69 とある日曜日(2)
音楽留学のために、アメリカに渡航するという愛優ちゃんの姉の優希さん。
兄貴と優希さんは周りから見ていても相思相愛だ。
そんな遠くに優希さんを見送ることになるなんて。兄貴は自分の気持ちに蓋をして、優希さんの夢を応援しているのだろう。辛い決断だったに違いないが、笑いながらサラッと言うなんて。
オレは優希さんの気持ちを聞きたくなった。それで本当にいいのか。兄貴と離ればなれになっても平気なのか。
でも、直接本人に聞くなんてことは到底できない。
だから愛優ちゃんにそれとなく聞いてみようかな、と思って誘ったカフェ。
彼女のお気に入りのお店で話も弾む。
自分のことだったら、きっと愛優ちゃんを誘うなんてできなかっただろう。
だってさ。
オレはシャイで奥手で硬派だし。
だけど。兄貴のことだと思うと不思議なくらい行動力がアップしたんだ。
自分でも信じられないくらいに。
そしていよいよ本題に……。
「おや。また人生の縮図ごっこですか?」
オレがいよいよ覚悟を決めて愛優ちゃんに話そうとした矢先に、後から声が発せられた。
突然のことにかなり驚いて振り返ると……そこには眼鏡の端を左手でクイッと上げるヤツの姿があった。
「おう、倉井。背後から急にびっくりするじゃないか」
「それは失礼しました。で、どうされました?」
「どう、ってどういうことだ?」
「いえ、なにか悩みごとでもあるように見えましたので」
す、鋭い。至って普通に振る舞っていたのに。ひとの心が読めるのか? なんだコイツは。超能力者か?
「てか、お前いつからそこで話を聞いてたんだ?」
「『やっぱアイスココアは最強だよね~』『愛優ちゃんにはアイスココアが似合うよね~』のあたりでしょうか」
そんな恥ずかしい会話から聞いていたのか。
「いやいや、真似しなくていいから」
つか、案外ものまね上手いんだな。ってそんなことじゃなくて。
「それは失礼しました。でも、その方が状況が伝わりやすいかと思いまして」
「まあね。よく伝わったよ、倉井が案外お茶目だってことが」
「それはどうも。それで?」
オレは仕方なく今までの経緯を話した。
倉井とはあの『人生の縮図話』以来、割と仲良くなっていろんな話をする間柄にはなっていたので、比較的話しやすかった。
というか、愛優ちゃんに聞きたいことではあったのに、どう切り出していいものか躊躇していたから、倉井の登場はある意味オレには都合がよかった。
一通り話し終えてひと息つく。
それまで口をはさまずに熱心に話を聞いていた愛優ちゃんと倉井だったが、最後まで聞き終えてどう思ったのだろうか。
先に口を開いたのは倉井だった。
「それは『言わずもがな』ですね」
なんだって? 言うまでもないってことか? なにが解るっていうんだ?
てか、なに言ってんだ倉井。
恋愛には奥手な空。
倉井の発言の意図するところを汲み取れるのか。
お読み下さりありがとうございました。
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