70 とある日曜日(3)
「『言わずもがな』だって?」
言うまでもないってことか? なにも言わずになにが解るっていうんだ?
倉井の言葉に思わず聞き返した。
「そうですよ。言うまでもありません」
オレはなにを『言うまでもない』のか、言ってもらわないとさっぱり解らない。
だって、ほら。
オレ、シャイだから。
それに奥手なんだ。
硬派なんだ。
なんて。
恋愛には関心はあるが、女子の恋心には計り知れないものがある。
オレの経験では未知の世界が大半を占める。
「というと?」
「気づきませんか?」
いやいや、質問してるのはこっちなんですが。質問に質問で返してくるのはやめてもらえませんか?
「愛優ちゃんは解る?」
ニコニコしながらオレと倉井のやり取りを見ている愛優ちゃんに話を振ってみた。
「まあね」
え、ええー。
じゃ、解らないのはオレだけなのか!?
てか。
「倉井は恋愛の話はあまりしないのかと思ってたよ。勉強一筋かと思ってたけど、案外恋愛関係にも詳しいんだな」
素直に感心して、素朴な感想をぶつけてみた。
すると倉井は眼鏡の端を左手でクイッと上げながら「まあ、人並みには」と言う。
人並みって。人並みってどれぐらいのことを言うんだ?
それすらも解らないぞ。
まったく。野球ばっかでその辺には頓着していなかったからな。
「まあ……」と発し、一呼吸おいて愛優ちゃんは話しだした。
「女同士だし、姉妹ってこともあるから、私には姉の気持ちは解るわよ。空くんだって男同士で兄弟でもある海さんの気持ちは解るでしょ?」
「ああ。兄貴の気持ちはなんとなくではあるが解る。だけどオレは納得はしたくない気持ちもある」
「そうね。女子の立場から言うと、夢を追いかけたい気持ちはすごくあるし、実現したい。でも、好きなひとには引き留めてもらいたい気持ちもあるのよ」
「え」
そうなの?
「相手には言えないけどね」
夢を叶えるために頑張りたいのに、引き留めてもらいたいだなんて。
「矛盾してるな」
オレにはよく解らない。
「それが乙女心というものです」
倉井は眼鏡の端を左手でクイッと上げる。
「それで引き留められたら、夢を諦めるのか?」
「まさか。でも、そういうひともいるでしょう。まあ、その場合は自分の夢よりも相手と過ごす時間の方がそのひとには大切だったということでしょうけど。引き留めて欲しいけど夢も追い続けるひとは、どちらとも決めかねている場合かと」
「乙女のこころの中って複雑なんだな」
だからか。こっちの想いと全然違うところで喜んだり怒ったりするのは。
「私は急いでどちらかに決めてしまう必要はないとは思いますが」
ホント、その通り。
「オレもそう思うよ」
だけど、相手の本心がどうなのかを知ることができると、選択肢が広がる気がするな。
兄貴はきっと優希さんの胸の内には気づいていないと思う。
オレはあることを決意した。
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