八年前に起きた悲劇
私は、騎士の家系かつ、この街が作られてからずっと、街の防衛と治安維持に務めている家系である「バーキン家」で生まれた。
そしてこの街を何度も外敵から守り続け、治安の維持に貢献し続けたその功績は、王都でも認められ、王都から”子爵位”の爵位まで与えられた歴史がある。
そんなバーキン家は、この街の有権者の一つに数えられる名家とされるけど、そんなバーキンが家が活躍してきた裏には、この街の領主を代々務め、この街の住民に最も信頼されると同時に、この街で最も高い”伯爵位”を持ったウィルの生家である「オーウェン家」の支えがあったからだ。
まるで、騎士と主君のような関係を築きつつ、お互い助け合っていた両家だからこそ「一つになってもいいのでは?」という話は、以前から何度も出ていたらしんだけど、様々な事情が絡む事もあって、バーキン家とオーウェン家は、周囲から望まれていても、周囲の望み通り一つになる事はなかった。
だけど私とウィルの代で、両家が一つになる為の様々な問題が、遂にクリアされたため、ようやく多く人達から期待されていた、”両家が一つになる”手筈として、私とウィルは婚約者同士になった。
だけど私達は、そんなお堅い家の事情なんて関係なしに、婚約者になる前から仲良くやっていたので、ウィルと婚約者になって嬉しいとは思ったけど、これで何かが変わるなんて、一切思ってなかった。
だけどそんなウィルとの関係は、今から八年前に起きた忌々しいあの事件を発端に、大きく変わってしまう。
八年前。
まだこの時私とウィルは、12歳の只のお嬢様とお坊ちゃまだった。
この時のこの街、サナッタ・シティは、領主の優れた施政によって「下手したら王都より治安が良いんじゃないのか?」と評されるほど平和かつ穏やかだったから、この街であんな大事件が起きるなんて誰も思っていなかったし、「この街に居る限り、誰もが平穏にずっと暮らしていける」とこの街に住まう誰もが思っていた。
だけどそんな街の平和は、冬が訪れた直後に何の前触れもなく壊される。
「もうそろそろ雪が降るんじゃないのか?」
誰もがそう言うぐらい寒さが厳しくなった頃だった。
突如大軍勢を率いたマフィア達がこの街を私達から奪う為に、この街に対して大規模な抗争を仕掛けてきたのだ!
こうして何の前触れもなく、この街を襲撃して来たマフィア達だが、この街だって黙ってマフィアに占領されるつもりは更々なかった。
この街の各地域を、次々と襲撃してくるマフィア達に対して、結束の強いこの街の住民達は、自分たちの住み地域を管理する、有権者を筆頭とした自警団を結成、街の皆で力を合わせて、この街を守ろうとする。
しかしこの街において、まともに侵略者と戦える戦力を保有していた有権者といえば、私の生家であるバーキン家と、ウィルの生家であるオーウェン家ぐらいだった。
いくら各地域が自警団を結成し、マフィアに抵抗の意思を示しても、相手は”暴力を日常として生きている集団”だ。
そんな相手にいくらの自警団側に数と地の利があるとはいえ、日常的に暴力を横行している世界を生きて来た人間と、”平和に生きて来た街の住民”
どちらの力が強いかなんて考えるまでもない。
だから各地域が結成した自警団なんて、マフィア達からすれば『烏合の衆』程度の扱いで、相手にならない存在だった。
恐らくマファイ達は、この事を最初から見越していたから地域の自警団という名の”烏合の衆”など相手にせず、奴らが真っ先に狙ったのはその地域で実験を握る存在である有権者達だった。
大した武力を持たない有権者も可能な限りの抵抗はしたけど、その抵抗虚しく次々とマフィア達の手によってその命は奪われ、命を奪われた有権者達の管理地域はマフィア達の支配下となってしまった。
武力を持たない有権者と、その地域をなんとか救おうと、この街の一番の戦力であるバーキン家や、それに続く武力を持ったオーウェン家も、襲撃された各地を奔走しようと努力はした。
だけど、あまりも同時に襲撃された地域が多過ぎて、自分達の住む地域から近場の地域の救援に向かだけでも精一杯だった。
この状況がマファイ達の手から多く人達の命が奪われる状況を、何も出来ないまま許してしまうという最悪の結果を生み出してしまう。
そしてこの時命を奪われた有権者達の中には、私達と仲良くしていた多くの同年代の子達も多数含まれおり、特にウィルと一緒に、私が妹のように可愛がっていた子がいた「モーリス家が滅ぼされた!」という話を聞いた時は、特に親しかった者を失った悲しみで、私もウィルも二人して失意の底に沈んでしまったのは、今でも決して消える事のない心の傷である。
