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1.トゥルメリア王国

トゥルメリア王国暦984年


どうやら僕は、異世界に転生したようです。

その状況を理解したのは、僕が赤子だと認識したすぐ、メイドさんが魔法という非科学的な手段を用いて、僕のおしめを代えたからだ。

ウィルという名は僕が与えられた新しい名前である。

僕の名前はウィル・グレイシー。

グレイシー公爵家の嫡男で跡取り息子。

うん、割と名門貴族っぽい。

グレイシー公爵家が忠誠を誓うこの国、トゥルメリア王国は7家の公爵家が存在する。

王家直属で後見人を務める公爵家と、自治領を収める6家の公爵家。

ちなみにグレイシー公爵家は6家に位置する為、グレイシー自治領がある。

トゥルメリア王国の国面積は地球でいうロシア連邦くらいの大きさだ。

トゥルメリア王国の首都セリカから遠く離れた国境沿いに位置していて、そのせいかグレイシー公爵家は国境警備や行商の警護任務、そして1番大事な国防を任されている。

所謂、超武闘派ってことになる。

前世の時は平凡な社会人だったので、さすがに貴族ってことに面を食らった感じではあるが、今はそんなのも気にならない。

なぜなら、この世界には魔法があるからだ!

元いた世界には魔法なんて概念、ゲームやおとぎ話でしかなかったけど、ここには無限の可能性が広がってる。

そう、僕は退屈の連続だった人生から、退屈しない人生にクラスチェンジしたのだ。

そして8歳になった僕は、屋敷内をある程度自由に行動できるようになり、図書室に籠った。

読み漁るのは決まって魔法に関する文献。

ここの図書室は大量に本が収納されており、ざっと数えただけでも1万冊。

一生に読み切れるかどうかの量だ。

図書室に通い始めて、分かったことがいくつかある。

まずは、魔法というのは大気中に含まれる魔素というものがあり、それを体内で媒介させて発動していること。

魔法にはそれぞれ五大元素おおもとのがあり、火、水、土、風、雷がある。

それに加え神聖魔法といわれる光属性があり、この光は王族はもちろん、一部の限られた人間も取り扱える。

光があれば闇もある訳で、心が悪に染まりきった人間、そして魔族と呼ばれる種族が使う魔法もある。

まあ、こんなのは異世界に転生したらテンプレ中のテンプレ。

いちいち魔族とか闇魔法とかで驚いていたらやってられないよ。

でもさ、ひとつだけ言わせて?


「なんで僕、神聖魔法使えるの?」


なんでだろうね、おかしいよね、やってること辺境伯変わらない公爵家の跡取りが、王家やその一部の人間が扱える神聖魔法扱えるんだよ?

グレイシー公爵家だよ?

周り見渡したら己の筋肉自慢してる脳筋バカしか居ないのに、よりによってグレイシー公爵家の跡取りが神聖魔法ですか!

天は二物どころか余計なモン付けやがったな!

とりあえず、来る時(その時は来ない)までに神聖魔法が扱えることは隠しておこう。

あと大事なのは10歳になると魔力量の成長が止まるらしいのだ。

このロジックの解明は謎のままならしいのだが、5歳になった辺りからメイドさんに連れられて大浴場に大量の水で満杯にしてくださいと毎日言われてたっけ。

その訓練は今でも続いてるのだが、8歳で図書室に行くようになり文献を読み漁っていたらこのことにたどり着いたんだよな。

なんでこんなことしなきゃいけないんだって嫌々やってたけど、今後に左右される大事なことだから、そういうの前もって言ってくれればいいんだけどね。

あとは他の人とは違う僕だけの特殊能力的なやつも教えようかな。

まあ俗に言うユニークスキルってものがあって、一定の魔力を保持してると取得できるらしい。

僕の場合は生成スキルだ。

一見地味だと思うだろ?

なんだよウィル、お前家具職人?鍛治職人?になるのか?って言われると思うじゃん?

