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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第5章 気力
60/148

 60 夏の甲子園(2)

 オレ達の学校の全国高校野球選手権大会、つまり夏の甲子園での1回戦である大会第2日目の第2試合がいよいよ始まった。


 我がチームは後攻なので、試合開始の合図とともに各々守備につく。


 オレは監督から先発を言い渡されて、今、この高校球児の聖地である甲子園球場のマウンドに立っている。


 緊張とわくわくを身体全体で受け止めて、ここ甲子園での試合を思いっきり楽しもう。


 相手チームの一番打者がバッターボックスに立ち、2、3度素振りをする。

 オレはふうと大きく深呼吸をした。


 試合開始のサイレンが球場に鳴り響き、その音とともに大きく振りかぶって投げる。

 投げ終わってもまだ続くサイレンの音に、少し緊張しながら判定を待つ。


「ストライーク」


 主審の大きな声が響く。


 立ち上がりが大事なので、第1球目の判定に小さなガッツポーズとともにホッと胸をなで下ろす。

 初めは相手も様子をみているのだろうが、取りあえずストライクから始められてよかった。

 気分的にも少しリラックスすることができる。


 だが肝心なのはこれからだ。

 強打者揃いの相手チームの打線をどう食い止めるか。

 仮にヒットを打たれても、後続の打者を抑えればいい。

 ただ、フォアボールを出さないように、デッドボールを与えないように。

 最低限それだけは意識して、コントロールを重視したピッチングを心がけよう。


 キャッチャーのサインに頷いたり首を横に振って拒否したり。

 オレたちの駆け引きが吉と出るかどうかだ。よく考えねば。


 落ち着け。そう。リラックスして甲子園球場ここで投げられることを、今を楽しもう。

 自分に言い聞かせて投球を続ける。



* * *

 

 その後試合は投手戦になり、スコアボードには『0』の数字が並ぶ。


 9回の表。

 ツーアウト。

 あとひとりでこの回での相手チームの勝利はなくなる。

 高鳴る鼓動を抑えつつ、オレは振りかぶって第1球目を投げた。その刹那。


 オレの左足に激痛が走る。


 「……っ」


 ピッチャー返しだ。

 鋭い打球が俺の足をめがけて加速してきた。

 他の場所に飛んできたなら、なんとか身を動かして素早く回避することができたかもしれないが、軸足にまともに飛んできたため、まだ体勢も立て直せぬまま直撃したのだ。


 オレの足に当たることでスピードを奪われた球は、近くに転がっていく。

 痛みを堪えながらなんとかボールを掴み、1塁に投げる。


 きわどいタイミングだったが、塁審の「アウト」の判定に安堵した時に、自分の足が言うことをきかないほどの痛みに腫れ上がっていることに気づく。


 オレはその場に倒れ込んだ。



お読み下さりありがとうございました。


次話「61 夏の甲子園(3)」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。甲子園での試合を控えた時に、空と海との兄弟でのキャッチボールの場面が、とても心に残りました。 そして迎えた、甲子園。初戦から白熱の試合展開ですね。その終盤に訪れたまさ…
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