144 新入部員
新入生歓迎会も終わり、我が姿薔薇紫高校野球部には32人もの新入生が入部した。オレのスピーチも少しは貢献できたのかな、なんて自画自賛してみる。これで総部員数81人と、なかなかの大所帯だ。
マネージャー希望者も男女合わせて5人、3学年で12人となった。
ほとんどの部員は応援に回るわけだが、それでもお互い助け合ってチーム一丸となり、目標に向かって力を合わせていく大切な仲間だ。
そしてスポーツ特待生として入学してきた『スポーツエリート生』でも、入学したからには、部活の練習がきついという理由で学業が疎かになることは許されない。
もし、成績が著しく下がってしまうと、クラブを辞めなければならなくなる。
みんなその種目をしたいがために名門の我が校の門をくぐるわけだが、成績が下がったからといって退部させられたら元も子もない。
地元の期待を背負って、全国から集まってきたのだから。
そう。文武両道。
オレはたまたまこの姿薔薇紫高校が地元にあったからよかったものの、地方からやってくる生徒は、寮生活をすることになる。
野球部81人の部員の中からレギュラーになれるのはほんの一握り。補欠に選ばれても万々歳だ。
まだ始まったばかりだが、途中で脱落する者もいる。夏の甲子園予選までに何人になっているのか。
野球をやると決めて入部したのだから、是非とも頑張ってほしい。
新学期が始まって練習時の見学者というか、フェンス越しに見ている人がやたらと増えた。
そんなに野球に興味を持ってくれる人が多くなったのかと思うと嬉しい。
部員達の放課後の練習にも力が入るというものだ。
3年生のオレは少し早めに部活を切り上げ、帰る支度をするためにベンチへと戻る。
受験勉強と部活、どちらも頑張りたいからだ。
「空、やたらと人が多くないか?」
「ああ、キャプテンもそう思う?」
「なんか緊張するよな」
「そうだな。でも野球に興味を持ってくれる人が増えて嬉しいよ」
そう言ってキャプテンと笑い合っているところに、つかつかとやって来て悟が言う。
「空の人気はすごいからな」
「は?」
「ほら、あそこの女子のお前を見る目、ハートになってるだろ?」
「ホントだ!」
「2人とも何言ってんだよ。んなわけないだろ」
「またまたご謙遜を」
「悟! 冗談もいい加減にしろよ」
もう本当に何言ってんだか。オレはそんなにモテないよ。
この2人にかかれば話がどんどん違う方向へ行ってしまう。
こちとら野球一筋十数年!
って何年って言い切っていないところがビミョーな感じだけど。
それに音楽もやってるから一筋と言い切れないところも……ていうのは置いといて。
とにかく。
夏の甲子園を目指して頑張ってるんだから。
とその時、不意に後ろから声をかけられる。
「な、夏野先輩っ!」
振り向くとそこには緊張気味の1年生。
「おう」
「あ、あの。まだ1年で技術的にもまだまだですが、一生懸命練習して、いつか夏野先輩と一緒に試合に出たいです」
なんと嬉しい言葉だ。
「えーっと、名前はお……」
「大山です!」
「知ってるよ」
「ほ、ほんとですか!」
オレは部員の名前と顔は必ず覚えている。たとえ新入生でも。
「チームメイトだからな」
ふっと笑みを零すと、大山は嬉しそうに背筋を伸ばして言う。
「ありがとうございます!」
「期待してるよ」
「はい! 頑張ります!」
そう言って一礼しグラウンドに戻っていく姿は誇らしげに見えた。
とその時、また後ろから声をかけられる。
「な、夏野先輩っ!」
振り向くとそこには緊張気味の、多分1年生だろうか。
「やあ」
3メートルほど離れたところで、もじもじとしながら何か話したそうにしている。
「あ、あの……」
「どうしたの?」
オレが1年生に聞き返すと悟が耳打ちしてきた。
「さっきフェンス越しに空のことハートの目でうっとりと見つめてた彼女だよ」
「え、まさか」
「間違いないな」
キャプテンの言葉に少し身構えてしまう。
「あ、あの。部活の後、一緒に帰りませんか?」
「え」
キャプテンと悟のにやけた顔がうるさい。
お読み下さりありがとうございました。
次話「145 何がどうしてこうなった(1)」もよろしくお願いします!