残念。この世界に無い物、それは、フルオート銃だ。

この世界は中世っぽい造りをしているので、もちろんマスケット銃はある。しかし、マスケット銃は1回1回コッキングをしなければならないし、次点発射までラグが生まれる。

その点、フルオート銃を生成してみろ?戦いの在り方なんて覆されるぞ。

あとは、乗り物が荷馬車くらいしかないのと、通信機器も無い。そりゃ、中世の世界みたいなもんだから無いのは当たり前だけど、これでも元平成生まれ令和社会人の僕からすると、不便極まりないのよね。

便利な世の中に生まれ、便利な物に染まりきった成れの果て、カルマだよ。

しかし残念なことに、通信機器は諦めなければならない。

なぜなら、この世界には魔法がある。即ち思念伝達ということができるのだ。

一定の範囲なら特定の人物に対して思念伝達を行えるのだが、これも一定の魔力量を保持してる人間にしか扱えない。

なら、国民の為に作ればいいのではないか?そう思う人もいるかもしれないが、何かを流行らせるにはインフルエンサー的な人が必要になる。

しかし、一定の魔力量を保持していれば、わざわざそんな機具に頼らなくても意思疎通など容易だし、宣伝効果も期待できない。

宣伝する人が居なければニーズも発生しないってことなのだ。

広告代理店さん、インフルエンサーさん、いつもありがとう。

とりあえず、僕が今保持している魔力量で作れるのはグロック程度だ。

グロックを作れるだけでも大手柄なのだが、最終的にはスナイパーライフルやアサルトライフルも作ってみたいよね。

エクスペンダブルズみたいな世界線生まれたらオモロいやん?

あ、ちなみに日本刀は簡単に作れたよ。


さて、色々と文献を読み漁ったり、魔力量の増加訓練を日々行い、7年の月日が流れた。

15歳になった僕は、成人となり晴れて大人の仲間入りだ。

15歳になった日、僕は父さんの執務室に呼ばれた。

ダグラス・グレイシー。

グレイシー公爵家の当主でグレイシー自治領の領主、そしてトゥルメリア王国軍の総帥でもある。

国王軍の全指揮を任されてる人物であるから、父さんが指揮を振るえば、国中の軍人達が戦いに赴くことになる。

まあ、ひと言で纏めると凄い人ってことだ。

僕は書斎の扉を2回コンコンとノックした。


「入れ」


「失礼します」


父さんの声が聞こえたので僕は執務室に入ると、椅子に座り書類を整理して、絶賛仕事中の父さんが居た。


「父上、お呼びでしょうか」


「あぁ、ウィル。成人おめでとう」


「はい、ありがとうございます」


「ウィル、今年から学校に通いなさい」


この王国は、一部の富裕層と貴族の子息は15歳の成人になると、トゥルメリア王国が運営するトゥルメリア魔法学院に入学することが決まっている。

もちろん入試は存在するのだが、貴族諸侯は形だけの試験になる。

しかし、この魔法学院は入試の成績が反映され、グレードに応じたAからEのクラス分けがなされる。

成績次第によっては貴族であろうと下のグレードに編成されることもあるので入学が確約されても、気は一切抜けない。

テキトーにやって下のグレードに編成されたら、父さん怒るだろうな。


「ウィル、お前のレベルなら学ぶことはないかもしれないがな」


僕は父さんにだけ神聖魔法が使えることを教えた。

父さん曰く、神聖魔法の使い手は何も王家とその一部の人間だけに限られることでは無いらしい。

神聖魔法を扱える為には、あらゆる魔法に精通し、全ての魔法において極めしものが最後の終着点で神聖魔法が使えるんだとか。

ちょっと何言ってるか分からないけど、要するに僕は魔法においてエキスパートな人間って事らしい。


「父上、そんなことは無いですよ。学び舎において勉学だけが全てでは無いです。人との繋がり、協調調和、コミュニケーションを学ぶ場でもあるのです。むしろ僕は、学院に通えることをワクワクしますよ」


