない町の住民達に、所かまわず平然と襲いかかり、襲い掛かった住民から、あらとあらゆる物を奪おうとする無法者であり、平和を取り戻そうとしているこの街にとって、マファイに変わる新たな脅威として頭角を現し始めた。
更にその無法者達を、自身の傘下に取り入れ、この街で突如勢力を拡大し始めたのは、この街の有権者を殺害し、有権者が管理していた地域を、牛耳るようになったマフィア達の生き残り達だった。
特にこの街で、最ものどかで広い地域でを管理していたモーリス家を亡ぼした、私にとっても憎き存在”アーサニーク”というマフィアの生き残りは、もっとも多くの無法者達を己の傘下に取り入れ、その勢力は「アーサニークファミリー」と称される程の勢力へと変貌している。
おまけに暴力をもって、モーリス家が管理していた地域の住民を強引に抑え付けているようで、その勢いのままモーリス家の後釜の如く、この街の政や治安にまで関わってくるようになった。
だから今もなお、かつてモーリス家が管理していた地域である”モーリス・タウン”の治安は、特に荒れてしまっているから、この街でもっとも犯罪が多発している地域となってしまった。
更に大小様々な問題が、この街で浮かび上がってくるのだけど、本来浮かび上がった問題は、統治者が率先して問題を解決しようとする姿勢を見せる事で、その下に就く者達がその流れに続き、問題は早期の解決に繋がる。
だけどこの時、この街には【領主】と言う名の街の統治者が、この世を去ったばかりで不在だった。
そしてその後継者は、まだ12歳の子供であるウィルであり、尚且つウィルは私を暗殺者から庇ったさいに受けた大怪我を治療する為に、入院中で全く動けない状態。
そこで一時的な領主の代理を、バーキン家や生き残った有権者達で務めてみようとしたけど、誰が領主の代理になって指示を出しても、有権者の誰かしらが、その指示を無視して動こうとする者が必ず現れるので、この街は以前のような統制の執れた行動が出来なくなっていた。
どうして「以前取れていた統制が、急に取れなくなってしまったのか?」と言えば、この街の体制が、代々優れた統治力を持って領主を務めていた「オーウェン家の意向に従って動く」という流れに完全に慣れ切っていた為、突発的に現れた領主代理の指示には、必ず反発する者が現れてしまったから。
要は本来の目的である【街の逸早い復興】を、有権者の誰もが目指しているにも関わらず、その方法を纏められる者が居なかったからこそ、この街の復興は遅れ、治安が悪化する道を辿ってしまったのだ。
こうして、中々以前のように、纏まる事が出来ない事に不安を感じたこの街の人間誰しもが、この街の歴史に従って、代々この街の領主を務めてきたオーウェン家の「新たな当主」であり、尚且つこの街の「新領主」という、この街の新たな象徴となる存在として望まれた人間。
私の”婚約者”かつ大好きな人、ウィルフレッド・オーウェンの体調がやっと回復し、ようやく面会の許可が出たという連絡が、病院から入った。
私はとにかく、ウィルの容体が心配で仕方がなかったので、大急ぎでウィルが入院する病院に向かう。
そして、いざウィルと面会してみると、ウィルは私を見ても、いつものように笑顔をみせてくれなかった……それに、そんな反応するウィルを見て、私は、ウィルの反応は当然だと思った。
だってウィルは、私の所為で両親を失っただけでなく、私を庇った時に追った大怪我の所為で、利き腕だった左手は「もうまともには動かせないだろう……」という非常な現実を、お医者様に言い渡され”ありとあらゆる希望を失っていた”状態だったのだから……
それはつまり、私と共にウィルも夢見ていた【騎士】になるというウィルの夢が、ウィルから断たれてしまったという事を、意味している。
そんな数々の非常で残酷な現実を、一挙に突き付けられたウィルの表情は、絶望で焦燥しきっており。私はそんなウィルの姿を、とても直視することが出来なかったし
『ウィルがこんな目にあってるのは……全部私の所為?』
そう思わずにいられなかった……
そしてこの日が、私とウィルの関係が、今の関係になった始まりでもある。
私はウィルと面会しても、ウィル対する様々な罪悪感に苛まれている事もあって、せっかくウィルのお見舞いに来たというのに、何もウィルに声を掛ける事が出来ないままでいた……だからウィルの病室に私が入ってから、ずっと沈黙が続いていたのだけど、その状況下でウィルは突然
「ねぇ、エレン……今の僕じゃ君を支える事は出来そうにないんだ。
だから僕たちの婚約は、無かった事にしようよ……きっとそれが、これからのお互いの為だと思うから」
ウィルの一言で沈黙が終わりを告げると同時に、私達の婚約関係も終わり告げる事となった。
本音を言えば、物心ついた時から一緒に居て、どんな時でも私に寄り添ってくれたウィル。
そんな私にとっては、掛替えの無い大好きな存在であるウィルと、私は婚約破棄なんてしたくなかった!
