15. 新領主ウィル・グレイシー
半年という長い眠りから覚めた僕は、新しく開拓された街の領主になっていた。
表向きは、名誉公爵の地位に着いた僕が新しい領地を得て運営していく──というものだが、本当は次期国王として政治・経済を実践を通して学び体験するというものだ。
要するに大学生でいう教育実習生みたいなもの。
しかし、まだ国王から直々に任命してもらう任命式は執り行われていない為、今は領主代理として、アンジェラ先生が領地運営を行っている。
現在──開拓民500名、エルフ王国からの難民が200名、この領地を守るために各領地から派遣されてきた軍人50名がここに暮らしている。
地理上では、グレイシー領から少し離れた場所にあり、グレイシー領とゼノ大森林の丁度中間ってあたりだ。
でも──裏を返せば、魔族が侵攻してきた際の前線になるので、防衛力強化は直近の課題である。
この間城壁視察を行ったが、人ひとり城壁を登れるのがやっとで、丸太をぶつけられたら簡単に壊れる程度の設計しかされていなかった。
こんなんではどうぞ攻めて来てくださいって言ってるようなものだし、城壁が突破されたらひとたまりもない。
改築工事と武器の設置は今後やろう。
そして──数日経ったある日。
「ウィル様、失礼します」
僕が仕事をしている執務室にアンジェラ先生がやって来た。
「どうしたんですか? アンジェラ先生」
「ウィル様、この場では私はあなたの部下です。呼び捨てで構わないですし、敬語もやめてください」
最近よくこのことを言われる。
でも──染み付いたクセと風習って、直そうとしても直らないことってあるよね。
毎回苦笑いしてその場を流してるけど、今日はそうもいかない気がする……
「き、気をつけるよ。それで、何か用?」
「はい、明日──トゥルメリア魔法学院の卒業式と終業式がございます。学院の生徒であるウィル様にもご参加願いたく参りました」
そういえばもうそんな時期だったのを思い出す。
半年間も眠っていたから時間の感覚がイマイチなんだけど、半年間も学院に行ってなかったからまさかの留年ってことはないよね?
「学院に行く目的って、やっぱ半年も休んでたから追試がある感じかな……?」
恐る恐るアンジェラ先生に聞いてみるが、彼女は大きなため息をついて、返って呆れていた。
「ウィル様ほどの方が追試など有り得ませんよ。むしろその逆です。飛び級で卒業です」
「────ん? 飛び級で卒業??」
え? なんで?
意味わからないんだけど。
普通半年も学院を休んだら留年どころか退学だって有り得るよね?
それなのに、学院を休んでいた僕がまさかの卒業?
これはドッキリなのか? いや、ドッキリだ。
そうに違いない。
「ドッキリかなにか? あれだ! そういって浮かれさせて実は留年でしたって辱めを受けさせるパターンだ! その手には乗らないぞ」
アンジェラ先生はまた深いため息をついた。
あれ? 違うの?
「これから新領主となられるウィル様のお身体を思ってのことです。領地経営と学院の両立は、ウィル様のお身体に過度な負荷をかけさせる恐れがある為、アリス殿下がお決めになられたことです」
なるほど、そういうことか。
相談無しに勝手に決めるのは弟としてちょっとオコだぞ?
ひと言くらい言ってくれてもいいじゃん!
半年も学院休んでたのにいきなり卒業って、周りの視線が痛くなるやつじゃんか!
やだそんなの!
…………と、心の中で叫んでも仕方ないので平然を装うが、やっぱり気が引けるなぁ。
「どうしました? ウィル様」
「ううん、なんでもない。久々の学院が卒業式なんて、ちょっと周りのみんなには気まづいけどね」
「仕方ありませんよ。それと──私も今年度で教職を辞することになりました」
アンジェラ先生辞めちゃうんだ。
やはり──半年前のアンジェラ先生の雰囲気は全く違うものになっていた。
エルフ王国が滅亡したことが大きいのか、以前のように覇気がない。
彼女自身がもっている明るさには影を潜め、やり取りも業務的だ。
あれからちゃんと寝ているのだろうか。ちゃんとご飯を食べているのだろうか。
「やっぱり、エルフ王国のことで──」
「──私は、新領主となられるウィル様に仕え支えたいと思い……」
だが、アンジェラ先生の声は詰まってしまう。
彼女の心には常にエルフ王国のことがあり、自身の肉親も亡くしてしまった。
エルフ王国を奪還しようも戦力は無に等しいし、トゥルメリア王国もまだ非常事態宣言下の中なので、援軍は見込めない。
彼女にとって──1日も早く奪還したいのに、その目処がたたないこと、目の前でエルフ王国が滅亡したことに、心身の喪失と憔悴を引き起こしているのだろう。
僕は椅子から立ち上がり、アンジェラ先生を優しく抱きしめた。
「いつか──いつか必ず、エルフ王国を奪還しましょう」
「私はエルフの民を見殺しにして自分だけ生き残りました。散り散りになって逃げたエルフの民は、私を憎んでるでしょう」
「そんなことないよ。僕たちは本気で全力でエルフ王国を守ろうとしたんだ。エルフ族のみんなだって自分の国を必死に守ろうと戦った」
「それでも、私はまたエルフ王国の大地を踏んでもよろしいのでしょうか。私にその資格があるのか疑問です」
「大丈夫、アンジェラはエルフ王国王家の最後の生き残りです。希望なんです」
希望だからこそ、フリーゲル総帥とテネス王子は、アンジェラ先生に託したのだろう。
アンジェラ先生なら──エルフ王国を必ず再建できると信じて。
「メヒア様は私になんて大きい十字架を背負わせて来たのでしょう」
メヒア──
エルフ王国が信仰している神だっけ。
トゥルメリアでもメヒアを崇拝している教団はあるけど、どちらかと言うとトゥルメリアは寄付やお布施の為に活動をしている新興宗教に近く、エルフ王国はそれと真逆で心からメヒアを崇拝し敬意を払っていると言っている。
国が違えば、宗教の在り方も違うのは、この世界も一緒なんだね。
でもさ──崇拝されてるのがあの神って知ったら、アンジェラ先生愕然としないかな?
僕だったら一発殴らせてもらうね。
いけ好かないし、自分勝手だし。
「きっと──私にとってこれは、苦難を乗り越える試練だと思いますわ」
「うん、だから──1歩ずつ前に進もう。この先のことなんて誰も分からないけど、僕はアンジェラの力になるから」
アンジェラ先生は1歩僕から下がり、膝まづいた。
「私──アンジェラ・カリオペは、ウィル・トゥルメリア王子に一切の忠誠を誓います。この身は貴方様と共にあります」
「そう改めて言われると、なんだか恥ずかしいね」
「何をおっしゃいます、ウィル様はこの国の立派な後継者です。その御方をお守りすることは私の使命でもあります」
エルフ族王家のアンジェラ先生がどうしてここまでトゥルメリア王家に忠誠を誓うのかわからないけど、僕の心は改めて決まった。
アンジェラ先生とノエルさんの為にも、エルフ王国の国民の為にも、必ずエルフ王国を奪還すると。
いつかまた、彼女が心の底から笑えるような、そんな日々を取り戻す為に。
そして、悪魔たちを僕自身の手で──
第三部・トゥルメリアの後継者編 開幕
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第三部スタートです!
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