「お前の言う通りだ、ウィル。たくさん友達を作って来い。本来ならばその歳ならば友達と遊んでるのが1番楽しいからな」


僕は父さん国防の席を担ってる為、たまにしか社交場に赴かなかった。

そのため、今までこのグレイシー自治領からほとんど外に出たことは無いし、友達も居ない。

でも、友達が居なかったのは前世でもそうだったし慣れたことではあるけど、父さんはその事で少し負い目に感じてるのかもね。

ふーん、良いお父さんじゃん。

無愛想だけど。


「父上、少しの間グレイシー公爵家を離れますが、グレイシー公爵家の変わらずのご健勝、心よりお祈り申し上げます」


「あぁ、行ってらっしゃい」


「失礼します」


そうしてあっという間にグレイシー公爵家から離れ首都に向かう日がやってきた。

荷馬車に荷物を積み終え、父さんに最後の挨拶を済ませた僕は、この地を発った。

ちなみに母さんは身体が弱いため、お屋敷にて挨拶を済ませた。


トゥルメリア王国暦999年。

僕は魔法学院に入学するべく、首都セリカを目指した。



-------------



荷馬車を走らせて2ヶ月、ようやく首都セリカに到着した。

何度か来た場所なので転移魔法を使えば一発なのだが、転移魔法は禁術らしいのでおいそれと使えない。

あと、この国の風景も堪能したかったってのもあるね。

荷馬車に積んだ荷物を降ろし2ヶ月共にした付き人の人と別れると、格納魔法で荷物を収納する。

ちなみに格納魔法は誰でも使える魔法だが、一般的には化粧ポーチほどの容量でしか収納できないらしく、父さんは僕に、


「お前は規格外だ」


と言われる始末だ。

そんな事を言われても張り合う同世代の友達が居なかったので分からないが。

普通じゃないってのは自分が1番理解している。つもりだ。

城門前にある検問を難なく突破した僕に一層賑やかな街の風景が目に映った。


「ここが首都セリカの街並みかぁ」


屋台や露店商で賑わい、かなりの人の往来。

お祭りをしているのかと勘違いしてしまうほどだ。

さすがこの国の経済の中心、首都セリカだ。

その賑わいを横目に街を歩く僕は、目的地トゥルメリア魔法学院に着いた。

今日ここで、魔法学院の入試が始まる。

受付を済ませて指定の教室に向かった僕は教室に入ると1番後ろの席に座った。

周りを見渡すと、友達同士なのか談笑しているグループがいくつも散見できる。

友達が居ない僕には話かける人なんて居ないけど、なんだか懐かしい。

前世でもこういう光景は学校然り、会社然り当たり前だった。

退屈だった前世から魔法のあるこの世界に転生して、たとえ友達が居なくても、僕の心は躍った。

すると、僕の席の前に3人ほど同じ歳くらいの男の子が腕を組んで立っている。

なにやら僕を睨んでいた。


「おい、お前」


「はい、なんでしょう」


「お前、グレイシー公爵家のウィルだな?」


いかにもいじめっ子みたいな目つきで、プライドが高そうな面持ち。

そんで体たらくを表したかのようなデブ。

僕より身長が少し大きいが、横に居る取り巻きは虎の威を借る狐みたいで威圧感は無い。

どうやら友達になろうって感じの雰囲気ではないな。


「はい、グレイシー公爵家の長男、ウィル・グレイシーです。よろしくお願いします」


「なにがよろしくお願いしますだよ!辺境伯もどきの公爵家が」


「そうだそうだ。グレイシーは国境沿いでも守ってろよ」


「その分、僕たちがしっかりと学び舎で学習し未来のトゥルメリアを支えるからさ!」


「公爵もどきの辺境伯はさっさと自治領に帰るんだな」


凄い言われようだ。

辺境伯もどきだの公爵もどきだのどっちだよ。

親が凄いだけで自分はなにもできないくせに、凄く偉そうなのはどこの世界に居ても同じなんだな。

でも、今日は大事な入試。

波風を立てては今後に関わってしまう。

僕はひと呼吸置いて喋り始めた。


「申し訳ございません。まだ政治に関しては無知なもので。我が父、ダグラス・グレイシーがご迷惑をおかけしたのなら、父に代わり謝罪させて頂きます」


軽く頭を下げ視線を再び彼に戻すと、二チャリと気味の悪い笑みを浮かべていた。

あー、これパシリルート入りますね。


「うへへ、分かりゃいいんだよ。たっくよ、底辺公爵のグレイシーも分かるやつがいるじゃねえか」


「スレブ様、レニツァ家もこれで悩みの種が無くなりましたね」


「あたりめえだ。国防だのなんだのって予算の増額させて、父上の頭を悩ませてるグレイシーを僕の代で完全に掌握できるからねぇ。お金には限りがあるってわかって貰わないと」


