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翌日──
ギルドから正式にギルドカードが発行され、僕たち4人は皆Cランクからのスタートになった。
そして今日はダンジョンで実技研修が行われる。
その為僕たちAクラスはダンジョンの目の前に集合していた。
4人1組のチームになってダンジョンに潜ることになるのだが、本当にこのクラスが12人でよかった。
11人とか13人とか中途半端な数字って必ず一人あぶれるじゃん?
2人1組から余ってしまうと後ろから先生が、『じゃあ〇〇、先生と一緒にやろうか』とか声掛けられるし、周りの視線が気になってしょうがないし、先生は手加減しないから、体育の授業とか苦痛になるんだよね。
僕?……聞くなよ。そういうことだ。
「さて──皆揃ったな。これより、ダンジョンにおける実技研修を行う」
アンジェラ先生が僕たちの前に出て話し始める。
ちなみにみんな軽装なのだがこれには理由がある。
この世界にはマナシールドというものがあり、自身の魔力が身体に纏わせ、防具のような役割を果たしてくれる。
マナシールドは打撃攻撃や魔法攻撃を受けると徐々に破損していき、耐久不可までいくと完全に破損してしまう。
まんま通常の防具と一緒なわけだ。
「今回の実技研修だが──3階層までを目標に進んで欲しい。死と隣り合わせの研修だ、絶対に無理しないように。脱出が困難な場合は、緊急用の脱出リングを使用するんだぞ」
「ウィル様、ワクワクしますね」
アリスがにこやかな顔で覗き込んで来る。
僕たち4人は同じチームになる。
他のチームはD.Eランクの生徒ばかりで、ややチームバランスが偏っているが、返してみれば同じランク同士でダンジョンに潜れば、誰かに頼りっぱなしになることは無く、それぞれが知恵を出し合いダンジョン踏破を達成できる。そんな目論見があるのだろう。
「そうだね、でも気を引き締めて挑もう」
「そうだよアリス。そんな緩んだ顔してると足元救われれるぞ」
「シノちゃん!別に気は緩んでないし!シノちゃんだって緊張で表情硬いじゃん!」
「はははっ!本当だ。シノも緊張するんだね」
「おい!ケイン!お前だって足震えてるじゃないか!」
「こ、これは武者震いだ!!決して怖いとかそんなんじゃない!」
「とか言って、怖いの見え見えですけど〜?さっき何回もトイレ行ってるの知ってんだからね!」
「ちょっ!本当にやめてくれ!」
こんなワイワイ話せるのなら大丈夫だろう。
僕たちは強いしそれぞれがしっかりと状況判断ができるメンツだ。
今回手に入れた戦利品は換金して自分の取り分にしていいらしいし、たくさん稼いでおいしいものを食べるんだ!
待っていろ!高級ステーキ!!
「それじゃあ──ウィルのチーム!出発だ!」
「「「「はい!!!」」」」
ダンジョンの中に入ると──外の世界とは違った、何処か禍々しい雰囲気が漂っていた。
1階層は大して強いモンスターも居ないのでさっさと進みたいのだが、いかんせん──僕たちは初めてのダンジョンだ、慎重に進むべきだろう。
「ウィル様、本日はどこまで進む計画ですか?」
「今日は3階層まで進もうと思う。でも夕暮れまでにはダンジョンから脱出しなきゃいけないから、時間になったら途中でも引き返そう」
「えぇ〜アタシたちなら5階層まで行けるんじゃない?」
「シノそれはダメだよ。俺たちはあくまでもダンジョン初心者だ。勝手に指定された以外の階層は踏んじゃならない約束だろ」
「そうそうケインの言う通りだよ。アンジェラ先生の言うことだし、どうせ──シーカーで位置バレるから」
「へーい。つまんないの〜」
やれやれ。やる気があることはいい事なのだが、こうも張り切りすぎると大概は良くない方向に進むからね。
やはり──慎重さは大切だよ。
「皆さん止まってください。前方より敵多数──」
僕たちは咄嗟に敵が来る方向に身構える。
「さっき打ち合わせた通り──前衛は僕とケイン」
「あぁ、わかった」
「後方はアリスとシノ」
「かしこまりました」
「了解」
前方から──10匹ほどのゴブリンが押し寄せて来た。
ゴブリンは群れで行動する修正がある。
なので10匹がいきなり現れることがザラなのだが、大した強さではないので、駆け出しハンターでも楽に倒せる。
ちなみにゴブリンの戦利品は銅貨1枚、日本円で100円程度。
銀貨1枚で1000円、金貨1枚で10000円になり、その上の白金貨1枚で100万円になる。
白金貨だけ桁数バグってるだろ。
ケインは剣を、僕は刀を握って構える。
ゴブリンなんて僕ひとりで十分だが──大事な初陣だ、皆と力を合わせよう。
「ケイン、同時に切り込もう!」
「わかった!アリス、シノ、支援頼んだ!」
「言われなくても!」
「任せてください!」
僕とケインは同時に切り込む。
的確に急所を突くとバッタバタとゴブリンたちは倒れていく。
最後の一匹を倒すと、そのにはゴブリンの死体だけが転がっていた。
「思いのほか、あっけなかったね」
「そうだな。まあ、俺たちが強いってことだ」
「ねぇ!アタシたち要る!?魔法1発すら打ってないんだけど!」
「ウィル様ひどいです!私だって力になりたかったのに!」
女子たちの怒りがダンジョン内を木霊した。
シノに至っては大分ご立腹だ。
「あのね、確かに後方の支援が要らないくらい、ゴブリンってザコだけど、アタシたちにも何かさせなさいよ!!」
「そうですよ!私たちの魔法の練習に数匹残してくれたっていいじゃないですか!」
「あぁ〜、えっとぉ〜……ごめんなさい」
「すまない、こちらの配慮不足だった」
「ったく、これだから男子はいつまで経っても子供なんだよ。熱中したら気が済むまでやり込むんだから。そんなんじゃ、結婚できないぞ!」
「今結婚の話は関係ないじゃんか!」
「あ、でも、ウィルはもうアリスという許嫁がいるもんねぇ〜」
「そ、そうなのか!? ウィル!!」
おい、今その話するか?
許されるならこのニヤけ面をしているシノをぶん殴りたい。
アリスは両頬を押さえて照れてるし、ケインは驚きのあまりオロオロしてるし。
一応実技研修中ですよ?みなさん。
「その話は後でしよう。今は研修に集中して──」
「──教えろウィル・グレイシー!許嫁とは本当のことなのか!?」
なに興奮してんだよコイツ。
んで、アリスはいつまで照れてるんだ。
いいかいアリスくん?君が言い出したんだからね?
しかも言い逃げで僕は何も返事してないからね?
要するにアレだよ。通り魔的なアレです。
「私がウィル様の許嫁なんてそんな、照れるなぁ。でもウィル様は優しくて、かっこよくて……」
おいおい、本人目の前に居ますよ〜。
早く1人の世界から帰ってきてください?
でも──こうやって人に慕われるなんて悪い気がしないよね。
前の世界なんて人から求められたり慕われたりとかして来なかったから。
うん、嬉しさで歯がゆい。
数分経つと、アリスは赤面して我に帰ったのだが、恥ずかしさのあまりひと言も喋らなくなってしまった。
うん、少し反省してなさい。
「とりあえず──次からはちゃんと後方にも攻撃できるようにするから許してください」
「許してくださいの感情が籠ってない!まあいいわ。次はアタシたちも攻撃するから、ちゃんと避けなさいよ」
おい、巻き込み前提かよ。
シノさん、あなた怖いです。