だけど『私の所為でウィルの人生は滅茶苦茶になってしまった…』という後ろめたさから、私はウィルの提案に対して、ただ黙って首を縦に振る事しか出来なかった。
その後私は、自分に伸し掛かる罪の重みと、ウィルから言い渡された婚約破棄の事実に、心が耐え切れなくて、しばらく部屋に籠って塞ぎこんでしまう。
そして自室に籠って、未練たらしくウィルとの思い出のが詰まった物を眺めては、現実逃避を続けていたのだけど、そんな事をしても、私の沈んだ気持ちが浮かび上がる事はなかった。
そんな馬鹿げた事を、一カ月以上も続けていると、どこからかその事が外に漏れ、その噂を聞きつけた元婚約者のウィルが、私の元を訪ねてきてくれた時は、心の底から嬉しかった。
だけど、私はウィルと面と向かって会う勇気がなかったので、ウィルの面会を拒絶してしまう。
それでもウィルは、お父様とお母様に頼み込んで屋敷に入れてもらうと、私の部屋の前までやって来てしまった。
(……どうしよう、今の私をウィルに見て欲しくないなぁ)
この時ばかりは、せっかく来てくれたウィルには申し訳ないけど、心底そう思っていた。
そしてその事を、ウィルは察してくれたみたいで、ウィルは私の部屋の前から、扉越しに語り掛けて来た。
「エレン、返事はしなくてもいいから、僕の話を、ほんの少しだけでいいから聞いてほしいんだけど……いいかな?」
それに対して臆病な私は、何も言わず黙り込んでいると
「何も言わないから勝手に話しちゃうけど、本当に僕が話してるのが嫌だったら、嫌だって言ってね。
まず、この前病院で、いきなりあんな事言って……ごめんね。
あの後色々考えてやっと気が付いたんだけど、僕は一方的に僕の考えを、エレンに突き付けてしまっていたから、その事でエレンの事を、『ひどく傷つけてしまったんじゃないか?』って事に。
だから、まずはどうしてもその事で……その、君にちゃんと謝りたかったんだ」
(どうして? 悪いのは全部私なのに、どうしてウィルが私に謝っているの?)
突然やってきたウィルから、思いもよらぬ言葉が出た事で、この時私の頭は激しく混乱していた。
そして本当は口に出して、ウィルが私に謝ってくるのを止めたかったのだけど、その事を口に出して言ってしまえば、ウィルとの婚約破棄を、私が完全に認めてしまった事になるような気がしたし、そしたらもう私の前に「ウィルが二度と現れなくなってしまう」ような気もした。
だから私は、ウィルに対して、変わらずだんまりを決め込んでいる……
最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。
自分が切っ掛けで何か大事が起きたと思うと、例え周囲に自分の所為じゃないって言われったって、押し寄せる責任感という重圧から、中々逃れる事って出来ないと思います。
そんな時大事なのは、その事に引きずられないで、次どうしたら同じことが起きないかという対策を練るのが重要なのは、重々承知なんですが……中々ですね~(笑)
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