口ぶりから察するに、このスレブ・レニツァという人物は6家の中でも国の財務を担当する公爵家の跡取りだな。

取り巻きはそこの家の付き人みたいなもんだろう。


「おい、ウィル」


「はい、なんでしょう」


「お前、今日から俺の言うことは絶対だ。分かったな?どうせ大した事ない底辺公爵家なんだから、無能は俺の世話でもしておけばいいんだ。ちなみにお前に拒否権はねえからな」


「………………」


ニコニコしながら黙った僕。

辺りは少しの静けさを保った。

それと同時に怒りの感情が湧いてきた。

僕が次に何を発するのか、周りは気になって固唾を飲んで見守ってる。

うん、この状況だるいね。


「はい、お断りします」


「は? てめえもういっぺん言ってみろ」


「いやだから、お断りします」


スレブは僕の胸ぐらを掴む。

彼のこめかみはピキピキしているし、鼻息も荒い。

自分の思い通りに行かないことがあると、すぐ感情に出ちゃうタイプなんでしょうね。

あらヤダ。アタシ怖いわ。


「てめえに拒否権はねえって言ってんだろ!グレイシーの分際で生意気なんだよ。俺の言うこと聞いてりゃ痛い目見ないのによ!」


「少し建設的にお話ししましょう。質問しますが、あなたに隷属して何のメリットがあるのでしょうか。さっきからグレイシー家に対する侮辱も、あなたに明確な理由があって侮辱を行ってるのか、もしくは、ただ父親の愚痴を聞いて先入観で悪と決めつけているだけでは無いのでしょうか。」


「う、うるせえ!お前は言うことを聞いてりゃいいんだよ!」


「質問の答えになってません。的確な返答をお願いします」


スレブが掴む手がより一層強くなった。

彼が意外と短絡的なのは分かったが、反論されるという想定はなかったのだろう。

スレブは口ごもんで、ただ怒りを僕にぶつけようとしていた。

おいおい、こんな奴が将来財務管理できんのかよ。

この国の行く末は非常に険しいかもー


「反論がないのであれば、その腕を離し謝罪してください。」


「謝罪?なぜ僕が謝らなきゃいけないのさ。生意気な態度を取って謝罪するのはお前のほうだろ」


ねえ、この状況めんどくさいー

もうボコボコにされて終わりたいんですけど、いつになったら殴ってくれるの?

殴ってくれたら喜んで謝るのに。

そのくせ煽りまくってる僕も大概だよね。

お願い、早く終わらせて。

すると、思わぬ助け舟がやってきた。


「はい、お前たち席につけー、これから学力試験をするぞー」


この魔法学院の先生が教室に入ってきたのだ。

しかしながら先生は大人だ。

教室の雰囲気が異様なのをすぐに察知する。

入試生徒たちの視線の先を辿っていき、胸ぐらを掴まれている僕と目が合った。


「おい!そこ!!なにしてる!!!」


スレブは咄嗟に手を離し、両手を挙げた。


「ちょっとしたじゃれ合いですよ!そんな、喧嘩してた訳ではないので安心してください」


「胸ぐらを掴まれたキミ、どうなんだ」


「特に問題はございません。ただのじゃれ合いです」


「そうか、でも誤解されるような行動は慎むように」


「はーい、すみませーん」


そういうとスレブとその取り巻きは自分の席に戻って行った。

なんとか事なきを得たが、スレブも貴族だから同じ学院に通う生徒になるんだもんな。

どうか同じクラスにはなりませんように!!

スレブが飛んだバカでありますように!


