幕間のひと間 その12
ウィルの任命式が終わった数日後──
トゥルメリア王国の財務担当を前任の父から譲り受けて早20年。
思えばそれなりの時間と月日は流れてしまったのかと感嘆してしまうが、今では息子のスレブは成人し私の後継者として着実と育っている。
あと数年もすればスレブが私の後釜として家督を譲り、裏金で作った資産で引退後の老後は安泰という訳だ。
だが──ひとつ解せんのは、長年財務の癌である国防担当のグレイシー家の跡取り、ウィル・グレイシーが、私の息子より早く名誉公爵の爵位を授爵し、領地まで授かったということだ。
授爵の経緯も、悪魔のベリアルを倒し、半年前のエルフ王国の遠征では、ダンタリオンという悪魔を倒したらしい。
証拠も無いのに人の証言だけで授爵させるなど、この国の中枢は節穴だらけだ。
辺境伯もどきの公爵家が身の丈に合わない出世をし無能な人間を登用して、この国を滅亡に追いやろうとしている。
それだけは阻止せねばならん。
しかも──ウィル・グレイシーは大きな秘密を抱えている。
それは彼がジェフリー・トゥルメリア国王陛下の正当なる後継者だということを隠しているのだ。
ウィル・グレイシーが幼少の頃、悪魔ベリアルに狙われていて、ベリアルから逃れる為に死亡公表してまでグレイシーに匿わせた経緯がある。
その後子宝に恵まれなかったジェフリーは、今病床に伏せっていて死期が近い。
何より──ベリアルとの戦いで、妻のマーサが命を落としたのにも関わらず、後妻を取らず後継者を作らなかったことが、ウィル・グレイシーを王家に復帰させ後継者として擁立しようとしたのだろう。
極秘情報の為このことは世間には漏れていないが、しかもこのウィル・グレイシーは、エルフの女とノーマン・グレイシーの間に生まれたノエルというハーフエルフを妻に迎えようとしているのだ。
何とも嘆かわしいこと。
純血であることが絶対であるトゥルメリア王国に対して、真っ向から思想理念を曲げようとしているのだ。
しかも──本人たちは隠し通せていると思っているだろうが、狭い政治の世界では、如何なる隠し事も内部には知れ渡ってしまうのが常。
我々の情報網を侮っているのは目に見えて明白だ。
こんな愚の骨頂であるウィル・グレイシーを王に据えてはこの国の根幹を揺るがしてしまう。
なんとしてでも別の王を擁立させなければならないのだ。
そして──その別の王がこの国に帰還したのだ。
「モーガン様、トゥルメリア王国への帰還、誠におめでとうございます」
「ネルソンか。出迎え感謝する」
モーガン・トゥルメリア──
ジェフリー・トゥルメリア国王陛下の弟で、最近まで南のステイシア王国に放逐されていたお方だ。
モーガン様は過去に王位継承を巡って現国王のジェフリーと対立していたことがあり、ジェフリーが即位してから反乱分子と恐れられてか、ステイシア王国に要人という形で放逐されていた。
事実上の追放処分である。
だが──ジェフリーの死期が近い今、秘密裏に王国に帰還し、我々モーガン派はジェフリーの後釜にモーガン様を据えようとしているのだ。
そう──彼ら王権派の云う打倒派はモーガン派である。
私もモーガン派の一人であり、スミス家のザガルトスが亡き今、モーガン派の筆頭を担っている。
他にもマーセナス家や侯爵家以下の面々はモーガン派であり、貴族社会の3分の1はモーガン派で占めている。
「ザガルトスの件は残念だった。我が王になった暁には後見として復帰してもらう予定だったが、さすがジェフリーといったところだ。手が早い」
「えぇ。まさか──早くも彼の行ったことが露見したのは大きな誤算でした」
「あいつが取引していたベリアルも消滅したんだろ? 倒したのは誰だ」
モーガン様はいつも情報を仕入れるのが早い。
ベリアルが消滅したことも既に周知していたか。
「ウィル・グレイシーという15歳の少年です」
「ウィル・グレイシー? 我の甥っ子か」
「左様で。そのウィルがベリアルを消滅させ、ジェフリーの死期が近い今、王家に復帰し王座に座ろうとしています」
モーガン様は何かを悟ったように軽く頷き、近くの椅子に腰掛ける。
「やはり──あの時、ウィルを始末出来なかったベリアルとザガルトスに落ち度があった訳だが、今となってはウィルの方がジェフリーよりも厄介だ」
「しかも──そのウィルは、ハーフエルフのノエルという女を妻に迎えようとしています」
「ハーフエルフを? なんともふざけた甥っ子だ。早々に始末したほうがいいな。ネルソン、ウィルとその女を早急に始末しろ。金に糸目は付けんでいい」
ウィル・グレイシーさえ始末すれば、ジェフリーは後継者を失い、王権派の力は弱まる。
そうすればモーガン様が王座に座り、新しいトゥルメリアに生まれ変わる。
これはその為の一歩に過ぎないのだ。
「かしこまりました。アリス王女殿下はどうします」
「お前の好きにしろ。ジェフリーの子供に一切の慈悲はない」
それは有難い話だ。
国内でも絶世の美女と謳われるアリス王女殿下を私のオモチャにできるのは、願ってもないチャンス。
散々遊んで飽きたら他国に売り払えばそれなりの金になるし一石二鳥だ。
これからが楽しみでしょうがない。
「では、早急に取り掛からせて頂きます」
「あぁ。ネルソン──」
「────なんでしょう」
「しくじるなよ」
「え、えぇ。もちろんッ!! 全てはモーガン様の為に」
その鋭い眼光は、次期国王としての決意と強い信念の表れだと言わんばかりの目だった。
モーガン様は有言実行が絶対のお方だ。
ここでしくじりでもしたら、私の命が危ない。
それでも、この方を王にする為──私は絶対に失敗出来なかった。
全ては正当な王であるモーガン様の為に──
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