こうしてマフィア達の、思惑通りその実験を奪うマフィア達の作戦によって、多くの街の人間の命と、サナッタ・シティを構成している13地域の内、半分近くの6つの地域が奪われてしまった。
この状況をひっくり返そうと、残った街の有権者達と住民が、より強い結束を結んで攻勢に出ようとも、もはや、状況は簡単にひっくり返せない域まで事が進んでいたし、おまけにこの街の力は、時間が経つにつれて徐々にかつ、確実にマフィア達に削がれている。
だから、このまま時間が過ぎれば、いつかマフィア達に、この街が占領されてしまうのは、誰の目から見ても明らか。
そんな最悪の流れを打破すべく、私のお父様とお母様は、街の皆にある提案を持ちかける。
私のお父様とお母様が、王都や隣領に援軍の要請に向かうと同時に、お父様とお母様が、援軍要請に向かった情報を”あえてマフィア達に流す”ことで『この優位な状況を覆させてなるものか!』とマフィア達は考えれば、何がなんでもマフィア達は、私のお父様とお母様、援軍を呼んでくるのを止めようとする。
そうなれば、それ相応の戦力を追撃に回すだろうし、同時に残った街の人達で、マフィアの進行を抑えられる!
と主張した。
危険な賭けだけど「この現状を打破するこれしかない!」と皆が納得した事で、私のお父様とお母様は、危険を承知かつ、街の命運を背負って、街の外へと援軍の要請に向かった。
そしてお父様とお母様、そしてバーキン家が率いる部隊が、この街を離れている間、私は当時婚約者であり、現状最も安全であるとされるウィルの家である、オーウェン家の屋敷に、その身を寄せる事になった。
そしていざ、お父様とお母様が街の外に、援軍を呼びに向かう為に出発する。
しかし、お父様とお母様の読みとは違って、マフィア達は誰一人、お父様とお母様達を、追いはしなかった。
私のお父様とお母様が、街の外に出た事を知ったマフィア達は、私の両親を追って、他所から援軍を呼ぶのを止めるより、この街で最も強い力を持つ者達が抜けている間に、この街の最有権者であるオーウェン家を潰そうと、オーウェン家に対して総力戦を仕掛けてきたのだ!
しかし街の人達も、その可能性は考慮していた事もあったし、ウィルのお父様はこの街の”名領主”として街の住民にも大変慕われている事もあって、街の人達はマフィア達に酷い目に合わされたばかりだと言うのにオーウェン家の防衛に多くの人達が参加してくれて、街の住民は再びマフィアと戦う意思を見せた。
それに今度は、”オーウェン家の人間が、戦いの指揮を取っている”という事もあって、戦闘経験の薄い街の人が、中心となって築かれた防衛部隊も、オーウェン家による適格な指示と、戦力の配置によって、マフィア達の総攻撃に対しても鉄壁の守りを発揮し、オーウェン家に築かれた防衛線は、私の両親が援軍を呼んでくるまでの間、マフィアの総攻撃に十分耐えうる防衛力を発揮した。
この状況を見た誰もが、私のお父様とお母様が援軍を率いて戻ってくるまで、絶対にこの街は耐えれるし、そうなればこの街は救われる、と実感していたから、この街の人達の士気は更なる高まりをみせ、その勢いにマフィア達も、押され気味だった。
しかしそれでも、相手が”戦闘経験が浅い一般人が中心となっている”以上、ある部分において付け入る隙が生じる事を、マフィア達は知っていた。
いくら優れた指揮によって、一見難攻不落の防衛戦が展開されているように見えても、所詮は一般人の集まり、だからこそ生じる隙。
そこ狙えば、いくらでも付け入る隙がある事をしっているマフィア達は、どれだけ防衛線が強固に築いていようとも、負傷者に見せかければ、暗殺者一人防衛線の内側に送り込める事を知っていた。
こうしてマフィア達が送り込んだ一人の暗殺者が、誰にも気づかれる事なく防衛線の中に入り込んでいたのを、誰も気が付けていなかった。
こうしてマファイ側が仕向けた暗殺者は、あっさり防衛線の中に侵入した後、オーウェン家の屋敷に易々と侵入。
そして暗殺者が、最初のターゲットとして狙いを定めたのは、まだ大した力を持たない私と、ウィルの命だった。
暗殺者が、私とウィルが籠っている部屋に侵入してきた事に気が付いたので、私とウィルは手元に置いていた剣を構え、暗殺者と戦う姿勢を見せると、暗殺者も私達に刃物を向けると同時に、私達を逃がさず確実に消す為に、本気の殺意を向けてきた!