そんなこんなでいきなりアクシデントがあった入試前の待ち時間だが、何事も無かったかのように筆記テストが始まった。

どれを見ても問題は中学生レベルといったところだろうか。

問題数が多いが難問ばかりではない。

むしろ優しい問題羅列しているだけであって多少の学でも解ける問題だ。

この世界は世界の共通言語、アーク語を使っている。

この国、トゥルメリア王国はもちろん、隣国のメイス帝国でもアーク語を使用している。

僕は赤子で転生したから長い間アーク語に触れてるし問題ないけど、もし大人のまま転生していたら習得出来たか不安ではある。

そのアーク語を用いた国語のテストと簡単な数式の問題、そしてトゥルメリア王国の歴史の問題。簡単な魔術式の問題だ。

そして最後の問題が1番僕の興味を惹いた。


「魔法とはなにか」


シンプルかつ超難問のこの問題。

たった齢15の人間が解くには重すぎる問題だ。

でもそこに興味を惹いた。

元いた世界では有り得なかった魔法という概念。

ファンタジーやおとぎ話の類の想像の産物であった魔法というものが、転生して当たり前のように社会に溢れている。

かく言う僕も、魔法なんて元いた世界では魔法の魔の字も想像していなかった。

それだけ魔法というのは非現実的だったのだ。

配られた答案用紙にはまっさらな紙が1枚ある。

そこに魔法とはなにか、その問いの答えを書くのであろう。

僕は今思っている魔法に対する感情を時間の限り書き綴った。



----------------



キーンコーンカーンコーン……


筆記テストの終了を知らせるチャイムがなった。

先生の止め!という合図でみんな手に持っているペンを置く。

生徒が記入した答案用紙は先生の浮遊魔法によって回収された。

浮遊魔法はごく一般的な風魔法で、風魔法の適正がある人は誰でも扱える簡単な魔法だ。


「では、これから演習場に向かってもらう。そこで魔法適正の試験を行うから、皆がんばるように。では着いてこい」


僕は言われるがまま、演習場に向かうべく先生の後をついて行った。



「それでは、魔法適正の試験を行う。20メートル先には的がある。あの的に対して各々の魔法をぶつけて欲しい。早速、1番から5番の生徒は前に出ろ」


僕は11番次の次だ。

番号が呼ばれた男子生徒と女子生徒たちが前に出ると、1番の男子生徒は、なにやらモゴモゴと喋り始めた。


「親愛なる神よ、我が言の葉の呼び掛けに大地の御加護を。アースランス!!」


アースランス。

土魔法のごく一般的な魔法で、土魔法適性がある人なら誰でも使える魔法だ。

円錐状に形状されたアースランスは真っ直ぐ飛び柔らかいものなら簡単に貫く攻撃なのだが……。

ちょっと待て。

ヒラヒラと浮遊して勢いなんて微塵も感じられないくらいゆっくり進んでるではないか!!

5秒経ってゆっくりと的に当たる。


「お!やった!当たった!」


「すげぇ!お前やるなぁ!」


「私もやってみる!」


うそぉん……。

え?そんなレベルなの?

なんかこうもっと、ヒュー!ドスン!!とかそういうのあるじゃん?勢い良く当たって的を貫く的なあれあるじゃん?

なに?ヒラヒラ〜トスン。って!

もしかして、近い歳の子たちの魔法レベルってそんなもんなの?


「お前は規格外だからな(笑)」


父さんの言葉をまた思い出す。

なんか思い出の中で父さんが嘲笑してるの付け足されてない?

父さんは悪くないけど、気分が害された感あるよ。

そんなこんなで嫌な考え事をしていると、5番までの生徒の試験が終わる。


「では、6番から10番の生徒は前に」


「ようやく、僕の番が来たようだ。愚かな庶民ども、レニツァ公爵家の長男、スレブ・レニツァの力を見るがいい」


あれは、さっき筆記試験の前に突っかかってきたスレブではないか。

6家の中でも財務を担当するレニツァ公爵家の跡取り。

公爵家だから中々の力は持ってるだろう。

僕はスレブに注目した。


「刮目せよ。水星の巫女よ、我の言の葉の力に呼応し水の加護を与えよ。リヴァイアサン!!」


リヴァイアサン。

水魔法の中では上位クラスの魔法だ。

さすがは公爵家の長男。

これくらいはやって当然か。

上位魔法になると手のひらから魔法陣が出現し力が放たれる。

スレブの手のひらからも青の魔法陣が出現し、力が放たれた。


「おぉ!さすがレニツァ公爵家のスレブ様!上位魔法を扱えるなんて!」


「苦しゅうない!愚かな庶民どもよ。僕にかかればこんな魔法造作でも無い!」


でも、待てよ。

上位魔法って結構かなりの勢いで放たれるものなのだが、スレブの場合、ホースの口を潰して勢い良くでた水の威力しかないじゃないか!!

おいおいおい、こんなんでドヤ顔してるの?

ちょっと汗かいてて息も荒いから気持ち悪い。


「おい、ウィル・グレイシー、貴様はこの高みに来れるかな?」


な、名指し止めてもらえない?

