誰かの為に、強いては自分の為に②
シェナの唇が僕の唇に触れたとき、状況を瞬時に判断できなかった。
なんでシェナは僕にキスしてるんだろう。
そりゃあ、僕のこと慕ってくれたり愛してくれてたりするのはありがたいけど──
そして僕は理解した。
シェナは明らかな好意をもって僕にキスをしたのだと。
すると──ドア付近でバサッと物が落ちる音がした。
「シェ、シェ、シェナさんッ!?!?!?」
シェナから咄嗟に離れドア付近を一瞥すると、そこにはノエルが立っていた。
「見られちゃった? ノエル、覗きはダメだよ」
「寝具の交換に来たのに見るなという方が不自然ですッ!! シェナさん、ウィル様に何をしてるんですかッ」
「何って、シェナとウィル様は──」
「──あぁぁぁぁッ!! ノエルッ!! これは違うんだ、シェナがいきなりキスを──」
「人聞きの悪いこと言おうとしないでください。ウィル様だって、シェナの口の中に舌を──」
「──入れてませんッ!! 断じて入れてないッ!!」
シェナは妖艶な表情で指を口に充て、舌をなめずり回している。
さっきまで泣いてた人がそんなセクシーな顔をするんじゃありません。
シェナとは何も無いことをとにかく弁明しないと。
弁明するって言っても状況が状況だから、何一つ弁明のしようがない。
でも──舌入れてないぞッ!!
てか、なんで浮気現場を見られた夫みたいな立ち位置になってるの?
僕悪くないよね?
シェナさんが一方的にキスしただけだからね?
ノエルが大きなため息をついて室内に入ってきた。
「シェナさんのことだから、起きたウィル様に一方的にキスしたんですよね。いきなりすぎてわたしも気が動転しましたが、ウィル様に変なことをしないでくださいッ!!」
理解が早くて助かる……
僕はホッと胸を撫で下ろし安堵した。
だが、ノエルはムスッとした顔で僕に詰め寄ってくる。
「でも──これじゃ、釣り合いが取れないのでわたしもウィル様に……その……」
言ってる途中で照れないでくださいよ。
釣り合いがどうのって、僕なんの天秤にも計ってないんですけど。
「ウブな小娘ね。本当にアンジェラ様の娘かしら。アンジェラ様ならとっくにキスしてるわ」
「お母様と一緒にしないでくださいッ!!」
いや──キスすんなよ。
しかも一方的に。
僕の意思決定権はどこにあるのよ。
「それはそうと、先程は取り乱して大変申し訳ありませんでした。ウィル様、お加減はいかがですか?」
取り乱したってレベルじゃないけどね。
言わないけど、僕のファーストキスだったんだからね?
絶対に言わないけど!
「うん、たくさん寝たのかすこぶる元気だよ。魔力も回復してるし、完全回復かな」
夢の中で神と話してたなんて言えないからね。
僕が転生してきた話とどうして僕がこの世界を救わなくちゃいけないのかっていう、他人に聞かせても理解できない大事な話だ。
そういえば──僕が眠ってからどれくらい月日が経ったのだろう。
せいぜい1週間くらいだと思うけど、なんだかやけに寒かった。
「ねぇ、僕ってどれくらい寝てたの?」
「そ、それは──」
二人の顔が急に曇った。
まさか──そんな長い月日寝てたの??
ノエルが重そうに口を開く
「半年、おやすみになられていました……」
「──半年ッ!? ってことは、今って……」
「はい、もうすぐ春がやってきます」
この間まで残暑ってキツイなぁって思ってたのに、急に春の暖かさがやってくるの?
てことは、僕はあの空間で半年もの時間を費やして神と会話していたことになる。
それは同時に、僕の魂はあの空間で半年間修復されていたってことだ。
あんなにちょちょいと修復してた神なのに、費やした時間の代償はあまりにも大きすぎる。
トゥルメリア王国暦1000年という節目に、偉大なる御方は復活する。
だが、その時期はいつなのか分からない。
それでも既に3ヶ月を経過しようとしているということは、もう──時間が無いことを指し示している。
「僕が眠ったあと、どうなったの?」
「それは後ほど説明させて頂きます。ウィル様が起きたら私のもとに来てくれと、言伝を頂いてます。ウィル様、わたしに着いて来てくださいませんか?」
僕はそれを快諾すると、シェナに支えられながらアンジェラ先生が居る場所へと向かった。
にしても、ここはどこなんだろう。
廊下を歩いているが見慣れない場所でソワソワしてしまう。
ノエルに導かれるまま歩いてると、大きな謁見の間に到着した。
扉を開けると、そこには──アンジェラ先生、ノーマン、そして父さんが玉座の前に立っていた。
3人はこちらに振り返る。
「ようやくお目覚めになられましたね、ウィル様」
「長い療養お疲れ様です」
「ったく、いつまで寝てたんだか」
「すみません。まさか、僕も半年も寝ているとはおもってなくて」
僕は促されるままに玉座に座った。
でもなんで玉座に座らされているんだ?
