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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第4章 大切な人たち
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 58 今日の日よ(2)

 兄はいつも優しく、オレや周りのみんなに気を使ってくれる。

 自分のことは後回しにしてでも、誰かのために一生懸命頑張れる。そんなひとだ。


 オレはと言えば周りを気づかってはいるつもりでも、結局は自分のことを優先してしまうような気がする。

 まだ本当に守りたいと思えるひとがいないからなのかもしれない。

 これも年齢を、経験を重ねるごとに変わってゆくものなのかもしれないが。


 兄貴はオレの憧れだ。

 いつかは兄貴みたいに、自然に相手のことを気遣える人間になりたいなと思う。





* * *


 野球ボールとグローブを持って、子供の頃兄貴とよくキャッチボールをしていた公園に向かう。

 懐かしさも相まって、気分が高揚する。


 兄貴とこんな風にキャッチボールをするなんて、本当に久しぶりだ。

 もうお互い高校生と大学生だというのに、まるで子供の頃にかえったみたいにはしゃいでいる。


 パーン


 グローブにボールが吸い込まれる音が、夕景にこだまする。


「お、なかなか上手いじゃないか。まるで高校球児みたいだ」


 兄貴がおどけて言う。


「高校球児ですけど」


 オレもおどけて返す。


「そうだったな」


 ハハハと笑い飛ばす兄貴にオレは言ってボールを投げた。


「最初に教えてくれたひとが良かったからね」


 パーン


 ちょっとばかし照れくさかったけど。


「お! それ、俺のことか?」


 パーン


「まあねー」


 パーン


 満更でもない様子の兄が微笑ましくもあるが、どうしても拭えない違和感というか、胸のざわめきを憶える。

 なにかひっかかりはするが、考えないようにと自分の気をそらすように、軽い気持ちで話題を変えた。


「それで、兄貴は優希さんに告白したの?」


 オレが言うと、兄貴は投げようとしていたポーズのまま一瞬止まり、ゆっくりと右手を下ろす。


「それな」


 切なげに見える兄貴の表情に、オレは聞いちゃいけないことだったのかと反省する。


 兄の少し茶色に染められた髪が、夕暮れの生暖かい風になびいた。


 髪の毛を染めてはいるが、兄貴は別にチャラチャラしている訳ではない。バイトだって頑張っているし、大学だってそこそこ頭の良いところに通っている。将来は大手企業に就職するのだろうか、それとも夢を追い続けるのだろうか。


「そろそろ帰ろっか」


 兄の言葉にオレは頷き、夕間暮ゆうまぐれの中、家へと向かった。


 途中、兄はひと言小さな声を発した。 


「気にかけてくれてありがとな」


 オレは考えなしに放った言葉を悔いた。


「夕飯のあと、聞いてくれるか?」


 兄はそう続ける。


「話したくなければ、ムリに話さなくていいんだよ」


 オレが言うと、兄貴は小さく微笑んだ。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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