僕にとってスレブは身の丈に合わない上位魔法を無理して出したにしか見えないんだけど……

まあいいや。もうそろそろ僕の番だな。


「11番から15番は前へ」


そう先生に呼ばれると僕は前に出た。

僕も公爵家の人間だから、他のみんなは僕に注目している。

それもそうだ。

その前のスレブが上位魔法を展開したんだ。

自ずと僕にも注目の視線は集まる。

僕はひと呼吸整えると、指先だけを的に指し魔法を放った。

超高速に放たれた炎は的に命中し、後ろの壁をも貫通した。

まあ、これくらいだろう。

割と抑えめで魔法を放ったんだ。

高みというのはこれくらいを指さなきゃ。


「うぃ、ウィル・グレイシー。今のは……」


驚愕した面持ちで先生が僕に尋ねてきた。

あれ?僕なんかやっちゃいました?

あぁ、技名言ってなかったっけ。


「あれはラピッドファイヤです。先程スレブくんが上位魔法を展開したので、僕も負けられないと思い上位魔法を使わせて頂きました」


ラピッドファイヤ

火属性の上位魔法。

高速で貫く魔法なので、爆散はしないがラピッドファイヤで重なった敵を殲滅するのは容易な魔法だ。


「ラピッドファイヤは見れば分かる!!!い、い、いや!!!そうじゃない!!!君!詠唱は!?したのか?してないのか??」


「無詠唱ですよ?」


「「「「えーーーーーっ!!!!」」」」


「む、む、む、無詠唱!?!?!?その歳で!?!?」


何がおかしいのだろう。

僕にとっては普通の事だ。

むしろ父さんも言っていた。


「公爵家である人間は無詠唱で魔法を放てるのは一般的だ。ウィル、お前は当たり前の事をしてるんだよ(大爆笑)」


ん?なんかおかしくない?僕の記憶。

なんで父さん大爆笑してるの?


「ウィル・グレイシー。無詠唱で魔法を展開できるのは公爵家では当たり前だ。しかし、無詠唱でできるのは魔術を極めていて、それぞれの属性魔法の加護を与えられてる人間しかできない。しかも、上位魔法ラピッドファイヤを無詠唱かつ魔法陣無しで放てるのは君しか見たことないぞ!」


「え!?ホントですか??」


「嘘ついても仕方ないだろ!!」


「じゃあ違う属性の魔法を使いますね」


「ち、ち、違う属性!?!?!?」


なにこの人?

さっきから凄く驚いてるけど、他の属性魔法を使えるのも貴族だったら当たり前でしょ?