ここは僕みたいな人間じゃなくて、もっと偉い人が座る場所でしょ?
すると、アンジェラ先生たちは僕の前に跪く。
「ウィル様、単刀直入に申し上げます。王家に復帰なされて下さい。これはジェフリー国王からの勅命でございます」
「──えッ!? いきなりどういうこと? 単刀直入すぎてなにも理解できないんですけど」
「王家に復帰するのは今すぐという話ではありません。表向きは暫く、ウィル・グレイシーとして生活して頂きます」
「この居城はウィル様が治める領地にある居城でして、実際に領地を治めながら政治・経済を学んでいただき、後に後継者として国民に発表する算段でございます」
だからここを見たことがなかったのか。
玉座も僕の為に用意された専用のものみたいだし、なにより僕はこれから領地を治めなくてはならないみたいだ。
なにより──僕の本当の父親、ジェフリー・トゥルメリア国王が勅命として、僕の王家復帰を命じたらしいのは驚きだ。
王家に復帰するのもしないのも自分で決めて良いみたいなことを言っていたのに、えらい心の変わりようだ。
何かやむを得ない事情があるのか?
でもそれで本当に良いのか?
育ての親であるダグラス・グレイシーには跡継ぎが居ない。
グレイシー家は国防を任されている重要なポストに付いているから、家が断絶するのは父さんも良しとしないはず。
「父上はよろしいのですか?」
「んあ? 俺か?」
「はい、今グレイシー家には跡継ぎが僕しか居ません。そんな僕が王家に復帰したら断絶するんじゃないんですか?」
父さんは頭をポリポリと掻きため息をついた。
「あのな、成人しているとはいえ、俺からみたらお前はまだケツの青いガキなんだよ」
ちょっとその言い方ムカつくかも。
うん、王家に復帰しよう。
「それとな、お前のお陰でヘレンの体調が良くなって、その……あれだな……」
父さんの頬が紅潮する。
あぁ、あれか。
なら僕の心配は無用だね。
「おめでとうございます、父上。立派な世継ぎになられることをお祈り申し上げます」
「ちょ、おまッ──俺はまだなんも言ってねえだろ!」
「あら、廃嫡する息子に祝辞を述べられるなんて、皮肉な話ね」
「バカやめろ!! そのなんだ、あれだ。家の事は心配しなくていい。だからウィル──いや、ウィル殿下。国のために王家に復帰なされて下さい。私は、ウィル殿下を育てたことは一生の誇りです」
やめてよ、泣けてくるじゃないか。
でも──いつかはこうなる運命だったのかもしれない。
僕は父さんから離れ、王家に復帰する。
一抹の寂しさは拭えないが、もうここが腹の決め所なのかもね。
「わかりました。僕も、グレイシー家で育ち学んだことは、一生の誇りです」
泣くのを堪えているのか、それ以上父さんの口から何かを発せられることはなかった。
しかしだ──
どうしてこのタイミングで王家へ復帰する勅命が下ったのだろう。
ジェフリー国王に良くないことでもあったのかな。
「でもどうして、このタイミングで王家に復帰することになったのですか?」
「実はここ最近、国王陛下の体調が優れていなくて、寝込んでしまったのです。医者からは暫くしたら治るだろうと言われましたが、それがもう数ヶ月続いてる状況でございます」
「要は、国王が自身の身を案じ、早急に後継者問題をなんとかする為、僕に勅命が下ったと」
「左様でございます」
王家にはアリスが居るが、女性のため後継者に指名してしまったら、代々男系で後継者を擁立していたトゥルメリア王家に混乱が走ってしまう。
それこそ、内部で派閥争いをしている打倒派が過激思想に駆られてクーデターを起こす要因になるかもしれない。
そうならない為にも、打倒派を押さえつける為、王家の血筋を引いている僕が白羽の矢が刺さった形になるのか。
「それともう一つ──」
アンジェラ先生の表情が更に曇った。
それに釣られて、周りの人たちの表情も、より一層曇ってしまう。
「エルフ王国が滅亡しました──」
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