その際私は、初めて自分に対して向けられた【本気の殺意】に対して恐怖で怯えてしまい、その場で腰を抜かしてしまったので、その場から一歩も動けなくなってしまう。
その様子を見た暗殺者は、真っ先に私の命を狙ってきたのだけど、その際ウィルが身を挺して私を庇った所為で、ウィルは利き腕である左手に大怪我を負ってしまったのだ!
私を庇った所為で、左腕から大量の血を流して苦しむウィル。
そしてそんなウィルの様子を見て、ますます恐怖でガタガタと体を震わせ怯える私。
そんな絶体絶命の状況に追い込まれた私と、ウィルに向かって、暗殺者の持つ凶器が振り下ろされた瞬間!
地面から盾が現れ、私とウィルを暗殺者の魔の手から守る。
そしてその事に暗殺者が驚いた瞬間、暗殺者の体から血が飛び散った後、暗殺者はその場で崩れ落ち、暗殺者が崩れ落ちた先に立っていたのは、ウィルのお父様とお母様!
ウィルのお父様は、私の両親と共に武芸を習っていた為、そこいらの並みの騎士よりよっぽど腕が経つし、ウィルのお母様はこの街で最も優れた魔導士だった。
だからこそ、屋敷内の僅かな異変を察知し、私達の元に駆けつけて暗殺者を撃退出来たんだろうけど、例え暗殺者を撃退したとしても、目の前に大怪我を負っている我が子ウィルを見て気がじゃなかったのだろう。
ウィルの両親は、急いで今出来る最低限の手当を施すと同時に、腰が抜け、恐怖でガクガクと怯える様子の私を宥める為に、優しく寄り添ってくれた。
だけどウィルの両親は、ウィルと私の事を気にするまり、先程倒した暗殺者の息の根が完全に止まっている事を確認していなかった。
ウィルのお父様に切り捨てられた暗殺者の息の根は、まだ完全には止まっておらず、私の視界には暗殺者は死に体の体を動かす姿が映る。
その事をウィルの両親に伝えようとするが、私の体は未だに恐怖に怯えて、思うように体が動かせなければ、声も出ない。
何とか「うっ……うしろ」という声を絞り出した時には、もうすべてが遅く、暗殺者は初めからその手を使って、目的を果たすそのつもりだったのか、その身に隠し持っていた”ある物”を発動させようとしていた。
暗殺者が発動させようとしていた物とは、己の魔力を媒介に、己が周囲を吹き飛ばす爆弾となる禁忌の魔道具であり、その魔道具で暗殺者は己が爆弾となって、私とオーウェン家を纏めて、この世から消し去ろうと目論んでいた!
そして暗殺者が、自爆用の魔道具を発動させようとした事に、気が付いたウィルの両親だけど、もはや爆発を止める事は「不可能だ」と悟ったウィルの両親は、私とウィルを守ろうとする為、持てる全ての力を、私達を覆うように作られた防壁魔法に注ぎ込むと同時に、少しでも爆発の衝撃から私達を守ろうと私達に覆いかぶさった。
その直後、爆発魔法は発動し、身を挺してまで私達を守ろうとしたウィルの両親の姿は、この世からその爆発によって、跡形もなく消し去られる…
この爆発が起きた直後に、私の両親が援軍を引き連れてこの街に帰還し、劣勢だった形勢は一気に逆転!
こうしてこの街とマフィアのと抗争は、この街の勝利で終わりを迎えた。
だけど、マフィア達がこの街に残した数々の傷と遺恨は、あまりも大きく、その傷は未だにこの街の様々な場所において、傷跡を残している……
最後までこの話を読んで頂き、ありがとうございます。