「まあ見ててくださいよ。そうだ!さっきスレブくんがやったリヴァイアサン、僕もできるので見ててください。次はちゃんと技名は言いますから」


僕はまた的に身体を向け、手のひらをかざした。


「リヴァイアサン」


僕の手のひらから纏まりのある水が勢い良く放たれた。

放たれた水は龍の顔を形成し的へと一直線にむかっていく。

やがて目的の対象物に当たると、ドゴーン!と音を立て爆散した。

これも全力でやったら被害が出るから、抑え目にやった方だ。


「どうですか?先生」


「ウィル・グレイシー……いや、ウィル様……あなたは規格外だ……規格外だぁぁぁぁぁ!!!!!」


先生はその場でヘタれ込んでしまった。

僕は他の生徒に目を配るが、生徒も呆気を取られている。

もちろんスレブも口をポカンと開けて身動き1つしていなかった。


「やりすぎちゃったか」


「も、もういい……。君は戻りなさい……。これでまだ15歳だなんて、グレイシー家はとんだ規格外を隠してたものだ……」


頭を抱えている先生を横に僕は元居た場所に戻る。

確かに少しやり過ぎてしまったようだ。

周りの受験生の顔は畏怖を浮かべている。

無理も無い。

己の力の差を目の当たりにしたんだ。

15歳が平然とやってのける力ではない。

しかし、こんなことになるなら父さんも少しくらい忠告してくれてもいいのに。

あの人、絶対にこうなる事が予想できてて僕を魔法学院に入らせようとしたんだな。

少し父さんの評価が落ちました。


そんなこんなで実技試験は終了し、全ての試験を終えた僕は学校を後にしようとした。


「あ、あの!」


「は、はい!」


後ろからいきなり声を掛けられる。

僕は振り向くと、そこには身長は156センチ程度、タレ目でぷっくらとした唇。ピンク髪でハーフツインの可愛らしい女の子が立っていた。

うん、この子絶対モテる。アイドルやったほうがいいよ。


「ウィル・グレイシー様ですよね? 先程の魔法は素晴らしいかったです!」


てことは、同じグループで試験を受けてたのか。

筆記試験ではスレブに絡まれてたし、実技試験ではどの魔法を繰り出そうか考えてたから、あまり周りなんて見てなかった。


「そうですけど、僕もまだまだですよ」


「そんなことないです!ウィル様はこの魔法学院に通われる予定なのですか?」


「まあ試験を受けたからそうなるね。ところで何の用?」


「あ、あの……」


「アーリス!!」


「わっ!シノちゃん!!」


話しかけてきた女の子の後ろから勢いよく肩を組むように、もう1人の女の子がやってきた。

シノと呼ばれるこの子、綺麗なクリーム色の髪の毛にセミロングの長さ。キリッとした眉につり目。

身長は女の子と同じくらいかちょっとそれよりも上だ。


「アリスぅ、どうしたの?あんたが男の子に話しかけてるなんて珍しいじゃん!」


「そそそ、そんなことないよ……」


シノとアリスという女の子は仲がいいのだろう。

一見正反対の性格に見える2人だが、やり取りや表情を見るだけで親密さを伺える。


「ところでアリス、この人は誰?」


「僕はウィル・グレイシーと申します。ウィルと呼んでください」


「グレイシーって、あのグレイシー公爵家の人? うわ、やばっ!マジモンの公爵家の方じゃん! アタシはシノ・エクシア。一応エクシア侯爵家の長女ね!」


エクシア候爵家。

確かエクシア家は商業面において力を持ってる家だよな。

主に流通や貿易を担当していると聞いてる。


「アリス、あんたも自己紹介したの?」


「あ、私はアリス・フローレスです。一応フローレス公爵家の長女です……」


「アタシとアリスはね、身分は違うけど幼なじみなんだ!だからってあんたにも礼儀正しくするのはないからね!」


だから砕けた会話をしてるのか。納得。

しかしこのアリスって子、公爵家の子だったのか。

オドオドはしているが、佇まいはさすが公爵家、しっかりしている。

そして、フローレス公爵家。

先のエクシア侯爵家の直属の上司的な感じで捉えてくれればわかりやすいだろう。

6家の中でも商業を担当していて、このトゥルメリア王国の経済を一手に担っている家だ。

しかし、今日のうちにこんなにも公爵家の人間に会うなんて、世間は狭いものだ。

軍事担当のグレイシー家。

財務担当のレニツァ家。

商業担当のフローレス家。

スレブはどちらかというと、公爵家の人間としてはだいぶ嫌われテンプレの存在だけど、アリスみたいな穏やかな公爵家の人が居てちょっと安心してる。


「改めて、僕はウィル・グレイシーと申します。一応グレイシー公爵家の跡取りです。よろしくお願いします」


「え!?グレイシー家の跡取りなの?? アリス!ウィルと結婚したら将来安泰だよ!」


「シノちゃん!言葉には気をつけて!」


「えー!だって、グレイシー家って内政干渉とかしないし、首都から遠いじゃん? 誰の目も気にせず夫人としてのんびり暮らせるんだよ??」


確かに父さんは内政干渉を嫌うし、俺たちは国を守ってりゃそれでいいって言ってるけど、国防とか大変よ?

隣国だって攻めてくる可能性があるし、魔物の脅威だってある。

何より毎日生きるか死ぬかの瀬戸際だから、のんびりスローライフってわけにもいかない。


「まあまだ跡取りってことだけで仕事に携わったことは無いけど、アリスさん何か話しがあって僕に話し掛けたんだよね」


はっ!とするアリス。

しかし、彼女の表情はどんどんと曇っていく。

口をモゴモゴして言い出せない彼女だが、ひと呼吸おいて意を決した表情になり言葉を放った。


「あの!私を、ウィル様の許嫁にしてくだはひ!」


「あ、噛んだ」


「ひゃうっ!!」


この時僕は思いもしなかっただろう。

退屈だった元の世界から異世界に転生して来て、こんなにも激動の日々を送るなんて。

しかも、アリスと出会ったことで平穏とはかけ離れた、戦いの日々が訪れるということを。

この時の僕はまだ何も知らなかった。

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